人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

映画/アンテベラム

ツタヤで借りたホラー映画シリーズです。
2020年制作、アメリカの社会派スリラーホラーです。

 

 

 

 

 


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【あらすじ】
『アンテベラム』。
意味は『戦前』。アメリカ合衆国南北戦争以前のことを指す言葉。
アメリカ南部の綿花農場で、奴隷として虐げられる黒人女性のエデン。
アメリカの都会で、人種差別の研究者として名を馳せる黒人女性のヴェロニカ。
正反対の境遇に在る二人は、思いもよらぬ形で交錯する。

 

【ひとこと感想】
絶対ネタバレ厳禁、鑑賞後に恐怖がじわじわ襲う社会派ホラー。

 

※全力ネタバレです。

※未見の方は、 絶対に 作品を鑑賞してからこの記事をお読みください。

 

 

【3つのポイント】
①ネタバレ厳禁の最高峰
②『破』まではまったく怖くない
③『急』で恐怖のどん底

 

【①ネタバレ厳禁の最高峰】
世にネタバレ禁止の作品は数々あります。
『SAW』しかり『ゲット・アウト』しかり『パラサイト』しかり。
この作品もそうなのですが、ネタバレ厳禁の種類が異なります。

この作品の『仕掛け』を知らない状態で鑑賞して得た感想こそ、
制作陣が伝えたいメッセージだったのです。

なのでネタバレしてくる輩は蹴っ飛ばしても許されると思います。

(危険思想やめなさい)

(でもこんなふうに思ったのはミュージカル刀剣乱舞のにっかり青江単騎公演以来です(イッツ蛇足))

 

【②『破』まではまったく怖くない】
開幕は『1860年代』のアメリカ南部、綿花農場から。
とても綺麗な景色でした。鮮やかな緑色の草原、可愛いおうち、花を持った黄色いドレスの少女、綺麗に洗われて干されたリネン。

そんな美しい農場には、ひとつのルールがありました。

 

“黒人は、白人の許可がないとしゃべってはいけない“

 

そして綿花農場から逃げ出した黒人女性は、馬に乗った白人男性に追いかけ回され、首に縄をかけられました。羊のように。人間への扱いではなかった。

黒人を奴隷にして虐げる白人――
その凄惨な光景の中で、管理者のブレイク将軍に無理やり『妻』にされたのがエデンです。

場面変わって、『現代』のアメリカ都市部。
黒人、そして女性への差別を訴える、社会学者であり作家のヴェロニカ。
社会的な成功と夫と娘に恵まれた彼女もまた、世間にしつこく残るささやかな差別――軽んじられ、蔑まれていました。

ふたりの女性の日々が映され、決定的な『何か』はなかなか起こりません。

観客は「何が起こるのか、何が起こっているのか、ただ嫌な予感だけを与えられる」という状態が続きます。
この辺は、『ゲット・アウト』に通じますね。

ホラーらしい胸糞イベントはありました。

新しく農場に連れてこられたジュリアが、兵士のダニエルの相手を命じられて、ロマンスが始まる予感がしたと思いきや、「許可してないのに勝手に喋るな!」と暴行を加えられる。
その暴行のせいでジュリアは流産し、自殺する。

ヴェロニカも明らかにレイシストの女性に目をつけられたり、
「帰郷を待っています Xより」という(嫌らしい)メッセージ付きの花束を贈られ、果ては誘拐された。

地味にキツかったのは、『白人側』に幼い少女がいたことです。
少女は、ぬいぐるみや人形にするように拉致された黒人たちに名前をつけ、
ヴェロニカの前に現れて、「喋ると怒られるよ」と『忠告』します。

感覚的に、めちゃくちゃ嫌でした。
子どもが何故こんな残酷なことを。
この考え方や接し方は、親や大人から学んだのか。
こうやって差別感情は植えつけられるのか。
そしてずっと続いていくのか……など。頭を抱えます。

それでも、まだ決定的な『何か』は起こらず、この作品の『核』を掴みあぐねていると――

綿花農場の夜空にスマホの着信音が鳴り響き、飛行機が飛びました。

 

 

【③『急』の後で恐怖のどん底に】
瞬間、「え? 何これ?? ええ???」と大いに戸惑いました。

ネタバレ行きます。
実は『1860年代の綿花農場』は、
その150〜160年後、『2020年代の、差別の歴史を学ぶために設けられた再現パーク』だったのです。

つまり、
エデンのパートが『悲惨な歴史を描いた過去』で、ヴェロニカのパートが『それを経た未来である現代』ではなく、
ヴェロニカのパートが『過去の出来事』であり、エデンのパートが『現在の出来事』なのでした。

そしてエデンこそ、誘拐されたヴェロニカでした。

拉致されて、南北戦争ごっこをする場所で奴隷にさせられた理由は、彼女が黒人だから。ただそれだけです。

『黒人でしかも女』なのに、自分の意見を堂々と言う。
それが耐え難いほど許せない連中がいる。
ヴェロニカに、「口をつぐめ」「しゃべるな」「自分は綿花を積むことことしかできないのだと認めろ」と強いる人間がいる。

そんな事実を、これ以上ないくらい強烈に突きつけてきたのです。
作品の仕掛けによって。

 

【まとめ:鑑賞中に自分が感じたもの】

( ・⌓・)<完全にしてやられた――……

というのが率直な感想です。

いやだって私、普通に思っていたんですよ。
エデンのパートの差別・虐待・暴行の描写を、「うわ……嫌だな、こんなことが本当に起こっていたんだな」と!
完全に過去の出来事、『歴史』だと思っていたんです。
何なら、「エデンはヴェロニカの前世?」とさえ思っていました。

でも違った。
これが後からじわじわキました。

特にジュリアを殺したダニエルと、白人少女のターン。
最低な胸の悪さ、凄まじい恐怖を覚えました。

差別は完全に無くなりはしてないけれど、昔よりは改善されたと思っていたのに。
ダニエルなんていい大人なんだから、黒人差別は人として恥ずべきことだと理解しているだろうに。
でも環境が許せば、1860年代の白人兵士と同じような思考になり、同じように黒人を虐げたのです。

( ・⌓・)<エグくない???
(※率直な感情)

ここで作品のキャッチコピーを。

 

“この悪夢は、本物”

 

最後まで観ると、これ以上ないキャッチコピーです。

確かに本物だった。
差別はいまだに生きていた。環境さえ許せば、あっけなく150年以上前に人々の意識は戻る。

そうして冒頭のメッセージに綺麗につながります(すごい)。

 

“過去は決して死なない。過ぎ去りさえしないのだ”

 

 

【おまけ:お気に入り部分】
収穫した綿花を燃やしていた点。

「なんで燃やすん?」と思っていたら、最後は「そら燃やすわ……」と手を打ちました。

次点は、エデンが妙なステップで将軍ちの床を歩いていた点。

( ・ω・)<伏線すごい。

 

 

最後に。
拉致監禁され、名を奪われ、何度も虐待・暴行されたのに決して諦めず、脱出と復讐の機会を辛抱強く窺い続けた、ヴェロニカという女性の強さに敬意を表します。

(火葬小屋に司令官たちを閉じ込めて火をつけて、松明を片手に立ち去る姿がかっこ良すぎた)

(ちなみにこの作品もやっぱり最後は拳によるガチンコ勝負だった)

(……強くなりたい!)

 

 

次回は9月5日月曜日、
2021年制作、アメリカのスリラーホラー、
『マリグナント 狂暴な悪夢』の話をします。

 

 

鳥谷綾斗