人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

映画/パラサイト 半地下の家族

アマプラで観た映画シリーズです。
2019年制作、韓国のブラックコメディスリラーです。

 

ちなみに2回目の視聴です。いやー楽しかった。

 

 

 

 


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【あらすじ】
家族全員失業中のキム一家は、半地下の家で暮らしている。
ある日、長男のギウは友人から家庭教師の仕事を紹介される。
ギウは身分を偽装し、高台の豪邸に住むパク一家の元へ行く。
キム一家は、あの手この手でパク一家に『寄生』しようとするが……?

 

【ひとこと感想】
起承転結の『転』が本当に『転』、前半後半の温度差が凄まじい激重ヒューマンドラマ。

 

※全力ネタバレです。
※未見の方は頼むから先に観てください。

 

【3つのポイント】
①『起』と『承』は軽妙なテンポのコメディ
②『転』で転がり落ちる。
③凄惨すぎる『結』。

 

【①『起』と『承』は軽妙なテンポのコメディ】
映画の脚本は基本的に『序破急』なんですけども、こちらは完全に『起承転結』でした。

ギウが家庭教師となってパク家に入り込むのを起点に、妹のギジョンは美術系の家庭教師、父のギテクは運転手、母のチュンスクは家政婦として、策を弄して侵入します。
具体的には 🩲パンツ🩲 と 🍑🍑 を使って。

( ・ω・)<よくもまあこんなペラペラと嘘が出てくるな???

と感心しました。
一連の流れが実に秀逸で、

人物描写=『キム一家は決して能力が無いわけではない』
状況描写=『それなのに貧困に陥っている』

という2種類の描写が表現されています。
計画性が無いと自認する家族が、とんでもなく大胆で繊細な『計画』を立てて、どんどん成功して目的を達成する様は観ていて非常にワクワクしました✌️

 

【②『転』で転がり落ちる】
主に奥様のヨンギョの天然っぷり(※オブラートに包んだ表現)のおかげで、見事に侵入を果たしたキム一家。

ある日、パク一家は息子のダソンの誕生日にキャンプに行き、母が留守を任されたのをいいことに、キム一家は家族水入らずでバカ騒ぎをします。

そこへ現れたのが、一家が桃で追い出した前任の家政婦・ムングァン。

はい、ここから急『転』直下です。
ここまで見事な起承転結の『転』はそうそう無いです。

今まで見てきたものが一気に流転するこの感じ。

その時の正直な気持ちを一部抜粋。


「人感センサーちゃうんかったんかい……!」

「ああそうか……韓国ってその家に住んでいる人の姿絵を飾るもんね……」

( •᷄ὤ•᷅)<えぇ……(混乱)

そしてコメディからも一転。
今までじわじわと、画面の端で描写されていた現代の格差社会を目に焼きつかせようとします。

キム一家は一気に転がり落ちます。

高台の綺麗で安全で清潔なお屋敷から、汚物まみれの下水が逆流した、生活スペースよりもトイレの位置の方が高くて便所コオロギと一緒に消毒される半地下の住処に。

本人たちには自覚できない、古い切り干し大根のような煮出した布巾のような、地下鉄の乗客からよく感じられる、何とも言えない『におい』が体に染み込む半地下に――ほうほうの体(てい)で帰っていきました。

……ここでキム一家とパク一家の間に、決定的な亀裂が入ってしまった、と思いました。
それと同時に、『貧』と『富』の圧倒的な差を見せつけられました。

キム一家とムングァンたちの壮絶な(面白いけど)スマホ争奪バトル、パク一家はたった一本の電話で終わらせたのです。

 

ヨンギョ:「チャパグリを作れますよね?」

 

このセリフがまた凄絶。

普通ならここ、「今から帰るけど」という前置きがあるはずなんですよ。「キャンプは中止になったので帰る。夜食を作っておいて」みたいな。
なのにヨンギョはごく普通に、要求だけを端的に言った。怖い。

ものすごくアホみたいだけど必死で、どこか切なく、そして身につまされる『貧乏人』どもの争いを、『金持ち』は強者の余裕で、完全に無意識で「そっちの都合なんて知ったこっちゃねえ」とストップさせる。怖い。

 

ヨンギョ:「すぐお湯を沸かしてね。ファイティン!」

 

素で、万事が自分の思うとおりに(※『思い通り』ではないのがポイント)なると考えている。本気で怖い。

チャパグリやソファでのイチャつきで、「富裕層も貧困層も結局は同じ人間だ」というのは表現されてましたけど、
やっぱり違うんやん……と静かに絶望しました。

 

【③凄惨すぎる『結』】
翌朝はバカみたいな上天気で、パク一家はダソンの誕生パーティーを催し、本来なら休暇のはずのキム一家を呼びつけます。
ここからパク一家の一挙一動がやたら鼻につくのがすごいです。洗脳完了してましたねアレ。

そこからは血だらけです。
富裕層も貧困層も、血の色は同じでした。

同じ人間でした。

同じ人間なのに。

何が悪かったのか。
キム一家は優秀だった。家庭教師もできて、デザインもできて、運転技術も家事も売り物になるレベル。
パク一家は決して悪い人たちじゃなかった。ギテクの話をする時も、『臭い』とは絶対に言わなかった。
ムングァンとグンセも、気持ち悪かったけれども必死に生きていて、お互いを想っていたのは分かる。
全員、間違いなく仲の良い家族だったのに。

幼いダソンにしか伝わらなかったSOSが悲しかったです。
今までダソンの言葉も掬い取られなかったことも含めて。

 

【まとめ:それでも最後に残ったのは『計画』】
凄惨な結末でしたが、それだけじゃ終わらなかった。
それがこの映画の、もっともよかった部分だと思います。

半地下に逃げ込んだ父親の手紙が、息子に届いてよかった。
無謀な夢だとしても、ギウが陽射しを求めてくれてよかった。

 

ギウ:「父さん 今日計画を立てました」

 

作中に何度も出てくる『計画』という言葉。
これは『目標』であり、つまり『希望』なのだと自分は解釈します。

この鑑賞後感は大好きな『ゲット・アウト』に通じます。
映画なのでね。最後は希望で結んでほしいんです。

(ただ、パク一家側のその後がないことは残念でした)

(パク社長を喪ったあの家族、とりわけヨンギョはどうやって生きていくんだろうか)

(難しくても力強く生きていってほしいと思います)

 

いやはや2回目視聴、実に楽しかったです。
初見では謎だった、ソファのシーンのヨンギョの「ドラッグを買って!」も理解できましたし。
(あれは分かりやすく言い換えるなら、「(安いパンティで興奮するんなら)ドラッグも買わなきゃね(笑)」だったんですね。これも格下を小馬鹿にする描写ですね)

 

次回は3月21日月曜日、
1973年制作、アメリカのオカルト映画、
エクソシスト』の話をします。

 

 

 

鳥谷綾斗