アマプラで観たホラー映画シリーズです。
2018年製作、アメリカの家族系ホラーです。
【あらすじ】
老婦人・エレン=リーが死んだ。
喪主を務めるのは、折り合いが悪かったドールハウス作家の娘・アニー。夫、長男、長女と暮らしている。
エレンの墓が荒らされた日から、次々と家族に災厄が降りかかる。
アニーの母親が遺し、彼女たちが『継承』したものとは何なのか?
【ひとこと感想】
実はハッピーエンドかもしれない侵食系ホラー。
※全力ネタバレです。
【3つのポイント】
①何系のホラーなのか掴みにくい
②暴走していく母親の恐怖
③「祖母の影が薄い?」とか思っていたら
【①何系のホラーなのか掴みにくい】
一口にホラーと言っても種類はあります。
スラッシャー(ジェイソンなど系)、オカルト(エクソシストなど系)、心霊(雑に言うとJホラー)、ヒトコワ(感想の最後に『結局は生きている人間が一番怖いんだよね』で〆られる系)など。
さてこの作品。
あらすじを読んだ時点では、ばーちゃんの霊が何かする(心霊)系だと思いました。
しかし冒頭の(やたらと弔問客が多い)お葬式以外では、登場人物の語りにだけ登場します。
代わりに、アニーの家族に不幸が襲いかかります。
ミッドポイントとなるのは長女・チャーリーの事故死。
この流れが非常にえげつない&スリリング。
クサでトンだ(俗語表現)長男・ピーターの運転ミスで、女の子のちいさな頭が吹っ飛ぶのです。
しかも兄は自分の目で確認するのを恐れ、自宅に帰り、妹の首無し死体を乗せたままの車を放置します。
翌朝、晴天の下で、無数の蟻にたかられるチャーリーの頭部。母親の悲鳴。
こんな画(え)をよく思いついたな&よく撮ったなとドン引き(感心)しました。
アニーの精神状態は一気に危うくなります。
ここで、「この作品は、人間――母親という子どもに最も影響を与える立場の――が壊れゆく恐怖を描いた作品か?」と直感したのですが。
微妙に外れました。
結論から言うと、この作品のジャンルは『オカルトホラー』でした。
宗教色が強く、しかし恐怖のポイントは前述のコレ(↑)なので、直感はあながち間違ってもいない……ような。
【②暴走していく母親の恐怖】
母に続き、娘を亡くしたアニーは追い詰められ、互助会で自らの『畏れ』を吐露します。
自分の父親は餓死し、兄は統合失調で自殺(※)をし、最近死んだ母親は解離性同一性障害と認知症で、高圧的な言動でアニーを抑圧してきた。
これに加えて息子はハッパの常飲者(※)。生き地獄やんと心がキッツくなりました。
とうとう彼女は、『チャーリーが死んだ事故現場』を再現したミニチュアを作ります。
スティーヴン(夫)「嘘だろ、アニー」
( ・⌓・)<まじで嘘だろアニー。
いくら箱庭療法で自分を救うためとはいえ、息子を追い詰めるようなものをなぜ作るのか。
さらに互助会で知り合った女性・ジョーンに交霊会の方法を教わり、夫と息子を巻き込んで『チャーリーの霊(仮)』を呼ぶ。
話が進むにつれて浮き彫りになっていく、アニーの『異常さ』。
(ていうかあの家族、マトモなのは夫のスティーヴン氏だけです)
アニーは、家族への愛は確かに深い。
その愛が悪い方へ悪い方へ流れていく様は、観ていて落ち込みました。
『こういう気質』は親から子へと受け継いでしまうのかもしれないと、常に不安を抱えるアニー。
『継承』ってそういう意味なのか……と思ってたら、
そうではなかった。
彼女らが受け継いだのは、もっと恐ろしく強大なものでした。
【③「祖母の影が薄い?」とか思っていたら】
完全ネタバレですが、すべてはばーちゃんが孫息子のピーターに悪魔ペイモンを取り憑かせるための策略でした。
(余談ですが洋画ホラーならではの真相だなーと。日本じゃあまり見かけない仕掛け)
アニーはまんまと引っかかってしまったのです。
親愛なる隣人と信じたジョーンの罠に。
実の母親・エレンが数十年単位で作り上げた蜘蛛の巣に。
ばーちゃんの影が薄いと思いきや、そんなことはなかった。
ばーちゃんがチャーリーを特に可愛がっていた(自分のお乳をあげようとしていた)(でも男の子になればいいのにとも言っていた)というほっこりエピソードすら伏線で、すべては彼女の掌の上。
目的を果たし、悪魔をこの世に復活させることに成功し、
悪魔信仰の信者(すっぽんぽん多め)から『王妃』と呼ばれ、
完全勝利を果たしたエレン・リーという女性は、間違いなくこの物語の中心人物でした。
あまりの手腕に少々混乱し、
「つまりこのばーちゃんは孫息子と夫婦関係になったってことか……? 怖……?」
と、あさっての方向に飛んだ感想が出てきました。(謎)
【まとめ:家族の物語として観るとハッピーエンド?】
クライマックスは大必見です。
悪魔信仰の手先となったアニーは、ピーターを追い詰めます。
天井に張り付いたり戸棚から出てきたり息子を追いかけ回したり糸鋸を引いて自らの首をゴリゴリゴリゴリと切り落としたり。
今までの陰気さが嘘のようなアクロバティックさです。(最高)
アニーは自らの首と命を捧げて、息子の体を悪魔復活の依代にした――この結末を見て、自分は思いました。
( ・ω・)<……これ、ハッピーエンドでは?
考察や監督のインタビューをネサフで読みましたところ、
〝不幸によって家族の絆が強まること。それは嘘ではない。
けれど、不幸が起こってそこから立ち直れない人たちがいるのも真実。自分は後者についての映画を作りたかった〟
(※意訳)
アニーの家族は、間違いなく後者です。
現実のミニチュアを作って俯瞰したつもりになっていたり、悪魔を信仰したり、クスリに依存したりと悲しいくらい弱く、そしてどこにでもいる小さな家族です。
そんな家族が、知らなかったとは言え、協力しあって――祖母が土台を作り、母親が環境を整え、娘が繋ぎをし、息子が依代となり――
悪魔ペイモンをこの世に復活させる。
という、一部の人間にとっては賞賛と祝福すべき『偉業』を成し遂げたのです。
結果と方法はどうあれ、
家族が協力しあって大きなことを成し得た。
ある意味ではハッピーエンドではないでしょうか。
ただ残念だったのは、夫であり父親であるスティーブン。
彼は最後まで『境界線の向こう側』の人間でした。
ですがこのやるせなさも、ホラーとしては最高の味付けだと思います。
【おまけ:お気に入り場面】
①アニーの首が落ちることを音だけで表現。
(音量控えめなのが非常に素晴らしい)
②首無し死体がワイヤーアクション。
(アニーの死体が悪魔の儀式の会場である屋根裏部屋に浮いて移動していた)
③ラストカットはドールハウス。
特にドールハウス。
アニーの箱庭療法のためのアイテムかと思いましたが、ちゃんと意味がありました。
あれは人間ではない存在の示唆――悪魔の目線から見たものなんですね。
アニーが自分が作ったドールハウスを覗き込み、好きなように手を加え、興奮してぶっ壊したように、
絶対的な、人ではない存在の前では、人間はただ無力だという隠れメッセージだった。
つまり伏線です。これはやばい。面白すぎる。再鑑賞しよ。
(②の項でつけた※マークも伏線です)
次回は11月22日月曜日、
2020年制作、アメリカのホラー、
『ミッドサマー』の話をします。
鳥谷綾斗