人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

映画/痩せゆく男

ツタヤで借りたホラー映画です。
1996年制作、アメリカのオカルト精神汚染ホラーです。

 

 

 

 


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【あらすじ】
ビリーは、体重135キロの悪徳弁護士。
悪質な過失でジプシーの老女を轢き殺すが、ジプシーを差別する彼は検事と署長を丸め込んで、事件をもみ消す。
だが後日、その老女の父親であるジプシーの頭(かしら)、レムキに「痩せてゆく……」と呪いをかけられる。
それ以降、彼の体重は猛スピードで落ち始める。

 

【ひとこと感想】
人間性は元から薄いが体と共により人格が薄くなるのが怖い、不健康ホラー。

 

※全力ネタバレです。

 

 

【3つのポイント】
①実にシンプルな恐怖
②どちらの味方もできない
③完璧に最悪の結末

 

【①実にシンプルな恐怖】
個人的見解ですが、
ホラーを摂取する上で大事なことがあります。

( ・ω・)<あるんです。

曰く、『この作品に触れて得られる恐怖を、具体的に想像できるか』

その上で、この作品はものごっつぅすんなり理解できると思います。

ある日突然、勝手にどんどん痩せていく。
食べているのに痩せていく。
『食えば太る』という至極当然な、常識を通り越した真理のようなものから外れると、

人は壊れてしまう。

(「幽霊が怖いのは『人は死んだらこの世からいなくなる』を否定しているから」がこれの応用かと)

初期は何もしないのに痩せていって、
「やだもぉまた痩せちゃった〜? またイケメンに近づいちゃう〜>< もぉ〜〜〜チキンとポテト食べちゃお!✩ミ」とはしゃぐのですがそんなもの一瞬で消える。

数日で7キロ、2週間で18キロ、1日12,000キロカロリー摂っているのに痩せてゆく。
それから逃れようと食べ物を詰め込むビリー(人ががっつく姿、嫌悪感が凄まじい)は、最愛の娘リンダと別居する羽目になります。

「究極のダイエットは呪いだったのか🫢」と恐怖のあまり感想が平和になります。

そう。呪いです。
ビリーが殺した老女スザナの父親、ジプシーの長であるレムキは、他にも呪いをかけていました。
「トカゲ」と言われた判事は、皮膚がめくれてウロコのようになり――変貌していく判事の様子を訴える彼の妻は、鬼気迫っていて非常に怖かった。

同じく署長も。彼は呪いをかけたレムキを殺せと銃を渡そうとします。
ビリーがそれを拒むと、彼はそれで自らの頭を撃ちました。

彼ら彼女らのぶっ壊れ具合が、とにかく怖かったです。
(自殺が銃声だけで表現されたのもすごい)

 

【②どちらの味方もできない】
もうひとつの特徴としては、だいたいみんな外道な点です。

いい子なの娘のリンダだけです。

まずはビリーの輝かんばかりのクズさが描写されていました。

 

ハイディ(妻):「スプーンで墓穴を掘ってるも同然だわ」

 

とオシャレにディスられるレベルで食いしん坊。(そんな可愛いものですか)
そのハイディも運転中に夫の股間にイタズラ(そんな可愛いものではない)をして、事故の原因を作ります。

こう書くと、レムキたちが一方的に差別されているようですが、
ビリー側とレムキ側=白人側とジプシー側、どっちにも問題がありました。

レムキの孫娘は、街中でビリーにパンツを見せて誘惑し、彼が鼻を伸ばした瞬間、中指を立てて煽るオンナでした。猥褻物陳列やめてください。

遊園地のショーで、わざわざビリーを模した人形を使ってねちっこく追い詰め、武器を持って追い回す陰湿っぷりです。

果てはビリーのズッ友ジネリ(マフィア)が監視のために雇った青年を殺します。
死体の鼻を削いで謎に口にぬいぐるみを突っ込んでました。そこまでせんでええやろ案件です。

かと思いきやそのジネリが、レムキたちの集落に夜襲をかけて銃を乱射し、同士討ちまでさせました。

もうめっちゃくちゃです。
倍返しの連続で、とうとうレムキはビリーと直接話すことを決めます。

 

【③最悪の結末】
レムキは、100キロ近く減量して枯れ木のような姿となった仇と、並んでベンチに座ります。

呪いを解く方法は、パイに呪いを移して他人に転嫁すること。
(ここで血を出させるために手の甲を貫くのに愕然😨 油断していたので、貫通しとるー向こう側見えとるーと慄きました🫨)

レムキは告げます。

 

レムキ:「良心があるなら自分で食ったらどうだ。
     綺麗な心で死ね。町の白人よ、心を汚すな」

 

自分の罪を認め清算せよ、と詰め寄ります。
けれどビリーは、妻のハンディにパイを食わせました。
ハンディが不倫をし、邪魔な夫を精神病院にぶち込もうとしていると思い込んだから。

ビリーは囁きます。

 

ビリー:「町の白人女よ」

 

健康のためにダイエットを促し、ずっと自分を支えて誰より心配してくれていた(浮気は真偽不明、事故の原因はなかなか認めませんでしたがそれはともかく)妻に、そう吐き捨てます。
レムキの言葉をなぞらえて。

しかし翌朝、パイのソースで汚れたお皿は2枚ありました。
娘のリンダも食べたのです。

 

リンダ:「大好きよ」

 

そう言い残して笑顔で出ていく娘に、ビリーは絶望します。

すみません、正直「(# ゚Д゚)<バーーーーカ!」って思いました。
因果応報が最悪の形で顕現したじゃないか、と頭を抱えました。

けれどビリーは、
自責するのも束の間、浮気相手(と思い込んだ)友人の医師が訪ねてきて、自らパイを食べるのをやめてしまいました。

そして彼を中に招き、パイを食べようと誘います。

 

ビリー:「どうぞ、町の白人先生」

 

【まとめ:ホントウの呪いは?】

( ・⌓・)<いやー……

徹頭徹尾、一片の希望もない最悪のラストだった。
(思わず噛み締める)

なんて見事な呪いだろうか。
ラスト、ビリーには『レムキ』が完全に乗り移っていた。
『痩せてゆく』という想像しやすい恐怖を遥かに凌ぐ、鮮烈で冷たい余韻を残す最後でした。

 

【おまけ:印象残留場面】

お気に入り:
呪いと血を吸った究極のダイエット食品となったパイが、生き物みたいにポコポコうごめくところ。

しょんぼり:
犬に毒入りの肉を食わせる場面があるのでそこは注意です。

 

 

次回は2月19日月曜日、
2022年制作、(うちの可愛い姪っ子に教えてもらった)日本のモキュメンタリーホラー、
『憑 -カカリ-』の話をします。

 

( ・ω・)<原稿執筆のためまたお休みしま!

 

 

鳥谷綾斗