アマプラで観たホラーです。
2021年制作、フランスのブラックコメディホラーです。
【あらすじ】
閑古鳥の精肉店を営む夫婦、ヴァンサン(ヴィンセント)とソフィ。
ある日、過激派のヴィーガンたちに店を破壊される。
後日、その犯人の一人をうっかり轢き殺し、思いつきでハムに加工し、誤って売ってしまったら『イランの豚』という名で大ヒットしてしまった。
【ひとこと感想】
グロさをブラックな笑いで消化する、明るいカニバホラー。
※全力ネタバレです。
(※犬は出てきますが最後まで元気です)
【3つのポイント】
①ヴィーガンの憎たらしさ
②何事も2回目は難しい
③加速するサイコパスっぷり
【①ヴィーガンの小憎たらしさ】
『明るいカニバホラー』って何その地獄、不謹慎にもほどがあるってなもんですが。
(ドラマ毎週観てます)(3話は推しぴが出てました)(MCおじさんに6股かけられるイケメン気象予報士の役でした)(余談)
やけに青い空や外のロケーションが似合う殺害シーン、ヒップホップ調のBGM、ポップな人肉調理が楽しかったです。
そんな感想を持たせる要因は、『ヴィーガンの小憎たらしさ』。
ヴィーガンは完全菜食主義の意ですが、本作は『迷惑系活動家』の要素が濃いめ。
SNSが育てた、『自分の主義主張は絶対正義でそこから外れる人間は愚かな悪でありそれを分からせるためには実力行使も辞さない』怪物だらけでした。
二人の娘・クロエの彼氏リュカを代表する、『ヴィーガン』たちのやばい発言の数々――
・肉を食べた人とはキスできない。
・ヴィーガンワイン以外は虫やナメクジの血が入っているから、シャトー・アウシュビッツに変えるべき。
・チーズは乳製品。我が子のための母乳を奪われたらアナタどんな気分になるの?
・玉子はダメ。ひよこ可哀想🐣
・牡蠣にレモン汁は残酷だ。自分の目にレモン汁を入れられたらと想像してみろ!
( ・⌓・)<何食って生きてんの!?
思考がアンタッチャブル過ぎて異次元すぎて、
「この人たちは同じ人間なのか……!? 」とすら思いました。
けれどたぶんそれが狙い。
『ヴィーガン』を、話も心も通じない感じにすることで、『人間』のカテゴリーから外す。
そうすれば家畜と同様、殺して食べてもいい存在になる。
解体時は全裸にすることでさらに『人間性』を剥奪。
うまいことやりおったな、と。
自分はカニバホラーにおいて『人肉は絶対にまずいやろ』派なんですが、
この作品においては、肉も魚も乳製品もはちみつも拒絶する人々は、「たしかに普通の人肉とは違う味かもしれんな……」とか思いました。
(※ホラー映画常時摂取による認知の歪みです)
(というか必要以上にベラベラ喋るヴィーガンたちを見て思ったんですが)
(もしかしてこの人たち、主張があるというよりも、とにかくただ語りたいだけかもしれない)
(文句をつけたいだけというか。「俺の話を聞け! そのためなら破壊行為も暴力行使もやむなし!」的な)
(まあ印象に過ぎない意見です)
【②何事も2回目は難しい】
そんな小憎たらしいヴィーガンを、ヴァンサンはうっかり轢き殺して、嫁のソフィーに唆されて解体処理して隠蔽することに。
その肉をワンちゃんがペロムシャ。
それを見てヴァンサンはハムに加工。(なんで?)
するとあーらびっくり、「めちゃうま!」と大ヒットして、町の警察官も常連になりました。
面白かったのは、2回目の仕入――2回目の殺人までがとても長かったこと。
葛藤や失敗があり、ヴァンサンがごく普通の凡人であることを示しています。
その必死な努力がまた笑いを誘います。コメディの基本ですね。
それを鼓舞するのがソフィーです。
ソフィー:「(人肉ハムと知っても)美味しかった」
:「完全犯罪よ」
:「大げさだなー」
( ・⌓・)<カニバを「大げさ」って言い切る人初めて見た……
えらいサイコパスやな、殺人鬼の紹介動画ばかり観てるからか?
――と思ったんですけど、彼女は殺人はしない。
口だけ出して、食材となった後の人肉の加工だけするんですね。
だからいまいち自分事にならない。
この無責任さも、人間みを感じました。
ソフィーのお膳立てと嫉妬の勢いがあった2回目の殺人まで、なんと約38分ありました。
何事も2回目は難しい。
1回目は勢いでなんとかなりますが、2回目はそうはいかない。偶然ではなく必然することの難しさ。
余談ですが、これと同じ現象が『作家の2冊目』です。(闇を孕んだ瞳で)
【③加速するサイコパスっぷり】
しかし『殺人行為』に限っては、2回目が終われば後はもうシステマティックに進められます。
もらったライフルを活用し、ノリノリでヴィーガンを殺して、調理場でハムと食肉加工。
タトゥー入りの腕がミンチ粉砕機に吸い込まれていく様がまたグロポップ。
人体の一部で肩ポンして遊んだり、一物をワンちゃんに与えたり。(まさかの伏線)
青空の下、爽やかな風が似合う堤防で射殺したり。
ポテトグラタンの話をしながら、断末魔のうめきを上げる被害者に、「うるさい!」とトドメを刺す。いやはや悪魔ですね。
ウザ絡みするようになり、ヴィーガンと分かったら スンッ……と真顔になるのが怖い。
逃げられたら「話せば分かる!」と追いかけるのも怖い。(分かるかい)
チーター、アナコンダ、ワニ、ヒョウ、ライオンの捕食シーンさながらの殺戮は、彼らの人間性の喪失を示唆してました。
ペースメーカーと共に懸命に生きていた青年ウィニーを殺した後、
とうとう9歳の子どもすら肉に見えてしまい、ヴァンサンは自己嫌悪に陥ります。
【まとめ:夫婦再生ストーリーだった】
娘の彼氏リュカのヴィーガン側の意見も聞き、ますますヴァンサンはドツボにハマります。
人間性ってなかなか無くせぬものだ、と思いきや、
とっくに人間性を失った人々――過激派ヴィーガンがソフィーを襲います。
ここでソフィーに大きな変化が起こりました。
「私は殺してない」と夫に丸投げして、見ているだけだった彼女が、夫を守るために殺人に手を染めたのです。
最初は生活苦から冷えきった関係だった。
けれどハムのおかげで、人肉加工が 🩷イチャラブ共同作業🩷 になった。
仕入の狩りで意見が食い違ったこともあったけど。
めでたく夫婦揃って殺人鬼となり、
二人は抱き合うのでした。
まあラストは普通に捕まりましたが。
(ちょっとホッとした。きちんと倫理観があったぞこの映画!)
仲良く裁判を受け、30人をハムにした彼らの努力再生物語は幕を閉じました。
(取り戻したいもの=ウィニーだったのは意外)
【余談:フランス流の嫌味がパネェ】
同じく精肉店を営み、何店舗も持つお金持ちの友人夫婦・ステファニーとマルク。
何気にキーパーソンだった彼らの嫌味が、ゲスすぎて清々しかったです。
ステファニー:「最近(夫に)何か買ってもらった?
高い安いの問題じゃない。
これ、マルクが買ってくれたんだけどシルクで400ユーロしたの。
あなた綿のTシャツでも買ってもらったらぁ?」
逆に笑うわこんなの(笑)
見る分には決して嫌いなタイプではない。
絶対途中でやられるだろって思いましたけど、コンセプトに反するのか無事でしたし証言者になりました。
(等身大フォト看板の下り(未遂)もやばい💩)
【おまけ:しみじみ思った点】
ソフィーが誘った、2人目の食材である男性。
最初は浮気っぽかったのに、ヴィーガンと知るや否や、彼女の切り替えっぷりが見事。
ソフィー:「男? イラン豚よ」
性欲よりも食欲が勝った瞬間であった……
( ˘ω˘ )
次回は3月19日火曜日、
毎年恒例、デビュー作発売記念日をお祝いして、
『元気になりたければサメ映画! 海に現れないサメたち4選!』の話をします。
鳥谷綾斗