人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

映画/返校 言葉が消えた日

ネトフリで鑑賞したホラー映画です。
2019年制作、台湾のホラーミステリです。

 

 

 

 


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【あらすじ】
1962年、国民党の独裁政権下の台湾。
市民は「共産党のスパイを密告しろ、隠したら死刑だ」と強制されていた。
翠華高校に通うファン・レイシンは、放課後目覚めると、学校から出られなくなっていた。
後輩のウェイと合流し、どうにか脱出しようとするが……

 

 

【ひとこと感想】
ホラーゲームらしさと叙情的で物悲しいラストが印象的な、時代がもたらした疑心暗鬼ホラー。

 

※全力ネタバレです。

 

 

【3つのポイント】
①ホラーより恐ろしい時代があった
②ゲームの実写化っぽい展開
③どんな時代でも同じだった

 

【① ホラーより恐ろしい時代があった】
時代は1962年。
台湾が思想統制と禁書制度を施行していた時代です。

 

テーマである『白色テロ』 #とは

 

台湾(中華民国)において白色テロ(はくしょくテロ、白色恐怖)とは、二・二八事件以降の戒厳令下(英語版)において中国国民党政府が反体制派に対して行った政治的弾圧のこと[1][2][3]。1987年戒厳令が解除されるまでの期間、反体制派とみなされた多くの国民が投獄・処刑された。
weblio辞書より引用)

 

自由にものを考えることを制限され、
好きな本を読むだけで殺される。
異なる考えを持つ者を差し出せと強いられ、匿えば死刑。
そんな異常なことが当たり前とされる時代でした。

舞台である翠華高校は、男子も女子も全員同じ髪型で同じ服装。
帽子の角度すらチェックされ、見ているだけで息苦しい光景――それはかつて本当にあった『現実』だった。

作中、ある少年が涙ながらに訴えます。

 

「本を読んで何が悪い?」

 

ホラー映画なんかより何倍も恐ろしい、逃げられない現実がありました。

 

【②ゲームの実写化っぽい展開】
全体的な印象としては、『ゲームの実写化だ!』でした。

舞台は異空間。
学校のはずなのに、誰もおらず荒れ果てて、見知った教師を見かけても幽鬼のようで、呼びかけても振り返りもしない。

赤い蝋燭に火を灯して探索する。
主人公のファンがウェイと合流して、学校の外に出ようとしたけれど、地面が割れて濁流が流れていた。

他の仲間と出会えても、恐ろしい化け物に殺される。

完全に、脱出コンセプトのホラーゲームの文脈でした。
ちなみに化け物=逃走&討伐対象のクリーチャーは、

『提灯を持った軍服姿のスレンダーマン』

という感じ。なかなか怖かったぞ。

真実が明かされる一連の流れがまた怖い。
電灯が揺れ動くのに合わせて、ウェイが所属する秘密読書会(禁書を読んで「人は生まれつき自由であるべきだ」と学ぶ会)のメンバーが消えて、代わりに遺影が現れる。
まぎれもなく悪夢でした。

さらに『ズタ袋』が強烈すぎて夢に出そうです。
これは戒厳令下で生きる人々のメタファーです。
自由思想を奪われた人々は、政府が強いる思想に少しでも違反したら、家畜のように連行され、拷問を受け、ズタ袋を被されて銃殺される。

ズタ袋人間だらけの体育館の正面には首吊り死体が揺れ、
ズタ袋人間だらけの映画館の正面には死刑シーンが上映される。

怖かったです。(恐怖が過ぎて率直になる感想)

 

【③どんな時代でも同じだった】
何故、ファンとウェイがこんな目に遭うのか。
真相を解き明かすヒントは、『密告』でした。

「こいつは禁書を読んでいるぞ」と政府に告げれば、即座にその人物は連行され拷問され処刑されるシステム。

ファンはそれを逆に利用しました。
邪魔者を消すために、秘密読書会の存在を密告したのです。

①ファンは、男性教師チャン先生と恋仲だった。
②しかし、女性教師・イン先生にバレて清算するよう言われた。
③チャン先生がよそよそしくなったと感じ、ファンは彼が自分を裏切ったと思い込んだ。
④元凶のイン先生を排除しようと、彼女が開く秘密読書会を通報することにした。
⑤自分に好意を持つウェイを利用して禁書を手に入れ、密告した。
⑤ところがどっこい、チャン先生も関係者だった。
⑥全員捕まり、ウェイとチャン先生以外は殺された。

この学校によく似た異空間は、
死者と生者が交わる場所だった――というわけです。

正直に言うと、この真相には驚きました。
てっきり弾圧に負けずに戦ったけれど無念の死を遂げた人々の未練や恨みなのかと思いきや、事の発端がまさかの色恋沙汰。

うまく言えませんが、どんな時代でも人間がキレる理由は変わらないんだなぁと思いました。

(しかし、少女の小さな怒りがこんな大事になったのは、やはりこの恐ろしい時代のせい)

(ところでファンとチャン先生のバカップルっぷりはよかったです)

(紙に描いたピアノで一緒に歌うの可愛かった)

(そんなほのぼのの後で、ファンの母親が父親を売ったの地獄。そら壊れるわ)

 

【まとめ:言葉は消えなかった】
すべてを思い出したファンは、せめてウェイだけは助けることを決めました。

彼女のおかげで元の世界に戻ったウェイは、拷問で受けた痛みに呻きながら訴えます。

 

ウェイ:「話す。全部話す」
    「何を言われてもいい。僕は生きたい」

 

銃殺刑を免れたウェイは、その後何年も投獄されましたが、生き残ることはできました。
それが、ファンやチャン先生の願いだったからです。

ウェイは回想します。
死にゆくチャン先生が禁書である詩を誦じるのを。
チャン先生自身が美しいと感じた言葉たちは、まるで祝詞のようで、彼の心の支えなのだと分かりました。

 

チャン先生:「未来には自由が待ってる」

 

仲間たちの言葉を胸に、ウェイは未来まで生き延びました。
大人になった彼が見たものは、校舎が壊され、マンションに生まれ変わろうとしているかつての翠華高校でした。

恐ろしい世界はもうどこにもない。
けれど、ウェイは決して忘れない。

たった一人でも生き残れば、あの恐ろしい現実――『言葉が消えた日』が本当にあったのだと伝え続けることができる。

自分にとっての大切な言葉を決して手放さなかった秘密読書会のおかげで、
死を選ばず苦痛だらけの生をあきらめなかったウェイのおかげで、

言葉は、消えなかった。

それはとても尊いことだと、自分は感じました。

 

( •̥  _  •̥ )

 

 

次回は4月3日月曜日、
2021年制作、アメリカの超自然的スラッシャー、
『キャンディマン(2021年版)』の話をします。

 

 

鳥谷綾斗