人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

映画/セブン

アマプラで観たホラー映画です。
1995年制作、アメリカのサイコサスペンスです。

 

 

 

 


www.youtube.com

 

 

【あらすじ】
定年を1週間後に控えたサマセット刑事は、新人のミルズと組むことになった。
彼らは、肥満体の男が内臓破裂して死んだ現場に呼ばれる。
だが被害者は、何者かに銃で脅され無理やり食事させられていた。
7つの大罪』になぞらえた連続殺人の始まりだった。

 

【ひとこと感想】
見る人によって解釈が驚くほど異なる、陰鬱な現実世界への叫び。

 

※全力ネタバレです。

 

 

【3つのポイント】
①実はシンプルなプロット
②殺人鬼ジョン・ドゥ
③トレイシーの死

 

【①実はシンプルなプロット】
名作のプロットは大体シンプルという法則(?)があります。

この作品も、

①殺人事件が起こる
②刑事が捜査する
③ヒントを得て殺人犯の正体に迫る
④直接対決する

お手本のような起承転結のストーリーラインで、映画史に残った傑作となった理由は、『冒頭の衝撃的なグロさ』。
そして『衝撃的な結末』。『さらにそれに付随する答えが難しい・人によって異なるテーマ』の2点かと思います。

ネットでいろんな感想を漁ると、ほんっとーーーーに色んな意見があります。
最悪のバッドエンドという人がいればハッピーエンドという人も。
ただ、7つの大罪や原罪という考えに馴染みがない、無宗教だったり異教徒だったりするとピンと来ず、『?』になる傾向。

(ちなみに自分は神道寄りです。神社検定受けました⛩️)

(加えて、生き物が生きるには多かれ少なかれ犠牲が必須、自分も何かや誰かを犠牲にしていて、何かや誰かの犠牲になっているという塩梅の思想です🦗)

そんなわけで。
ピンと来ない勢の人は、犯人であるジョン・ドゥがいかに無茶苦茶なのかという視点で楽しむと良いかと。

 

【②殺人犯ジョン・ドゥ】
ジョン・ドゥ。英語で言うところの名無しの権兵衛。
彼の何が無茶苦茶って、殺人方法です。

その犯行一覧をテンポよく紹介していきましょう。
BGMはロシア民謡の『1週間』です。
(映画の内容も画面もあまりに暗いので明るくいきたい)

月曜日は『暴食』で殺す〜
肥満男の手足を細いワイヤーで縛って銃で脅して12時間以上食わせ、最後は腹を蹴って内臓破裂

(スパゲティに顔を埋めた死体というインパクト。大量の虫がわき、血文字ではなくあえて脂でメッセージを残す、世界一有名な殺人現場の冒頭かと。サイコ殺人映画の原点にして頂点やでほんま)

火曜日は『強欲』で殺す〜
悪徳弁護士に自身の肉を1ポンド分切って秤に載せさせ殺す〜

(合いの手→ \ベニスの商人!/)

水曜日は特になし〜

木曜日は『怠惰』で殺す〜
前科者を1年前に拉致して左手首を切断してベッドに拘束して観察したので死なず〜

(舌を噛み切っても人間って死なないもんだ)

金曜日は特になし〜

土曜日は『色欲』で殺す〜
娼婦を客の男に装着させたナイフ付きパンツで殺す〜

日曜日は『高慢』で殺す〜
モデルの顔を傷つけてまだ生きていきたいなら助けを求めて嫌なら自殺しろと殺す〜

……。

( ・ω・)<創意工夫が凄まじすぎんか???

このように、突飛な発想と独自性を持ち、それを実行に移す常人では考えられないほどの行動力、あと冗談のような忍耐強さを持つのです。

ターゲットや刑事を調べたメモを部屋中に貼るのは殺人鬼あるあるですが。
びっしり書き込んだ250頁のノートが2,000冊あったり、
『暴食』では、食事の追加のために二度も買い物に行ったり、
『怠惰』では標的の尿道に管を通したり、薬物投与や床ずれ防止のために抗生物質まで打つなど、

( ・ω・)<妙な生活感がある……

犯行自体はエキセントリックなのに、細部が細やかで変なリアリティがある。

そんなおもしれー殺人犯なのです、

 

【③トレイシーの死】
これまで、『暴食』『強欲』『怠惰』『色欲』『高慢』の罪を犯した(と彼基準で判断)者を 贖罪 のために殺してきたジョン・ドゥですが。

残る『嫉妬』と『憤怒』を背負う罪人は、
ジョン・ドゥと――ミルズ刑事でした。

ミルズ刑事が築く、平凡であたたかな家庭に嫉妬したジョン・ドゥは、妻のトレイシーを殺害し、その生首を劇的に見せつけます。

ミルズ刑事を憤怒で染め上げ、自分を殺させるために。
サマセット刑事は「やめろ。殺したらそいつの勝ちになる」と止めますが、

 

ミルズ:「Oh, God……」

 

そう何度もつぶやき、引鉄を引きました。

という、「世の中は最悪だと思いたくない」ミルズ刑事に、最低最悪な世の中を突きつけるラストでした――が。

ものすごくモヤモヤしました。

トレイシーの死に対して、です。

これまでの被害者はそれぞれの罪を犯したから、それを贖わせるために殺した。
逆に言えば、罪を贖った被害者たちは救済されたのです。
ジョン・ドゥだってそうです。『嫉妬』の罪を犯したからミルズ刑事に殺されて、それで救われた。

だとしたらトレイシーの死は、一体何なんだ?

他の死のように贖罪のためではなく、ただ、ミルズ刑事に『憤怒』の罪を犯させるために無惨に、無意味に殺されたのか?

冗談じゃない。
彼女は夫のおまけじゃない。

トレイシーは立派な人だった。
地下鉄が近くて振動がすんごい家で、大きなワンちゃんを育てて、ちゃんと妻として家を守っていた。
妊娠したときは悩んでサマセット刑事に相談した。
こんなひどい世の中で子どもを産んでいいのか。真剣に子どものことを想って悩んでいた。

「もし産むのなら、思いっきり甘やかしてやれ」という助言をもらって、おそらくは覚悟を決めた。

そんな彼女が、イカれた殺人鬼のしょうもない願望のためなんかに殺されていいはずがない。
まるで舞台装置や映画の動機付けのように、殺されていいはずがないんです。

だから自分は、ミルズ刑事が撃った弾丸はトレイシーのためのものだと思いたい。
彼女の死が重く悲しいものである証こそ、ミルズ刑事の復讐なのだと。

決してジョン・ドゥなんかのためではない。

勝ちも負けもない。殉教者きどりの殺人犯など、最初からお呼びじゃない。
ミルズ刑事の目に映っていたのは、愛する妻だけです。

……と、
ミルズ刑事に負けないくらい理想主義のトリは思うのです。🎩🦉

 

【まとめ:戦う価値はある世界で】
連行されるミルズ刑事を見届け、サマセット刑事はひとり考えます。

 

サマセット:ヘミングウェイが書いてた。
      この世はすばらしい。戦う価値がある
      後の部分は賛成だ。

 

……サマさん。(※1)

ヘドロの中でも生きていくのかサマさん。
無関心が美徳とされる世の中で。
アパートの一室で1年間も世にも恐ろしい拷問が起こっていたのに、「理想的な店子だと思っていた」と言われる世の中で。

生まれながら罪を背負っているとかホザかれる世界で。

長く刑事として働いてきて、犯人逮捕ではなく裁判のための捜査をしている、世間はヒーローを求めていないと疲弊しきった、倦んでしまっていたサマさんなのに。

せめて戦うくらいの価値はあると、一筋の光に手を伸ばすことに決めたのか。
生まれ落ちてしまったから。

私はあなたに賛成だ、サマさん。

(※1)鑑賞中、ずっとそう呼んでました)

そんな感じです。
いつか刑期を終えたミルさんには、決して第二のジョン・ドゥなんぞにはならず、サマさんと一緒に戦ってほしい。

ていうかジョン・ドゥよ。

おまえその忍耐強さを前向きに活かせたら、絶対にひとかどの人物になれたぞ。

ジョン・ドゥよ。
君がそんな危険思想になったのは、君が嫌なものばかり見ようとしたからだ。
見方を変えれば、一杯の水さえ、公園の散歩さえ尊く思えるものなんだ。

(しかしそう思えてもデスゲを仕掛けることを選んだ犯罪者はいますが🧩)

では最後に、この世に数多ある『セブン』の感想の中で、おそらくもっとも身も蓋もないツッコミを言います。

平凡な家庭に嫉妬したなら人殺しなんかしてないで婚活しなさいよ。

愛するより殴る方が楽。本当にそうですね。(〆)

 

 

次回は11月27日月曜日、
1987年制作、イギリスの(スタイリッシュデザインな)オカルトホラー、
ヘル・レイザー』の話をします。

 

( ・ω・)<原稿のため1週おやすみ!

 

鳥谷綾斗