「だってね、あなたは違うんです」
「ーーえ?」
無数の蟻たちによって内部から食い荒らされつつある大きな甲虫……貪欲に群がる赤い蟻の一匹が、*だった。
去年(2013年)の11月に、神戸で行われた綾辻行人先生の講演会に行ってきました。
そこで、質疑応答コーナーでこの作品の名前がやたら飛び交っていたので(あと暗黒館も)、このたび再読しました。
かれこれ10年ぶり……? 再読のはずなのに新鮮な驚き、というか発見……いや、『理解』めいたものがわき上がって、何ともじんわりと染み込みました。
あらすじ。
いろいろ停滞気味のミステリ作家・綾辻行人に持ち込まれる、『犯人当て』。
見知ってるはずの見知らぬ青年から、編集者の奥方から、ベテラン作家から……。
犯人当てのプロセスから動機を完全に削ぎ落とした、純粋なフーダニット。
ラインナップは、
どんどん橋、落ちた/ぼうぼう森、燃えた/フェラーリは見ていた/伊園家の崩壊/意外な犯人……です。
どんどん橋&ぼうぼう森に関しては、無理無理無理無理!!ヾノ゚д゚`)
と、思わずDA PUMPになるくらい首を横に振りました。絶対に無理、犯人を当てるなんて。
(ちなみに講演会で綾辻先生が、この仕掛けを思いついたのは、なじみの喫茶店で巽先生や法月先生と集まっているときだそうです。ここにいるみんながもし、**だったらと妄想したとか)
『フェラーリは見ていた』は走っている場面を目にしたらちょっと見蕩れてしまいそうだなと思い、
『伊園家の崩壊』は、結構タイガー&ホース即ちトラウマになりました。どう考えてもっていうか明らかにあの一家のパロ……崩壊が完膚無きすぎてヘコみました。『その目は暗く澱んでいた』が特に。
そして犯人当て物語を締めくくる、『意外な犯人』。
ところでコレ、作中にあったドラマ以外にも、別のテレビ番組に原案として使用されていたことをのちのち思い出しました。
10年近く前の、推理系クイズ番組というか、ショートドラマを流して、『さて真相は?』と解き明かせる趣向の特番。いちばん最後のパートでした。
……で、当時の私は全然わからなくて、エンドロールで『原案・綾辻行人/意外な犯人』の文字を見て、「あーっ!」って叫んだ覚えが。読んでるやん! 何でわからへんかったの自分!? ファン失格! と猛省しました。苦い思い出です。
さて、この連作作品。
初読のときは、正直に云えば『よくわかんない』でした。
読解力の問題なのか、作中の『綾辻先生』を訪ねて来る彼=U君の正体もわからなくて、何でどんどん橋のときは楽しげだったのにぼうぼう森ではちょっとキレててラストは虫になったんだろう……と、若き青き肴猫は、うっすら恐怖すら覚えました。
ですが今回再読して、なるほどと何となく理解りました。ーーような気が、します。
U君に違うと否定され、『綾辻行人』に見えたもの。じわじわと喰い散らかされ、徐々に空洞になっていく感覚を蟻に群がられる甲虫に喩えた『綾辻行人』が、食らったどんでん返し。
喰い散らかされた甲虫ではなく、蟻の一匹だった。
三人称視点で関わっていたと思っていたのに、本当は自分のその中の一人だった。
うまく説明はできませんが、目を閉じて腑に落ちた心地です。
少し、しんどさが和らいだーーような気がします。
……感想になってない!
そんなフワフワした想いとは別で、フーダニットものとして本当に面白いです。
『誰が可能だったか?』を突き詰めると判明するようになってます! ヒントは全部そこにありました!
でもフェラーリはちょっと違うやも。
『あ、そっかー!』と真相がわかった瞬間の、あの何とも言えない脱力感。それをとことん味わえる一品です!
【小話/講演会について】
『横溝正史と私』というテーマでした。場所が生誕の地、神戸の東川崎町でしたので。
横溝作品と綾辻先生の出会いや、ラジオ深夜便で肉声が収録されたテープを聴いたこと(これ聴きました!)、本格というもののこと、または横溝が戦後の苦しい世相の中で数々の大作を生み出したことにからめて、フィクションというものが持つ力のことなど。
とても勉強になりました。
びっくりしたのは、『獄門島』は『ごくもんとう』ではなく『ごくもんじま』だった事実。
暗黒館の殺人についてをちょっとお話しされてたんですが、『好きなものを放り込んでいたら玄児君と中也君のキャラが立って、やっとキャラクターに愛着がわいた。そこから月館を経て、Anotherになった』……とか。私は玄児さんと中也くん好きなので、先生の口から二人の名前が聞けて嬉しかったです!
そして質疑応答コーナー。
私も、『せっかく神戸まで来たんだから!』と勇気を出して質問しました。
しかしその内容が、
『自分は小説を書いているんですけど描写が苦手でして何かアドバイスください』。
でした。
(※意訳。実際はしどろもどろで、暗黒館に特に見られる幻想的なふわふわしたところと館の細かいところの描写があって云々どうしてらっしゃるんですか云々言ってました)
横溝正史関係無いーー!!(i□i)
我ながらアホだとガンガンに後悔したのですが、綾辻先生はすっごくすっごく丁寧に答えてくださいました……(′;ω;`)
もう本当にありがとうございますという気持ちでいっぱいです。
とってもとっても勉強になりました。
そして、小説を書く上で、とても大事なことを教わりました。
どんなものを書いても、この教えを忘れずにいようーーそう思います。