人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

夜よ鼠たちのために(著・連城三紀彦)

JUGEMテーマ:ミステリ

 
たぶん、キャンバスに色を塗ることばかりに夢中になって、自分自身に人生の色を塗るのを忘れてしまったのだろう。

二十年経って、今もあの誘拐犯の耳は、僕の心臓に触れているのです。


手紙

信子が再び俺の手に戻ってきたのだ。彼女は俺が生涯で二度目に、俺の声を、俺の言葉を語った相手だった。

悪魔の研究が多くの妻と同じ患者を救うかもしれない(中略)俺はどのみち自分の人生しか生きられないのだ。



ねずみ


2冊目の連城三紀彦先生作品です。キッカケはやはり帯の綾辻行人先生のコメです(笑)
短編集ですが、ひとつひとつ読み応えがあってお腹いっぱいになりました(*´ _`)<マンゾク

目次は、
二つの顔/過去からの声/化石の鍵/奇妙な依頼/夜よ鼠たちのために/二重生活/代役/ベイ・シティに死す/ひらかれた闇
です。


【二つの顔】
理想の絵のために結婚した画家の妻が新宿のホテルで他殺体で発見された。だが、画家はつい先ほど自宅で妻を殺していた。

似たもの兄弟だな、と思いました。女の愛し方が根本的に一緒で、目的が芸術と金という点が違えど捉え方が同じというか。
是非とも警察には頑張ってほしいです。


【過去からの声】
一年前に刑事を辞めた男が、尊敬し愛し信じた先輩刑事に宛てた手紙。その中には、ある誘拐事件の真実があった。

手紙の形式をとられているせいか、書き手である村川の心情が色濃くて、また、過去に自分を誘拐した犯人と宛先の岩さんへの慕情があからさまで、おかしな話ですが、ドキドキしました。ラブレター読んでる心地でした(謎)。
薄氷を踏むような犯罪計画だったな、と思いました。過去も現在も、本物の両親より、誘拐犯の方が人としてのぬくもりに満ちている、という描写がなかなか切ない。


【化石の鍵】
車椅子の少女が、首を絞められた。そのとき彼女は、化石となった蝶が飛ぶ夢を見た。

真相を知ってから最初から読み直すと、犯人がそのまま出てて驚きます。比喩じゃなかったのが何とも切ない。
可哀想で健気な子でした。化石の蝶は彼女でした。


【奇妙な依頼】
多忙な興信所の調査員が受けた浮気調査の依頼。だが対象の妻は、尾行されてることに気づいていた。

二転三転します。妻を信じるか依頼者を信じるか。
しかしこの二人、無意味なものに大枚をはたく点が、似たもの夫婦だと思いました。
どこか斜に構えた語り手の調査員。馬鹿馬鹿しい見栄のためについた嘘は、最終的に彼を莫迦にしました。


【夜よ鼠たちのために】
幼い頃、孤独だった少年が心を通わせた一匹の鼠。無惨な別れを経て、孤独に生きてた彼の前に現れた、愛せる存在との幸せーーそれを奪った医者たちへの復讐を、彼は誓う。

『鼠』はダブルミーニングでした。驚きます。
自分を孤独から救った鼠の『信子』を、名前は違えどあふれんばかりの笑顔と幸せを与えてくれる奥さんに重ねてるだけじゃなかった。
殺された医者たちは屑ですが、命乞いの言葉は確かにその通りだと思いました。
彼が逡巡するのもわかります。
でもそのあとに続いた言葉もまた、その通りだと頷きました。何とも傲慢ですが。


【二重生活】
マンションの一室を与えられ、週に二、三度訪ねてくる十六歳も年上の男を待つ牧子。牧子を置き去りにし、自分ではない女の待つ屋敷に帰る男に憎しみを募らせ、浮気相手の若い男と共に、ある犯罪計画を遂行する。

個人的に一番大きなどんでん返しを喰らいました。
真実を知るまでは、牧子に同情心などカケラも無く、『花束を泥川に』『青春を奪われた』という言葉をおおげさと切り捨て、苦しいのは自業自得だとさえ思いましたが、彼女が本来の妻と知ってからは……。
浮気相手の若い男が愛人を『奥さん』と呼んだときの気持ちを想像するといたたまれません。
何となく『私という名の変奏曲』の美織レイ子を思い出しました。美しさにも若さにも恵まれているのに、醜い大人たちに弄ばれて壊された点が、共通してると。


【代役】
魅力的な微笑を持つ人気俳優、支倉竣は、彼そっくりの男を捜していた。それは自分の代役にするためだった。

これはジャンルで言えばホラーだと思います。背筋が寒くなりました。
支倉と関係を持った女の三人のうち、三人とも彼を代役として見てて、仕立て上げた
とにかく恐ろしい。自分が創り上げたと思っていたもの全てが実は……なんて。
(読者からすれば『こんな男のどこがいいんだ』の一言ですが)
癖のこともあり、途中でものすごく混乱します。え、どっち? みたいな。


【ベイ・シティに死す】
出所した暴力団員の男は、二人の人間を捜していた。自分を陥れた愛人と弟分に復讐するために。

【代役】と同じように、知らぬは本人ばかりという結末でしたが、こちらは悲劇でした。
最後の霧の中に埋れていく情景は、主人公が無口な囚人となるのとリンクしているように思えました。


【ひらかれた闇】
私立教師、水木麻沙は退学した暴走族の元生徒たちに、グループのメンバーが殺されたと連絡を受けた。状況からして、犯人は元生徒の中の誰かだった。

こちらの短編集は、1980年代に発表された作品で構成されています。どれも古く感じられませんでしたが、これだけは『なんか古っ(°ω°)』と思いました。
主に不良たちのしゃべり方が。タケノコ族の時代っぽいとか思っちまったのサ。
けど、犯人が殺人を犯した動機は、時代背景が大きく関わってるのかなと思いました。当時の警察の捜査方法や市民への接し方など。
何ともしょっぱい事件でした。


個人的お気に入りは、表題作と【過去からの声】です。
たぶん次に読むのは、講談社文庫から11月に発売された、『連城三紀彦 レジェンド』だと思います。
だって伝説ってついてるんだぜ。そりゃ読まなくちゃですよ。