人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

怪しい店(著・有栖川有栖)

評価:
有栖川 有栖
KADOKAWA/角川書店
¥ 1,728
(2014-10-31)

JUGEMテーマ:ミステリ

「ええ品みたいやから、五千円で買わせていただきます」
 魚津は頭を下げた。
「おおきに。ほな、売らせていただきます」

「商売の本質は、単なる経済活動ではなく幸福の創出だ」

 神の指、再び。



店


火村シリーズ、最新作です。
そういえば自分、高原のフーダニットと菩提樹荘の殺人を読んでないような。( ・ω・)<アチャ-

『店』にまつわるミステリな短篇集です。
目次は、古物の魔/燈火堂の奇禍/ショーウィンドウを砕く/潮騒理髪店/怪しい店
……です!

 
【古物の魔】
骨董品店の店主が殺された。第一発見者は彼の跡継ぎ候補とされる甥。
店主は生前、怪しい行動を取り、謎の言葉を残していた。

論理というよりは辻褄合わせ。犯人のためではなく、凶器のためのアリバイ工作。
犯人をよく知る人物の言葉が、本当にその通りだと思いました。そうしたら少なくとも人は死ななかった。


【燈火堂の奇禍】
自身の愛蔵書で古書店を開き、『この本を買いたければ十日後に再訪しろ』と言う偏屈な店主。
彼が万引き犯に突き飛ばされたとき、本当は何が起こっていたのか。

この古本屋めんどくさ!! ーーというのが正直な感想です(笑)
火村先生の商売論(?)が聞ける貴重な機会。『売る方も買う方も幸せになる』、なかなか素敵な言葉です。
めでたしめでたしと〆ていましたが『そーかぁ?』と頭を捻ります。この店主の妙ちくりんなこだわりがなければ少なくとも以下略。
『乱鴉の島』の懐かしい人の名前が出てきたり、火村先生とアリスが篠宮のおばあちゃんの誕生日を祝ったり、猫と戯れたり。
ほっこりする場面もあります。


【ショーウィンドウを砕く】
破綻寸前の芸能事務所の社長は、愛人を殺すことを決意した。
完全犯罪に挑もうとした。

犯人視点です。犯人の目から見ると、火村先生はこんなんなのか……とちょっと愕然とします。
(だけど犯人の目から見ても火村先生とアリスは仲良しなようです。( ・ω・)<イイネ!)
へー高級店ではおつりは全部ピン札なんだーと庶民丸出しの感想が浮かびました。
「あなたが欲しいものは何ですか?」という問いに、「何もいらない」以上に非人間的な答えは何だろう。
「『欲しいもの』って何ですか?」でしょうか。


潮騒理髪店】
気分転換に理髪店に行こうか、と思ったアリスの元に、火村からの電話が。
そして彼は、旅先で入った理髪店のことを話し出す。

長電話ミステリ。ひとつ前の物語で殺伐と沈んだ心が浮上します。なかよし!
電話越しに時間的余裕があるなと察したら、スランプなうと愚痴って甘える。
そして「がんばるしかないだろ」と返される。なかよし!
謎そのものより、理髪店が如何に素晴らしいサービスをしたかに心惹かれました。ああ羨ましい私も行きたい。


【怪しい店】
客の悩みを聞くだけの店の主が殺された。
彼女の裏の顔は、脅迫者だった。

とりあえず自分の悩みなんて知らん人に話すもんじゃないね。
するんなら匿名で、ってな気持ちです。お客さんの信頼を裏切るとか商売人として言語道断です。
犯人の名前が最後の頁まで明かされないので、スピード解決した感がすごいです。
アリスが大活躍しましたが、最後は新キャラ(?)の高柳刑事と反省会してます。
火村先生の<闇>の部分にもちょこっと触れて、そしてアリスが火村先生の傍にいることの重要さにも触れられ。
これからもお互いの近い場所にいてね、という気持ちです。


お気に入りは、【古物の魔】と【潮騒理髪店】です。
【古物の魔】は、物との関わり方を考えさせてくれます。
特に拾った茶碗を完全に修復する手間を考えたら、その金額の価値があるーーというところ。
物語のあちこちに、ノーパソやネット販売やFaceBookなど、現代的(言い過ぎかも)な単語が散らばっていて、ああ火村シリーズも近代化なうだなぁ……と思ったんですが、メインテーマは『古いもの』。その対比がすごく綺麗でした。

潮騒理髪店】は、とにかく店主の油(あぶら)さんが渋かっこ可愛くて♡キラキラ
おやつを頂いておりましたmgmg、からの、神の指での心を尽くしたサービス。純粋に火村せんせー羨ましい。
そして、作中に『良くないこと』を企んでいた人がいたんですが……。
その人が思い直したのが、とても良かったと思います。
それは店主さんのおかげなんですけど、彼は何も特別なことはしていません。
自分の仕事を当たり前にちゃんとしている人と関わって、勝手に考えが変わるーー尊ぶ言葉を使うなら、『救われる』ーーのは、とても素敵だと思います。

やっぱり有栖川作品は、優しいです。