人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

映画/フランケンシュタイン(1931年)

アマプラで観たホラー映画シリーズです。
1931年制作、アメリカのSFホラーです。

 

 

 

【あらすじ】
フランケンシュタイン男爵家の嫡男である科学者・ヘンリー。
電気療法と電気生物学を研究する彼は、『命を与える光』を証明するため、助手のフリッツと死体を集め、人造人間を造り出した。
だが出来上がったそれは、ヘンリーにまつろわぬ『怪物』であった。

 

【ひとこと感想】
この映画の科学者は『マッドサイエンティスト』ではないゆえに胸糞が悪い。

 

※全力ネタバレです。

 

【3つのポイント】
①これはマッドサイエンティストなのか?
②ヘンリー博士の正体。
③だからこそ胸糞が悪い。

 

【①これはマッドサイエンティストなのか?】
フランケンシュタイン』における勘違いといえば、

フランケンシュタイン』は怪物の名前ではなく、それを作り出した博士の方。

です。ジェイソンはチェーンソーを使ったことがない、みたいなものですね。
それと同様に、自分はこの映画の科学者を『マッドサイエンティスト』の元祖だと思っていたのです。
期待しました。ワクワクしました。ですがそれは砕かれました。

( ・⌓・)<この人、(俺の考える)マッドサイエンティストじゃなくない……?

※以下、あくまで私見です。

マッドサイエンティストの定義を書き出すと長くなるので、自分が『マッドサイエンティスト』というものに求めるもの=概念を書きます。

前提はたったひとつ。

自分自身の研究に、異常な執着心を持つこと。

巷では『生命、人権を軽んじる〜』などもありますが、それはあくまで結果論。
彼ら彼女らは研究心に取り憑かれるあまり、生命や人権を後回しにしがちなだけなのです。

それが何ですか、このヘンリー・フランケンシュタイン博士。
自身の研究にたいして執着していない。
と、自分にはそう見えました。

 

【②ヘンリー博士の正体】
作中でのヘンリー博士の行為は、

①助手のフリッツと墓荒らし。
(ただし危険なことはフリッツにやらせる)
②上司のウォルドマン博士から脳みそを盗む。
(ただし実行したのはフリッツ。事故で殺人犯の脳になりましたが)
③『命を与える光』こと雷で、人造人間を作る。
④自分に服従しない怪物だったと判明し、処分を決める。
⑤ただし対策は閉じ込めただけ。
⑥怪物のことは忘れて、父親に命じられて美人婚約者とハッピーサマーウェディング

⑤と⑥で、フリッツと、関係ないウォルドマン博士が死にました。

( ・⌓・)<……は???

としか言いようがない。マジかお前。仮にも科学者が、自分の作ったもの放置して結婚式てお前。

博士が怪物を作った目的もよく分からなかった。
自分の研究をバカにされて……みたいな被害者ヅラしていましたが、簡単に断念しました。オトンに命じられて。あっさり忘れて女とヨロシクできる程度のものだったのです。

その程度の執念しかなかったのです。

人様の墓を荒らし、盗み、勝手に実験材料にしたのに、後始末すらせず見て見ぬふりをする――これのどこが『狂気に至るほど自分の研究にすべてを捧げた科学者』ですか。

『透明人間』の博士を思い出してみましょう。

彼は身分差のある恋人と結婚するために研究に熱を入れ、結果、自ら怪物になりました。
それと比べると、「マッドはマッドでもクズという方のマッドやないかい」という感情が生じます。
そんなヘンリー博士の人間性を表現するセリフがコチラ。

 

(研究室を捨てて、明るい庭で婚約者といちゃつきながら)
「君といると天国のようだ」

 

( ・ω・)<……

( ・⌓・)<いやこれサイコパスって言わん?

(※ここでいう『サイコパス』は、『責任感のない権力者』という意味です)

(※ここまでムカつくのは、たぶん博士が権力者側だというのもあります)

(※ノブレスオブリージュって知ってるかこの貴族野郎)

 

【③ゆえに胸糞が悪い】
地下の研究室から出てきた怪物は、心優しい女の子と出会います。
一緒に湖に花を浮かべて遊び、あたたかな空気の中、
怪物は女の子を湖に投げ入れます。
女の子は花と違って水に沈むと、怪物には分からなかったから。

何故だ。
何故こんな科学者ごっこをしたかっただけのやつのために、こんな小さな子が犠牲にならなければならんのだ。

一部の責任感のない権力者たちのやらかしで、
犠牲になるのはいつだってそういう人々です。

怪物の存在を知り、町の男たちは立ち上がります。
松明を握り、怪物を殺せと行進します。
それを怯えた顔で見つめる女性と子どもたち。
なんとも暗示的な、なんとも既視感のある、90年以上前から変わらない光景だ、と思いました。

 

【まとめ:哀れな怪物の末路】

フランケンシュタイン』と聞いて思い浮かべる姿の怪物は、最初から最後まで、恐ろしいけれど哀れでした。

 

「生きてる 生きてる 動いている」

 

創造主のはしゃいだ声で怪物が目覚める。
まぶたで半分隠れた、『虚』さえ無さそうな両目。
針金を入れたようなぎこちない動き。
松明の火を怖がり、
見せ物小屋の動物のように鞭で叩かれ、

服従しないから殺される。


火炙りにされて叫ぶ怪物に、ずっと憐憫という感情を抱きました。

……。

そんな胸糞映画のラスト。ヘンリー博士はふつーに助かり、使用人たちの「フランケンシュタイン家、カンパーイ」でエンド。
すごい。『孤島の鬼』の最終章のタイトル「大団円」ばりにムカついた。お前が(逆撫で映画)ナンバーワンだ。

そんな、もしかしたら当時の差別を描いていたかもしれない今作品、終始 (# ゚Д゚) でした。
いつか原作を読みます。
(全然違うらしいので)

【おまけの余談】
花嫁衣装のエリザベス(ヘンリー博士の婚約者)が襲われて、ベッドで力なく倒れているのを発見される場面、

( ・ω・)<あっ、昔の映画に出てくる虚弱美女の気絶の仕方だ!

この気絶の体勢、ほんとよく見かけますよね。
歌舞伎の海老反りみたいなやつ。寝違えそうだと毎回思います。(ガチの余談)

 

次回は8月23日月曜日、
2020年制作、日本のサスペンスホラー、
人狼ゲーム デスゲームの管理人』の話をします。
(クーポンでレンタルした)

 

鳥谷綾斗

映画/屍憶 ーSHIOKUー

アマプラで観たホラー映画シリーズです。
2015年制作、日本と台湾の合作ホラーです。

 

 

屍憶 SHIOKU(字幕版)

屍憶 SHIOKU(字幕版)

  • ウー・カンレン
Amazon

 

【あらすじ】
TVのプロデューサー・ハウは、美しい恋人・イーハンとの結婚を控えている。
彼はとある番組で、『冥婚』――死者との結婚について取材していた。
ある日、彼は赤い封筒を拾う。すると、見たこともない場所で婚礼の儀をおこなう夢を見る。
一方、女子高生のインインはこの世ならざるものを視始め……

 

【ひとこと感想】
仄暗く陰鬱で美しい、けれど幽霊がめっちゃ元気な映画。

 

※全力ネタバレです。

 2

【3つのポイント】
①メモ:台湾の冥婚事情
②美しい悪夢
③意外とハデな最終決戦

 

【①メモ:台湾の冥婚事情】
死者と生者、あるいは死者と死者が結婚する儀式、冥婚。
台湾ではこんな感じだそうです。

①別名を娶神主(位牌を娶る)と言う。
②赤い封筒を拾った人間が、死者の相手に選ばれ、娶らなくてはいけない。
③台湾では女性の冥婚が多い。
④その背景に、未婚の女性は墓に入れないという前提がある。
⑤墓に入れない女性の霊は、怨念となりこの世に留まり続ける。
⑥だから、それを救済するために冥婚という『措置』がある。

当然ながらいちばん引っかかったのは④です。

( ・⌓・)<なんで???

としか言いようがない。
一応先に「台湾にある女性差別の思想が基づいている」という前置きはありました。だがそれでもあえて「なんで」って言ってやろうと思います。

 

【②美しい悪夢】
古き良きJホラーを思い出させる、湿度を感じる、じわじわとした、ふと気づいたら足に白い手がそっと触れているような恐怖の描き方でした。

もっとも恐ろしかった場面は、『悪夢から目覚めたハウが右隣で眠る恋人の顔を見て安堵した後、寝返りを打ったら左隣にその恋人がいた』です。

いや怖いわ。と、少々キレ気味につぶやくなど。
両手に花🌻 とかボケしてる場合じゃないです怖ぇです。

かと思いきや、霊能力に覚醒したばかりのJK・インインが見た犬の霊は、ハッキリクッキリ映したり。
シャワーを浴びるハウの横にある浴槽に、まっくろな死体が普通に設置されていたり。

スローな恐怖と瞬間的な恐怖のバランスがばっちりでした👌

あと霊媒師さんの使った交霊術(こっくりさん的なシステムで、ピンと張った革の下から針のようなものが動いて文字で知りたいことを教えてくれる)も、すごい好奇心がそそられました。
いいよね霊感アイテム。異国なので尚のことロマンを感じます。

 

【③意外とハデな最終決戦】
この映画は二部構成です。

婿殿として選ばれたハウの視点と、
次々と恐ろしい幽霊を目にするインインの視点。

二人の道はなかなか交差しなかったので焦れたのですが、きちんとクライマックスに繋がったのが素晴らしい!

そしてそれまで静かだった幽霊さんたちもヒートアップ。
学校のプールで殺された女学生さんは、足をぶらんぶらんさせて「がおー」と襲ってきたり、ポルターガイストも派手派手です。

一方、ハウは、夢の中で見た結婚式の場に訪れます。
そこでの冥婚の儀式は、美しい悪夢そのもの。
土気色の顔の『花嫁』と無理やり契らせれる、生理的な嫌悪感。
新郎新婦が礼をし合った時の、『花嫁』の ガクン!! という首の垂れよう。
お互いの血を酒に入れ、腐りかけた紅が混じった盃を飲まされる気色の悪さ。

おぞましいのに綺麗でした。

 

【まとめ:恐ろしいものが美しいものに】
さてラスト。
「どうして幽霊がいるのか」をきちんと考えたインインのおかげで、ハウは助かります。
そんな彼は呻くように、謝罪を口にします。

「イーハン 僕を許してくれ」


ここから種明かし。
インインの元に現れた恐ろしい幽霊の正体は、イーハンでした。
冥婚の花嫁に操られたハウが殺した彼女は、インインに助けを求めていたのです。

どうかハウを助けてほしい、と。

病院のベッドで眠るハウを見守るイーハン。この場面が綺麗でした。
恐ろしい化け物から優しい恋人に戻った彼女の慈愛の瞳。幽霊だからこその麗しさ。

美しいものが恐ろしいものになることがある。
だが、恐ろしいものが美しいものに戻ることもある。

物語の結びとしては、とてもロマンチックでした。

 


……にしてもこの結末は少々意外。
決して珍しくはない仕掛けなのですが、ここまでこの二人の愛情が深いとは。
何せイーハンの第一声が、

(冥婚の悪夢で魘されたハウに)
「ブタみたいに熟睡するくせに悪夢を見たの?」


だったので。

( ・ω・)<仲悪いの?

って思ったんですよ。
いやいや、これは私の偏見によるものか。『豚』って別に悪口じゃないもんな。いや知らんけど。

ゾクっとするけど派手さもある、オススメの映画です。

(今月中に『返校』を観に行きたいなーー)

(ゲーム未プレイでも理解できるかなーー)

(いやできるはずだホラーへの愛があればーー)

 

次回は8月16日月曜日、
1931年制作、アメリカのSFホラー、
フランケンシュタイン』の話をします。

 

鳥谷綾斗

映画/透明人間(1933年版)

アマプラで観たホラー映画シリーズです。
1933年制作、アメリカのSFホラーです。

 

 

 

 

 【あらすじ】
雪が積もる村に、一人の余所者が宿を求めてやってきた。
包帯でぐるぐる巻きにし、サングラスをかけ、客室で謎の実験をする彼は、ジャック・グリフィン博士。
博士は、血と肉と骨が消える薬=モノケインを投与し続け、凶暴性を持つ透明人間になったのだ。

 

【ひとこと感想】
初代透明人間は目立ちたがり屋でお茶目だった。

 

※全力ネタバレです。

 

【3つのポイント】
①87年前の特撮技術の結晶。
②はじまりの透明人間には、深い愛情があった。
③凶暴性× お茶目○

 

【①87年前の特撮技術の結晶】
現代版『透明人間』が公開されたのが、2020年。
その始まりはなんと1933年。昭和8年であり、我らが地下鉄御堂筋線が開通した年(大阪人の着眼点)になります。

87年間もホラー映画のモンスターとして生き残ってるのすごくない???

そんな偉大なる『透明人間』の始祖は、当時の特撮技術の粋を凝らして表現されていました。
 


www.youtube.com

 

『勝手に物が動く』や『服だけが動く』はワイヤーなどで引っ張っる・吊るで可能でしょうが、『包帯をしゅるしゅる解いて透明な姿を見せる』シーンは本当に素晴らしい。
wikiによると、黒いベルベットのスーツを役者さんに着てもらって、つや消しの用法を使ったそうです。
なるほど分からん。でも手品のようでワクワクします。

ちなみにこの時代の透明人間になった方法。

インド産の花からとれる薬、モノケインを1ヶ月投与した。
この花は触れると色が消え、漂白剤として利用されていたが、精神を錯乱させる効果があった。
(そのことはドイツの本にしか書いておらず、グリフィン博士は知らなかった)

当時のアメリカにとってはまだまだ未知の国だったんだろうな、と推察します。

【②はじまりの透明人間には、深い愛情があった】
グリフィン博士にはひとつの願いがありました。
それは科学者として認められ、師匠の娘であるフローラと結婚すること。

透明人間になったことで大はしゃぎして大暴れすグリフィン博士ですが、愛するフローラにはとても純粋で優しい。
2020年の透明人間(セコいストーカー行為で愛する人に迷惑しかかけていない)とは違うな、こちらは愛が見え隠れしているな……と思ったのですが、彼女の説得にすら彼は耳を貸しませんでした。
確かに愛はあるのに、です。これが薬の効果かと思うと、なんとも言えぬ悲しさが込み上げます。

 

【③凶暴性× お茶目○】
博士の凶暴さはどんどん増していきます。
駅舎に入り込み、駅員を殴り飛ばして線路の向きを操作し、機関車を脱線させます。

 

「月さえも私を恐れるだろう」

 

世界征服を夢見る透明人間ですが、その一方で、警察の包囲網を掻い潜り、

 

「♪Here We Go Gathering Nuts In May, Nuts In May, Nuts In May,♪ 」

「ヤッホー!」

 

と、ゴキゲンにスキップします。
べらぼうにお茶目ですね透明人間。

よくよく考えればこの場面、博士はズボンしか履いておらず上半身は裸。
ていうかケンプ博士を殺害した時も、雪が降る中すっぽんぽんでオープンカーでじっと待機してたんだなと思うと、

( ・⌓・)<コントかな???

って気持ちになります。
透明人間が何十年も愛される理由は、ここにあるのかもしれません。

 

【まとめ:ラストは美しい】
透明になったとしても人間は人間、と言わんばかりのラストでした。
また、『飲み込んだ食物を消化するまで服は脱げない』『排気ガスや霧の中ではうっすら見える』『吐いた息が白くなる』などの設定、細かくてリアリティがあって好きです。

カフカの藁に寝転んで、「気持ちいい」と眠り込む博士の姿は人間のまま。

そして急襲され、病院で死ぬ寸前、博士はフローラと再会します。
事切れると薬の効果も切れる。

死んだ後、観客はやっと『透明人間』の素顔を見れるのです。

この演出がなんとも心憎い。
印象深い最期でした。

※以下は雑談です。

 

【雑談①】
『透明人間』もののスタンダードなオチといえば、

「事故に遭って、でも透明だから誰にも発見されずにそのまま死亡する」

ですが。
アウターゾーン(90年代のジャンプ漫画)』とか『アナザードア(90年代のるんるん=なかよしの姉妹誌の漫画)』とか、記憶違いかもしれないけど絶叫学級(りぼん漫画)でもあった気がします。

てっきり、この映画もそういうオチだと思ったのですが、
最初にこの画期的なオチを生み出したのは、どこの作品なんでしょうね。

 

【雑談②】
果てしなくどうでもいいんですが、グリフィン博士がスキップしながら唄う歌が「なんか聞いたことあるけどタイトルは知らない」もので、必死で検索しました。
何度も聞いて、「たぶんヒアウィゴーって言ってる……集める……コレクト? いやギャザー? んん?」と英語で歌詞を打ち込んだところ、『Here We Go Gathering Nuts In May』がヒットしました。まんまやんけ。

( ・ω・)<突き止めた自分をちょっと褒めてやりたい。

そんな感じです。

次回は8月9日月曜日、
2015年制作、日本と台湾のホラースリラー、
『屍憶 SHIOKU』の話をします。

 

 

鳥谷綾斗

映画/透明人間(2020年版)

アマプラで観たホラー映画シリーズです。
2020年制作、アメリカ・オーストラリアのサイコサスペンスです。

 

 

透明人間 (字幕版)

透明人間 (字幕版)

  • エリザベス・モス
Amazon

 

【あらすじ】
光学研究の先駆者・エイドリアンを夫に持つセシリア。
ある夜、彼女は束縛がひどすぎる夫から逃げ出す。そして夫は自殺したと知らされる。
莫大な遺産を相続することになったが、セシリアは『見えない視線』に苛まれるようになる。
周囲からの信頼を失い続けるセシリアを、『透明人間』は容赦なく追い詰める。

 

【ひとこと感想】
安心の反撃展開、しかし使用アイテムの割にはやることがショボい透明人間。


※ほんのりネタバレです。

 

【3つのポイント】
①秀逸な見せ方。
②ただしやることがしょぼい。
③お待ちかねの反撃ターン。

 

【①秀逸な見せ方】
ブラムハウスさんちのヒロインなので、 当然(強調) 反撃展開があります。
泣き寝入りのバッドエンドなんて許しません。
ただ、この作品は反撃のターンまで少し時間がかかります。

ですが、それまでの緊張感のある描写が見事。鑑賞者を飽きさせません。

平和な朝のキッチンで。勝手に台から落ちる包丁と、強火になるコンロ。
静かな夜の寝室で。ゆっくりと剥がされるブランケットと、座面がへこむシングルソファ。

いる。
確かにいる。
見えない 誰か が そこにいる。

真っ暗な中で観たのですがゾワゾワしました。
加えて、『透明人間』の存在を訴えても誰も信じてくれないセシリアの状況に、絶望感もジワジワと。
さすがリー・ワネル。『ソウ』の産みの親。信頼できる!

 

【②ただしやることがしょぼい】
Q.どうやって透明人間になるのですか。

A.光学迷彩を駆使したハイテクスーツを着たから。

分かりやすくて最高です。
そしてこのスーツのすごいところは、筋力・戦闘力の強化もできる点です。
普通体型の科学者が警備員をワンパンでノックアウトできるようになります。アイアンマンもびっくりです。

そんな軍事利用でもしたら歴史を変えるだろう世紀の発明、

よりにもよって開発者のエイドリアンは、

妻のストーカー行為に利用しました。


( ・⌓・)<しょっぼ……

この発想が一番ホラーでした。
この透明人間、やることなすこと大体しょぼいのです。

スマホで奥さんの寝姿を撮るなよ。
奥さんが就活の面接で使うポートフォリオをこっそりカバンから抜き取るなよ。
会話中に女の子の顔を殴るなよ。

セシリアの妹(エミリー)を殺してその罪を着せるのは驚きましたが、
一連の事件を起こした目的が、『奥さんが自分から逃げ出した罰』て。

こんなセコセコした犯罪を犯す科学者は、ドヤ顔で囁きます。

 

「サプライズ」

 

( ・⌓・)<せっこ……

史上最大にせこい怪物だなと思いました。
そんなんで殺された妹さんが可哀想すぎる。

 

【③お待ちかねの反撃ターン】
せこい&卑劣っぷりにヘイトをためまくったところで待望の反撃です。
怒り心頭に発したセシリアは、自らを囮にしてクソ夫を呼び寄せます。
そこからはプチどんでん返しもあり、最後の直接対決は盛り上がりました。
ここではネタバレしませんので、是非とも。

復讐を成功させたセシリアは、どこまでも広がる夜空の下で微笑み、ささやきます。

 

「サプライズ」

 

……実はプチどんでん返しのせいで、自分も一瞬、エイドリアンの無実を信じかけました。
最後の最後までエイドリアンは否定し続けました。
ですが、セシリアは頑なに自分の意見を貫き通しました。

さて、果たして真相はどうなのか。
自分は本当に『真実』が見えているのか、と少々不安になりました。

(でも本当は、真相はどうでもいいのかもしれない)

(最後の最後に生き残り、主張した方が『真実』となるもので)

 

【まとめ:タイトルは『THE INVISIBLE HUMAN』の方がよいのでは?】

……というのが鑑賞後の感想です。

誰でも透明人間になれる。
それはつまり、誰でも人に傷つけられる側と人を傷つける側の両方になる可能性がある、ということ。
自分はそういう考え方を支持しておりまして、
いつでも被害者側、いつでも加害者側というのはありえないよな、と思います。

【おまけのプチ不満点】
・この夫婦の馴れ初めが見たい。
(ここまで執着するのは何故?)
・エイドリアンの兄はどうして服従していたのか?
(セシリア視点が真実だと前提を置いて)

これらを想像するのもまた面白し、ですね。

余談ですが、日本での公開日が去年の自分の誕生日で嬉しくなりました🥳

 

次回は7月26日月曜日、
1933年制作、アメリカのSF映画
『透明人間』の話をします。
(なんか観たくなったので!)

 

鳥谷綾斗

映画/ディープ・ブルー

アマプラで観たホラー映画シリーズです。
1999年制作、アメリカのサメ映画です

 

ディープ・ブルー (字幕版)

ディープ・ブルー (字幕版)

  • サフロン・バローズ
Amazon

 

 

【あらすじ】
太平洋上〜海中に建てられた、海洋医学研究施設・アクアティカ。
サメの脳細胞からアルツハイマーの新薬を作ろうとするスーザン博士は、使命感とスポンサー獲得のために事を急ぎ、サメの遺伝子を改良してしまう。
巨体と高度な知能を手に入れた3頭のサメは、次々と研究員たちを襲う。

 

【ひとこと感想】
鑑賞中、特大の「マジか!?」が3回出た力強きサメ映画!

 

※全力ネタバレです。

 

【3つのポイント】
①冒頭の「マジで?」=なかなか殺さないサメ。
②作中の「マジか!」=演説中に死ぬスポンサー。
③ラストの「マジ……か!?」=えっ、この人が死ぬの?

 

【①冒頭の「マジで?」=なかなか殺さないサメ】
始まりは夜の海でした。
おあつらえ向きに、ボートの上でイチャつくカップルたち。

ホラー映画でイチャつくカップル=惨劇フラグ。
もはや様式美通り越して常識です。

そこに忍び寄る怪しい影……
水面からチラ見えするヒレ……

( ・ω・)<来るぞ、来るぞ……

しかし最高潮となった期待(ぶっ壊れ倫理観)は裏切られ、人を襲おうとしたサメは捕獲されます。

( ・⌓・)<マジで!?

そして舞台はアクアティカに移り、ダイバーが潜る中、サメが不穏な雰囲気を漂わせます。

( ・ω・)<さっきは肩透かしだったけど、やっと来るぞ……

しかし同じく裏切られ、ダイバーことカーターは、巨大なサメのヒレに捕まり、サメの口から食べかけのナンバープレートを取りました。

( ・⌓・)<マジで!?

こんな感じで、「天才サメがなかなか人を食わない」。
(ちなみに最初の天才サメの犠牲者はサメ)

意外でしたが、先日観た『マツコの知らない世界』によると、「サメの横で泳ぐ」というは現実でもありえるようで。
サメの狩りの時間は決まっているとか。紳士淑女だな。人間とは違うぜ。

 

【②作中の「マジか!」=演説中に死ぬスポンサー】
サメ無双が始まり、登場人物たちのアクアティカからの脱出劇が繰り広げられます。
そして発生する人間同士の軋轢。起こる言い争い。

そんな中、高い人徳を示すのが、スポンサーであるラッセル。
彼は雪山で遭難したという過去があり、その経験を語ります。

 

自然は過酷だが人間の残酷さには及ばない。

 

「人間が事態を悪化させる」――というのは、こないだ観た『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』でも悲しく思ったことです。
あまりに真に迫った、真摯なラッセルの主張に、全員耳を傾けます。
そうして彼は呼びかけます、「皆で協力しよう」――

その瞬間サメが現れて、ラッセルをBAITにしました🦈

( ・⌓・)<……?

( ・⌓・)<さては感動させる気がないな……?

ホラー映画に出てくるお金持ちにしてはめっちゃ人格者だったのに……
(※偏見に凝り固まった意見)

『パニマ』の今カレといい、この世は理不尽ですな。

 

【③ラストの「マジか!?」=えっ、この人が死ぬの?】
ラストにして最大の驚愕は、主人公のスーザン博士の死亡。

まさかサメに食われたと見せかけて助かりましたという王道展開が、主人公ではなくやたらアクの強いコック(プリーチャーさん)だなんて普通思わんくない?

ですが。
このまま彼女だけ生き残るには、彼女は罪を重ねすぎた。――のかもしれません。

新薬を開発して多くの人を救いたいという大義のためとはいえ、サメに知性という名の狡賢さを持たせ、多くの人間をその餌食にした。

最初の人間の犠牲者・ジムが腕を食い千切られた時にサメを逃すなんてことをしなければ、被害は最小限に食い止められたのに。

一人で研究データを取りに行ったり、もう本当に余計なことしかしないスーザン博士。

ここだけ見ればサメの餌食になるのはさもありなんなのですが、結局は彼女の研究は潰えました。
サメに襲われて電流で殺した際に、記録媒体が壊れてしまって。

それだけじゃ神様は赦してくれなかったのか。

サメから生還したプリーチャーが目覚めて、自分を手当てするスーザン博士に対して言った、

 

「悪魔だ」

 

というセリフが効いてきます。

死ぬことによって彼女は「悪魔」から「人間」、或いは「勇者」に浄化された――のかもしれません。

 

【まとめ:最強サメと最強コック】
シンプルにサメがすごかった。
年をとっても癌にもならず、脳も衰えないサメは、
銃が自分を殺す武器だと判別できる、後ろ向きに泳ぐ、カメラを壊すことができる、怪物に変貌しました。

しかも、生きたままの人間を人間がいる場所の強化ガラスに叩きつけて割る、というまるで人間のような性格の悪さまで発揮しました。

すべてはたったひとつの目的のために。

深く青い海で自由を得るために、
サメは自身すら囮にしたのです。

(ここでタイトルの『ディープ・ブルー』の意味を説明するのはプロの技✨)


最強サメに負けじと出てきた最強コック・プリーチャー。
まったく負けてません。
すぐ退場しそうな外見なのに生き残りました。
ただ、オウムのバードが死んだのは残念。鳥殺しは人殺しより軽かったか……。

サメに追い立てられ、キッチンのオーブンに閉じ込められ、まさかのサメ映画で焼死かと思いきや、知恵と筋肉と思い切りで乗り切りました。

(水中にあるオーブンが何で稼働するん? とか)

(水浸しのライターって着火するん? とか細かいことはどうでもいい)

そしてラスト、サメに海中に引き摺り込まれて食われそうになったのに、十字架で目を潰して脱出するのはつよつよが過ぎる。

十字架は持っておくべきものだなと思いました。(思考停止)

そうしてサメは爆破され、
ディープブルーに紅いラフレシアのような花が咲き、
交代の人員を乗せた船が水平線の向こうから来ました。

このアクアティカで、スーザン博士の研究が順調に進めば、脳の退化を一掃できた薬ができたのかもしれない。

でも、神様は『それ』を禁じたのかもしれません。

――と、このプリーチャーがよく神様を唱えていたので、自然とそんな感想が生まれました。

ってな感じの、
二大巨塔の評判に違わない、超A級サメ映画でした!

 

次回は7月19日月曜日、
2019年制作、アメリカの(敬愛せし)ブラムハウスのサスペンスホラー、
『透明人間』の話をします。

 

鳥谷綾斗

映画/ナイト・オブ・ザ・リビングデッド

アマプラで観たホラー映画シリーズです。
1968年制作、アメリカのゾンビ映画の始祖的ポジションの白黒映画です。

  

 

 

【あらすじ】
田舎にお墓参りに来た兄妹・ジョニーとバーバラ。
彼女たちの前に、『生ける屍=ゾンビ』が現れ、ジョニーが食われる。
バーバラが逃げた先には一軒家。
そこには黒人青年のベンと、地下室に篭っていた若いカップル、そして親子三人がいた。
夜が深まり、ゾンビたちは次々と集まってくる……。

 

【ひとこと感想】
得体の知れなさは現代ゾンビを遥かに凌駕していた。

 

※全力ネタバレです。

 

【3つのポイント】
①最初のゾンビの形は『動きがなんかおかしい人間』。
②ヒロインが本当に何もしない。
③人間が2人以上いれば争いが起こる。

 

【①最初のゾンビの形は『動きがなんかおかしい人間』】
wiki調べで恐縮ですが、初めてゾンビが出たのは、
1932年アメリカ制作、ヴィクター・ハルペリン監督の『恐怖城』という映画だそうで。
ですが、今現在の『噛まれたらゾンビになる』などの要素はこの映画で確立した模様です。

田舎の墓地で現れたゾンビ、第一印象は、『動きがギクシャクとして奇妙な人間』でした。

いわゆるゾンビメイクもなく、腐っている様子もない。
夢遊状態の生者、そんな感じでした。
石を使って窓を割る知能、服に引火した火を消そうとする理性もあり。
すっぽんぽんの女性や、虫を食う老婆もいました。

そんな一見生者と変わらず、ただ動きだけおかしい『人間』がゾロゾロ集まってくる様は非常に不気味。
車で轢こうとしても避けようともせず、ただじっと見るだけ。

見た目が自分たち(生者)と変わらないのに、徹底的に違う。

何ひとつ通じなさそうな得体の知れなさは、現代のゾンビ――腐っている体、血まみれの顔、高速で走るバリ高の身体能力(※新感染ネタ)、銃器の扱いもお手のもの(※サイコブレイクネタ)、理性も知能もある(※という漫画であるそうです)――そんな高品質ゾンビたちを遥かに凌駕します。

そして内臓を引き摺り出して食べる場面。
めっちゃ美味しそうに食べてました。フランクフルトを食べる子どもみたいにニッコニコ😊
(可愛げもこちらの方に軍配が上がる)

 

【②ヒロインが本当に何もしない】
ヒロインの、冒頭で兄を殺されたバーバラさん。

びっくりするほど何もしませんでした。

ひたすら『兄を失ったショックで放心』していた。
ベンに窓を塞ぐから板を探せと言われているのに、なぜかオルゴールを鳴らす。
釘を打ちつける時に少しは手伝いましたが。他の人も「ああ……」と呻く間にまんまとゾンビに髪をつかまれたり。

( ・⌓・)<何なん???

ぶっちゃけイラッとしましたよね。
血を吸うシリーズでも思ったけど、昔の女(主語をでかくするのやめろ)、何なん???

こんな感じでバーバラさんへの反発があって、これ以降のゾンビ映画はヒロインが大活躍なのでしょうか。

( ・ω・)<たぶんそう。

 

【③人間が2人以上いれば争いが起こる】
外にいるゾンビたちを『殺し屋のバーゲンセール』というパワーワードで喩えつつも、生存者たちは決裂していきます。

車で逃げるべきVS地下に閉じこもるべき。

登場人物はたった7人。
たったそれだけなのに、一致団結できない。
ゾンビという共通の敵がいても、手を取り合わない。

シンプルに悲しいです。

 

【まとめ:バッドエンドでした】
最後は全滅しました。当然です。

地下に閉じこもるべきだと暴れたクーパー氏は、ゾンビに噛まれた娘に食われました。

(でも、『ゾンビに噛まれたらゾンビになる』という前提を知っている我々からしたら当然的帰結ですけども、当時の人たちからしたら驚愕&絶望ものだったんでしょうなぁ)

唯一朝を迎えられたのは、主人公のベン。
彼は駆けつけた保安官にゾンビと誤認され、否、確認すらされずに遠距離で射殺されました。
これだけでも胃に来るオチなのに、さらにここから残忍な光景が広がります。

殺されたゾンビたち――生きるために必死に戦ったベンも、遺体に手鉤を刺され、まるで食肉のようにズルズルと地面を引きずられます。
その先には焚き火。ベンもゾンビも一緒くたに火にくべられました。

火葬ではなかった。
弔いのためのものではなく、どう見ても『物』の処理。
まるっきり家畜です。

ゾンビの元は『死体を蘇らせて造る奴隷』なので、その比喩もあるのかもしれない。
ただ、ここで、『新感染』のラストを思い出しました。
実に対照的です。長い時間を経て、ゾンビ映画に救いをもたらせるようになった――ような気がします。

では最後に予告編を。

 


www.youtube.com

 

 

「ナイト、オブザ、……リビングデッド!」

言い方の圧が強すぎる。しばらく耳から離れなかった。

ちなみに始祖ゾンビたちの原因は、
『金星に向けて放たれた探査衛星が爆破された』
『そこから高水準の放射性物質が放出した影響』
でした!

 

次回は7月5日月曜日、
1999年制作、サメ映画の二大巨塔の片割れ、
ディープ・ブルー』の話をします。

 

( ・ω・)<えっ、もう7月???

 

鳥谷綾斗

映画/パニック・マーケット

アマプラで観たホラー映画シリーズです。
2012年製作、オーストラリア・シンガポールのサメ映画です。

 

 
【あらすじ】
親友をホオジロザメに喰われた、元ライフセーバーのジョシュ。
悲しみを引きずりながらスーパーマーケットでアルバイトをしていた。
ある日、彼が勤務するスーパーに元恋人のティナが現れる。
強盗騒ぎが乱入した時、津波によって店は浸水する。
そこへホオジロザメがやってきて……。

 

【ひとこと感想】
サメ無双のB級映画? いえいえ、堅実なサメ映画です。

 

【※注意書き】
作中に『地震による津波』の場面があります。
苦手な方は無理しないでください。
(ちょっとウッとなった勢)

基本的に心身の調子が良くない時に鑑賞することはオススメしません。

 

※全力ネタバレです。

 

【3つのポイント】
①意外にしっかりと映画。
②ヒロインの今カレが珍しいタイプ。
③犬殺しは人殺しより罪深い。

 

【①意外にしっかりと映画】
モロに色物サメ映画な邦題ですが、脚本は非常に堅実。いい意味で裏切られました。
(原題は『BAIT』というスタイリッシュなタイトル)

次から次にやってくるピンチとその対応策(ミッション)。
一例を挙げますと、

千切れた高圧電流線がぶら下がり、このままでは水に浸かって全員感電する(ピンチ)

ブレーカーを切る(ミッション)

さらに場面の切り替えもあり。
脱出映画はどうしても舞台が固定されるのでたまにダレてしまうのですが、この作品は主人公たちのパート(浸水した店内)とバカップルたちのパート(地下駐車場)で進みます。

つまり途中でダレることなく楽しめます。あらやだ親切。

キャラクターも手堅く揃ってます。
後悔を抱えた主人公、その元カノ、元カノの今カレ、万引き少女、その万引き少女の父親兼警察官(もちろん娘とは不仲)、万引き少女の彼氏兼店員、店長、訳ありマッチョの強盗犯、バカップル。
そんな堅実なラインナップの中で燦然と輝くのが、

🐶犬🐶

そうなのです。この作品の最大の特徴は、『サメ映画だけど犬がいる』なのです。
犬種はポメラニアンです。可愛い。

もういっちょの特徴は、画面の綺麗さ。
すっかり海と化した店内で、ジュースや冷凍食品が入ったショーケースを背景に、優雅に泳ぐ魚とクラゲと、しっかりめに作り込んだグロい死体が流れます。
コントラストが光っています。さすが3D映画。

 

【②ヒロインの今カレが珍しいタイプ】
登場人物はそれぞれにきちんと役割がありました。
嫌味そうな、いかにも即サメの餌食になりそうな店長ですら体を張ってました。
ただしその分、ヒロインの影はやや薄め。
(女性キャラで一番目立っていたのは万引き少女)

そんな薄口ヒロイン・ティナの今カレ・スティーブンが、
ぐうの音も出ないほどの聖人でした。

( ・ω・)<ぐう聖。

普通この手の映画で、ヒロインの今カレなんて妙に威圧的だったりするもんなんですけどね、

ティーブン、元カレであるジョシュに、自分はティナと関係を持っていないことをわざわざ教えるんですよ。

さらに「いつでもティナは君のことを想ってる」とか言っちゃうんですよ。

さらのさらに「(冒頭にサメ死した)親友は君のせいじゃない」と言ってくれるんですよ。
(それヒロインの役割では???)

恋敵なのに! 目の上のたんこぶだろうに!
もうおまえがヒロインでいいよ! と思ったのに、ホラー界では善行は時として死亡フラグになるものです。なりました。

上述したブレーカーのミッションにおいて、
ティーブンは自ら犠牲になりました。

この時の彼のいでたちは、サメ対策のためにありあわせの材料で武装していて、ネタにされそうですが笑う気になりません。
その死に様は、静かな静かなものでした。
人に優しくし、人のために行動し、自ら命綱であるホースを外した彼は、サメの餌食にされませんでした。
サメ映画なのに。制作陣の人情を感じます。

 

【③犬殺しは人殺しより罪深い】
ホラー映画に犬が出ると聞いて、たぶん全人類が不安になることでしょう。

犬はどうなるのか。

ご安心ください。無事です。
カップルの男が囮にしようとしましたが、大丈夫でした。

この映画、シビアな場面がありまして。
サメをおびき寄せるために、とある人物を生き餌にしたのです。
生きるための選択とはいえキツいな……と思っていたのに、犬だけ大変ご都合主義に助かった――のですが。

犬殺しよ。人殺しより悪い。


このセリフで解決しました。
そう。ホラーでは幼い子どもと動物は殺してはいけないのです。
だからまあ、サメのいる水の中に投げ込まれた小型犬がどうやったらプカーと浮かぶ板に乗って再登場できるんだよとかそんな小せえことはどーーーーでもいいのです。犬が助かれば!

(※ただしハイティーン以上はOK)

(※犬と猫は助かるけど、鳥はなんか死ぬ)

(※この線引きって深く考えたらダメなやつ)

(※ホラー映画特有の倫理観です。現実では犬も人間も同じくらい大事な命です)

 

【まとめ:最後まで堅実な『サメ映画』だった】
サメと犬の他に、もう一種の動物が出てきました。

鳥です。

鳥も重要な役者でした。
冒頭で鳴いて騒ぎ、「これから何かが起こる」という不穏さを演出する。
そしてすべてが終わり、やっとスーパーの外に出られた主人公たちの頭上、青い空を大きく羽ばたく。
救助用ヘリが飛ぶ中、静かな会話が交わされます。

「この後は?」
「やり直そう」 

 

そうして、あまりにも甚大な、津波の被害による惨状が大映しにされます。


どれほど大打撃を受けても、
それでもやり直す。
逃げられないなら、皆で立ち向かう。

 

主人公たちは画角の外なのに、彼らの大きな決意を感じられました。

 

ラストは鳥が飛ぶカット。

災害の前と変わらず飛ぶ姿に、じんわりと、「これは人間の再生の物語だったのかもしれない……」と思いました。

ホラーに限らず映画というのは、
「後悔がある過去をやり直すチャンスを与えられる」
ことがあります。

この映画も、サメによって、主人公や万引き少女がやり直すことができました。
(もちろんサメその他が来ないに越したことはないのですが)
またやり直すことはきっと可能だ、と思います。

飛んでいく鳥はきっと希望の象徴だ。
そうじわじわ感動して鳥が大海原を滑空するのを観ていたら――


サメが出てきて鳥をBAITにしました。


( ・⌓・)<希望の象徴食われたがな。


あ、うん。これサメ映画だったわ。
再確認できました。うん。

「サメ映画のくせにやるじゃねえか……」と感動していたんだけどな。うん。
(どこから目線の何様気取りなんだ)

最後の最後まで堅実にサメ映画でした。

 

【おまけの印象深すぎる場面】
①通気口からカニがうじゃうじゃ。
(集合体恐怖……)
②捕食される場面のエグさ。
(迫力があってグロい)
③藻みたいに浮かぶ死体。
(シンプルにキツい)
④最後はサメの一本釣りとSASUKE。
(ていうか水中でも撃てる銃がよく特殊車両でもない車にあったな……?)

面白かったんけど、なかなかメンタルに来る作品なので、
元気な時にでも観てください。


次回6月28日は、みんな大好きゾンビ映画の始祖、
1968年制作、ジョージ・A・ロメロ監督の
ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の話をします。
白黒でした。

 

鳥谷綾斗