人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

映画/パニック・マーケット

アマプラで観たホラー映画シリーズです。
2012年製作、オーストラリア・シンガポールのサメ映画です。

 

 
【あらすじ】
親友をホオジロザメに喰われた、元ライフセーバーのジョシュ。
悲しみを引きずりながらスーパーマーケットでアルバイトをしていた。
ある日、彼が勤務するスーパーに元恋人のティナが現れる。
強盗騒ぎが乱入した時、津波によって店は浸水する。
そこへホオジロザメがやってきて……。

 

【ひとこと感想】
サメ無双のB級映画? いえいえ、堅実なサメ映画です。

 

【※注意書き】
作中に『地震による津波』の場面があります。
苦手な方は無理しないでください。
(ちょっとウッとなった勢)

基本的に心身の調子が良くない時に鑑賞することはオススメしません。

 

※全力ネタバレです。

 

【3つのポイント】
①意外にしっかりと映画。
②ヒロインの今カレが珍しいタイプ。
③犬殺しは人殺しより罪深い。

 

【①意外にしっかりと映画】
モロに色物サメ映画な邦題ですが、脚本は非常に堅実。いい意味で裏切られました。
(原題は『BAIT』というスタイリッシュなタイトル)

次から次にやってくるピンチとその対応策(ミッション)。
一例を挙げますと、

千切れた高圧電流線がぶら下がり、このままでは水に浸かって全員感電する(ピンチ)

ブレーカーを切る(ミッション)

さらに場面の切り替えもあり。
脱出映画はどうしても舞台が固定されるのでたまにダレてしまうのですが、この作品は主人公たちのパート(浸水した店内)とバカップルたちのパート(地下駐車場)で進みます。

つまり途中でダレることなく楽しめます。あらやだ親切。

キャラクターも手堅く揃ってます。
後悔を抱えた主人公、その元カノ、元カノの今カレ、万引き少女、その万引き少女の父親兼警察官(もちろん娘とは不仲)、万引き少女の彼氏兼店員、店長、訳ありマッチョの強盗犯、バカップル。
そんな堅実なラインナップの中で燦然と輝くのが、

🐶犬🐶

そうなのです。この作品の最大の特徴は、『サメ映画だけど犬がいる』なのです。
犬種はポメラニアンです。可愛い。

もういっちょの特徴は、画面の綺麗さ。
すっかり海と化した店内で、ジュースや冷凍食品が入ったショーケースを背景に、優雅に泳ぐ魚とクラゲと、しっかりめに作り込んだグロい死体が流れます。
コントラストが光っています。さすが3D映画。

 

【②ヒロインの今カレが珍しいタイプ】
登場人物はそれぞれにきちんと役割がありました。
嫌味そうな、いかにも即サメの餌食になりそうな店長ですら体を張ってました。
ただしその分、ヒロインの影はやや薄め。
(女性キャラで一番目立っていたのは万引き少女)

そんな薄口ヒロイン・ティナの今カレ・スティーブンが、
ぐうの音も出ないほどの聖人でした。

( ・ω・)<ぐう聖。

普通この手の映画で、ヒロインの今カレなんて妙に威圧的だったりするもんなんですけどね、

ティーブン、元カレであるジョシュに、自分はティナと関係を持っていないことをわざわざ教えるんですよ。

さらに「いつでもティナは君のことを想ってる」とか言っちゃうんですよ。

さらのさらに「(冒頭にサメ死した)親友は君のせいじゃない」と言ってくれるんですよ。
(それヒロインの役割では???)

恋敵なのに! 目の上のたんこぶだろうに!
もうおまえがヒロインでいいよ! と思ったのに、ホラー界では善行は時として死亡フラグになるものです。なりました。

上述したブレーカーのミッションにおいて、
ティーブンは自ら犠牲になりました。

この時の彼のいでたちは、サメ対策のためにありあわせの材料で武装していて、ネタにされそうですが笑う気になりません。
その死に様は、静かな静かなものでした。
人に優しくし、人のために行動し、自ら命綱であるホースを外した彼は、サメの餌食にされませんでした。
サメ映画なのに。制作陣の人情を感じます。

 

【③犬殺しは人殺しより罪深い】
ホラー映画に犬が出ると聞いて、たぶん全人類が不安になることでしょう。

犬はどうなるのか。

ご安心ください。無事です。
カップルの男が囮にしようとしましたが、大丈夫でした。

この映画、シビアな場面がありまして。
サメをおびき寄せるために、とある人物を生き餌にしたのです。
生きるための選択とはいえキツいな……と思っていたのに、犬だけ大変ご都合主義に助かった――のですが。

犬殺しよ。人殺しより悪い。


このセリフで解決しました。
そう。ホラーでは幼い子どもと動物は殺してはいけないのです。
だからまあ、サメのいる水の中に投げ込まれた小型犬がどうやったらプカーと浮かぶ板に乗って再登場できるんだよとかそんな小せえことはどーーーーでもいいのです。犬が助かれば!

(※ただしハイティーン以上はOK)

(※犬と猫は助かるけど、鳥はなんか死ぬ)

(※この線引きって深く考えたらダメなやつ)

(※ホラー映画特有の倫理観です。現実では犬も人間も同じくらい大事な命です)

 

【まとめ:最後まで堅実な『サメ映画』だった】
サメと犬の他に、もう一種の動物が出てきました。

鳥です。

鳥も重要な役者でした。
冒頭で鳴いて騒ぎ、「これから何かが起こる」という不穏さを演出する。
そしてすべてが終わり、やっとスーパーの外に出られた主人公たちの頭上、青い空を大きく羽ばたく。
救助用ヘリが飛ぶ中、静かな会話が交わされます。

「この後は?」
「やり直そう」 

 

そうして、あまりにも甚大な、津波の被害による惨状が大映しにされます。


どれほど大打撃を受けても、
それでもやり直す。
逃げられないなら、皆で立ち向かう。

 

主人公たちは画角の外なのに、彼らの大きな決意を感じられました。

 

ラストは鳥が飛ぶカット。

災害の前と変わらず飛ぶ姿に、じんわりと、「これは人間の再生の物語だったのかもしれない……」と思いました。

ホラーに限らず映画というのは、
「後悔がある過去をやり直すチャンスを与えられる」
ことがあります。

この映画も、サメによって、主人公や万引き少女がやり直すことができました。
(もちろんサメその他が来ないに越したことはないのですが)
またやり直すことはきっと可能だ、と思います。

飛んでいく鳥はきっと希望の象徴だ。
そうじわじわ感動して鳥が大海原を滑空するのを観ていたら――


サメが出てきて鳥をBAITにしました。


( ・⌓・)<希望の象徴食われたがな。


あ、うん。これサメ映画だったわ。
再確認できました。うん。

「サメ映画のくせにやるじゃねえか……」と感動していたんだけどな。うん。
(どこから目線の何様気取りなんだ)

最後の最後まで堅実にサメ映画でした。

 

【おまけの印象深すぎる場面】
①通気口からカニがうじゃうじゃ。
(集合体恐怖……)
②捕食される場面のエグさ。
(迫力があってグロい)
③藻みたいに浮かぶ死体。
(シンプルにキツい)
④最後はサメの一本釣りとSASUKE。
(ていうか水中でも撃てる銃がよく特殊車両でもない車にあったな……?)

面白かったんけど、なかなかメンタルに来る作品なので、
元気な時にでも観てください。


次回6月28日は、みんな大好きゾンビ映画の始祖、
1968年制作、ジョージ・A・ロメロ監督の
ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の話をします。
白黒でした。

 

鳥谷綾斗