人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

映画/鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎

映画館で観たホラー映画です。
2023年制作、日本の子ども向けホラーアニメの大人版因習系家族愛ホラーです。(長い)

 

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既に映画館で2回観てきました。

 

梅田ブルク

1回目は梅田ブルク、

 

大阪ステーションシネマ

2回目は大阪ステーションシネマです。キタ横断(?)です。
念願の『12月1日の映画の日に映画鑑賞』を叶えられてハッピーです😘

 

【あらすじ】
令和の現代より時は遡って昭和31年。血液銀行に勤める水木は、山奥にある哭倉村を訪れた。
当時の日本を牛耳っていた龍賀時貞の後継者が決まる場に立ち会うためと、謎の血液製剤Mを調べるためだ。
だが、長男の時麿が何者かに殺されてしまう。
怪しい人物として捕らえられたのは、『見えぬものが見える』白髪の男だった。
水木がゲゲ郎と名付けた男は、生き別れの妻を探していた。

 

【ひとこと感想】
容赦はないが救いは絶対にある、鑑賞後は思わず謝った、因習陰湿一縷の光系ホラー。

 

※全力ネタバレです。
※未鑑賞の方は映画館に行ってください頼みますマジで。
※いつもより長いです。ポイントが4つになりました。

 

【3つのポイント】
①導入は原風景
②見えざるふたつの戦い
③龍賀沙代という少女について
④クライマックスは吐き気、鑑賞直後は謝罪

 

【①導入は原風景】
唐突ですが連想ゲームです🍌

マジカル因習村👏

因習村と言ったら横溝正史👏

横溝正史と言ったらドロドロの遺産争い👏

という答えが成り立つレベルで、この国においては、
『閉ざされているコミュニティと、まかり通るのはそこだけだが深く根付いている俗習』

と、
『とんでもねぇ遺言によって起こる本家分家ごった煮の骨肉の争い』
は、この偉大な作家が生み出した世界観が基本とされています。

そんなわけであらすじだけ読んだときは、

( ・ω・)<横溝正史やないかーい💕

大喜びでした。大好きです。
そんなわけで入りは完全に『犬神家の一族』でした。
ていうかモブが「祟りだ」と言っていたので『八つ墓村』でもあります。
何そのチョコパ(昭和っぽい言い方)にプリン(昭和の代名詞)をのっけたような豪華さ。好き☺️

一族全員が体育館くらいの広さがあるハイパー大広間に集まって、真ん中に弁護士と、立会人という名の探偵役。
(地味ですが座布団に座る作法が正しくて感動した)

この光景は、日本のホラーミステリ好きにとってはいわゆる原風景ですね! 若い世代の遺伝子にも刻まれてほしい!(?)

昭和の影の部分を描くための空気作り、特にタバコの扱いが素晴らしい。
職場でも電車内でも平気で喫煙。
車内でも道端でも当然のようにポイ捨て。
咳き込む子どもがいてもお構いなし。

冒頭の車内で、その子を気にして喫煙を迷う水木は、その時代的には『異端』でした。
(水木の役割を何気に描いてた!)

薄暗い取引には葉巻。高価なガラス製のライターと灰皿を添えて。
盟友の誓いはタバコ。うまい酒と酔わないとできない話を添えて。
「一本くれ」――ゲゲ郎(のちの目玉おやじ)との距離感の描写もタバコが担っていました。

良いアイテムです。
自分はタバコが大嫌いですが、アイテムとしては相当好きです。

 

【②見えざるふたつの戦い】
そんなエモい始まりを経て、龍賀家の人々が惨殺されます。
『犯人は誰?』というミステリーから一転、禁足地と言われる島で、ふたりは妖怪『狂骨』と対峙します。

そういえばこれは鬼太郎のアニメだった。(思い出し)

そして謎は、『殺人は狂骨の仕業。では、その依代は誰?』という特殊フーダニットへ。

並行して、ゲゲ郎の見えざる者との戦いの裏に、水木の戦いも描かれていました。

それは本当に『見えない』戦い。
血液銀行の上司から、血液製剤Mについて調べろと命じられます。
投与すれば不眠不休で動く人間が作れるそれは、戦時中のように軍隊ではなくサラリーマン――企業戦士に卸すというのです。

 

水木の上司:「戦争はまだ終わってない」

 

敗戦からのし上がるために、血液銀行と――龍賀一族は『争って』いました。

日本という国を世界に君臨させるという『大義』のため、
『国』の権力者は戦争を始め、最中は一般兵士に「お国のために死ぬのが本望だと思え」と命じ、
『龍賀』の権力者は、幽霊族を捕らえて血液を奪い、村外の人々をさらって犠牲にし、より優秀な子孫を残すために実子や実孫に「当主に身を捧げろ」と命じたのです。

その犠牲のさらなる犠牲になったのが――水木が村で最初に出会った少女と少年、沙代と時弥でした。

 

【③龍賀沙代という彼女について】
彼女を想うと泣きます。
あまりにも憐れでした。

水木に鼻緒を直され、ほおを赤める彼女。
「おいおい今ので惚れたのか。チョロすぎんかこのお嬢さん」と思った自分を殴りたい。
今まで彼女は、自分を女(女体や子を作る臓器)として扱われてばかりで、女の子としては扱われなかった。
必要とされたとしても、たとえば鼻緒が切れても放置された――大事にはされなかった。

東京や自由に憧れた。でもここを出てもどうせ幸せになれないと泣いた彼女。
それでも水木を信じたかった。自身を利用したいだけだったとしても。

一旦は村から出ようとしたのに、水木が囚われたゲゲ郎を助けようと戻り、彼女は同行して――

 

乙米:「知っているのですよぉ、おまえがお父様のお気に入りだってこと!」

 

よりにもよって!
実の母親に、確実に時貞に同じ目に遭わされて誰よりも沙代さんの苦しみも怒りも理解できるはずの母親に!
死んでも知られたくない人に、殺してでも知られなくないことをとっくにバラされていた!

その瞬間の彼女の絶望は、想像してもしきれません。

すべてを呪った彼女は人間をやめ、狂骨に成り果て、母親を筆頭に村人を殺戮します。当然です。
笑いながら嘆き、泣きながら水木を手にかけようとした彼女は、「化け物め」と言われて殺され、青い炎に包まれました。「嫌だ」と悲鳴を上げながら。

祈りました。

頼む水木、抱きしめてやってくれ。
その子に、本来なら当たり前だったものを与えてやってくれ。
せめて最期に、手だけでも握ってくれ。

けれど叶いませんでした。
深く重い傷を背負う水木には、それはとんでもなく難しいことだったのです。

彼女には、ひとつの救いもありませんでした。

 

【④クライマックスは吐き気、鑑賞直後は謝罪】
そんな水木の泣き声(と自分のサイレント嗚咽)の中、決戦の舞台へ。

幽霊族の血で染まった巨大な桜の下で待っていたのは、
孫の時弥の体を奪った時貞でした。

すげぇ😦
骨肉の争いストーリーで誰もが思う、「遺言残したジジイが一番悪くないか?」を解消しに来た。(どんな感想?)🫨

若い体を得た時貞は有頂天で語ります。

幼い孫は今頃、自分の代わりに地獄で獄卒にいじめられてると笑い、
自分こそが日本を救うと、救世主に値する人物だと豪語し、
頭部は醜い老体で、体は幼い子どもという、心そのままを表現したようなグロテスクな姿で。

さらに幽霊族からは、血を奪うだけではなかった。
捕らえたものを生き永らえさせる血桜を使って、幽霊族を苦しめて怨念を募りに募らせ、
それを呪い返しすることで、怨念を糧に強くなる狂骨を作り出し、操っていました。

(# ゚Д゚)<そんな凶悪なSDGsがあってたまるかー!!!

今すぐやめろ持続さすなそんなもん! 絶やせ!

と、ダダギレしました。

こんなグロい存在がいていいのか。
関わるだけで魂が濁りそうな存在が。

そんな存在を目にして、水木は完全に絶望しました。
コントローラーを失った狂骨によって、この国が滅ぶのを望みました――が。

相棒のゲゲ郎は、ずっと探していた妻と再会し、

 

妻(岩子さん?):「ひとりじゃなかったわ」

 

その言葉を聞いて、このどうしようもない世界を『我が子が生まれる世界』『友が生きる未来』として守ることを決めて。

自らの肉体を犠牲にして、戦いました。

 

【まとめ:容赦は本当に無かったが】
公開初期の方のレビューに、『容赦も救いもない(試験も何にもない♪と掛けてる?)』とありましたが、断言します。

救いは確実にある。
鬼太郎が生まれたことが、ほぼ唯一だけれど絶対の救いだった。

だから鑑賞直後は謝りました。
かつて墓場で生まれた鬼太郎のことを、「怖い」とか「不気味」だと思ってすみませんでした。

ひとさまの大事なお子さんを、あんなに一族総出で望まれたお子さんをそんなふうに思って本当にすみませんでした!

鬼太郎が無事に生まれてきてよかった。
土をかき分けて地上に出てくるだけのガッツがあるお子さんで本当に良かったです!!!

 

【おまけ①:他の人物に対してつらつらと】
糸目の石田彰こと村長の長田。
自分が数十年間ずっと好きだった女(乙米)が、誇大妄想選民思想クソジジイとまぐわうのが栄えある役目だと言うの、どんな気持ちで聞いてたの。

奔放な次女・丙江さん。
最初はただの阿婆擦れ(失礼)だったのが、すべてを知った後で見ると、つらく苦しい過去を感じます。
人間が壊れるには理由がある。

廃人同然の次男・孝三さん。
ゲゲ郎妻さんとの脱出ストーリーが観たいです。

そして沙代さん。
目玉おやじと鬼太郎に掬われた時弥くんを迎えにきたけど、それでも『よかった』とは思えませんでした。

でも、もしかしたら。
彼女は救われてはいけなかった、のかもしれない。

何故なら現実世界にも、彼女と似たような境遇の人がいます。
昭和の当時にも、あまり考えたくないけど現代にも。
だから、せめて――沙代さんの生涯を目にした人間が、その境遇に、環境に、嫌悪感を覚えるべきだと思います。

性的虐待や暴行、ひとの尊厳を強奪して搾取する……そういうものを現実できちんと憎めるように。それが悲惨な物語の役目のひとつなので。

だからあんなに、直接的な描写はないのにリアルだったのかなと思いました。

 

時弥:「忘れないで。ぼく、ここにいるよ!」

 

時弥くんが残した言葉は、そのまま沙代さんにも当てはまります。

権力者どもがのたまう大義のために犠牲にさせられた人々。

(ちなみに沙代さん以外で泣いたのは、夜行列車にいた母子の末路と霊毛ちゃんちゃんこの誕生のくだり)

(自分がどんなことになっても愛すべき弱き子に心を寄せる。こう在りたいものです)

 

【おまけ②:「霊毛ちゃんちゃんこ!」じゃないよもう】
今回の映画で。

今まで『ご先祖さまの髪を編んだ』だけだった霊毛ちゃんちゃんこに。

とんでもなく重い設定を付与されました。

そんな気軽に投げていいんすかそれ。

(いや、ええやろ)
(鬼太郎が妖怪と人を守るためだし!)

 

 

次回は12月18日月曜日、
2007年制作、アメリカのモキュメンタリーホラー、
パラノーマル・アクティビティ』の話をします。

 

( ・ω・)<原稿中なのでお休みしま!

 

 

鳥谷綾斗