CATVで観たホラー映画です。
1963年制作、日本の特撮ホラーです。
【あらすじ】
窓から都会のネオンが見える精神病棟の一室。
元心理学者の村井は、世にも恐ろしい体験を語り始める。
かつて彼は海で遭難し、友人たちと無人島に漂着したのだ。
そこには『マタンゴ』という巨大なキノコがあった。
【ひとこと感想】
『幸せ』の概念への自信を失う、キノコ人間の悪夢。
※全力ネタバレです。
【3つのポイント】
①最初の願いは『帰りたい』
②最初から提示された『食うべからず』
③最後の思いは『食えばよかった』
【①最初の願いは『帰りたい』】
のっけから『協力:星新一』の文字に驚きつつ。
元心理学者の村井が、遭難者グループの唯一の生き残りとして証言するところから始まります。
ここで余談。
この映画の美術セット、とんでもなく好きです。
冒頭から、窓の外は昭和レトロでポップなネオン。
対する精神科の一室は無機質な牢獄風。
古びた廃船に、キノコが支配する奥深い森。
全部悪い夢に出てきそうで、ある種の美しさがあります。
さて、最初のパートは大海原。
ナウでヤングな成功者たちが、よんせんまんえんのヨットで遊んでいます。
心理学者の村井、彼の教え子明子、船の持ち主で社長の笠井、歌手の麻美、作家の吉田、笠井の部下の作田、雇われ漁師の小山の7人です。
船長っぽくパイプを燻らせたり、ラララ〜と歌ったり、他人の女にコナをかけたり乱痴気騒ぎ。
(もうこの時点でイラっとします😇)
(ホラーですから必要な感情です😇)
天気が悪いのに引き返さず進んだら、案の定嵐が来て遭難。
たどり着いたのはあまりに静かな無人島。
身を寄せられそうな廃船はカビと胞子だらけ。
人が住んでいた様子なのに、出ていった形跡も死体すらない……
ここで物語の目的が判明しました。
要はサバイバルものです。脱出要素は弱めですが。
住処を整え、食べ物や水を集め、元いた快適な都会、『選ばれた』自分たちの本来の居場所に『帰りたい』――というのが目的です。
しかしそうはいかないのが人間というもの。
(ところでそのカビに覆われた廃船、パッと見がカレー粉とココアをまぶしてるみたいでした)
【②最初から提示された『食うべからず』】
意外だったのは、
『マタンゴを食うな』
と最初から提示されている点。
戸棚を開けたら身の丈1メートルはありそうなマタンゴ。いやでかいなマタンゴ。
核実験の影響を調査する過程で発見され、水爆実験の放射線によって変異したらしいマタンゴ。つまりゴジラの仲間かマタンゴ。
先人たちが『マタンゴを食べたことで仲間が次々と消えた。だから食うな』と書いているにも関わらず――
彼らはマタンゴを食べました。
何故なら彼らは限界だったからです。
事前に耳にしたラジオで捜査は打ち切られたことを知り、船に残された食料はわずか、脱出しようにもヨットも船も壊れ、獣どころか鳥も寄りつかない島で、
真夜中になれば キノコを被った黒い人影 が現れ、自分たちを監視している。
空腹と不安で壊れた彼らは、缶詰を独占しようとする、実験用のアルコールを飲む、女をめぐって争う。
その延長線上に、『マタンゴを食うこと』を選んだのです。
【③最後の思いは『食えばよかった』】
雨が降り始め、7人は船に閉じ込められます。
反対に島内のマタンゴは、ムクムクと大きくなります。
限界を迎えた彼らは、一人、また一人とマタンゴを食べ、暴れ、命を落とします。
そして卑怯な手を使い、村井、明子、笠井に船を追い出された麻美。
彼女はひどく穏やかで妖艶な笑みを浮かべ、
麻美:「このキノコを食べるといつかキノコになるのよ」
「でも一度食べたらやめられない」
そう囁き、笑い声が響くマタンゴの森へ誘います。
巨大化し、増殖するマタンゴは、突然むくっと立ち上がりました。
それはキノコの群生ではなく、マタンゴに寄生された人間でした。
残された村井と明子も諍いが絶えなくなり、
キノコ人間たちの襲撃を受け、再びマタンゴの森へ。
先に拉致された明子は、
明子:「先生ー!」
それはもう幸せそうな、最高に可憐な笑みでマタンゴを食べていました。
そのとき、思いました。
この人たちは、マタンゴを食う前から人間をやめたんだな。
いつか訪れる死を想う、想わずにはいられない人間であることがつらすぎて、マタンゴになることを選んだんだな。
そう選んだ人間の成れの果て=グロテスクな姿のキノコ人間たちが、アハハハ……フフフフフ…… と笑い声をあげて襲ってくる。
眩暈がするほどの悪夢でした。
そこから命からがら脱出した村井。
ですが彼は、『きちか“い』扱いされ、動物のように檻の中に閉じ込められ、医者たちに監視されました。
村井:「明子を愛してるならキノコを食うべきだった」
「生きて帰って何になる(帰っても隔離されただけだった)」
「あの島で暮らした方が幸せだったんです!」
そう訴えた村井の顔には、マタンゴが生えていました。
【まとめ:いつだって現代人は弱い】
この登場人物に対して、「弱い」というのは簡単です。
特に笠井の『弱さ』が際立っていました。
社長として堂々と偉そうに生きていたのに、食料も探さず船から出ようともしなかった。
笠井:「僕はもうダメだ」
村井:「君は食わなくても生きていけると思ってるのか。
どうして君は自分で動こうとしないんだ!」
笠井:「いっそ殺してくれ。僕は、自分で死ぬこともできない人間だ」
しのごの言わずに動けっつってるのにこの返し。
(その直前に、笠井にウミガメの卵を1万円で売りつけていた小山があっさり死んだのも、彼のダメージになったのかもしれませんが)
(小山はたくましかった。この状況でも金を集め、「俺はこの金を絶対に生き金にしてやるぜ💴」と意気込んでいた)
(こういうやつは大好きですが、あっさり撃たれて死亡しました。彼の死体に散らばった金が切ない)
笠井アカンな、と呆れました。
それに対して「貴様一人くらい何とでもしてやるよ」と言える村井がかっこいいです。
でも自身に置き換えると、そう断じることはできなくなります。
たとえば自分は、出先がトイレが綺麗じゃない際は、つい我慢しようかなと思ってしまいます。
トイレなんて用を足せれば十分なのに、そこに快適さを求めてしまう。それを当然だと思ってしまう。
夏場は毎日入浴したい。毎日洗濯したい。
それを取り上げられたら――こんな感じになるんじゃないかなぁと予想するのです。
だからちょっと耳が痛い😨
あの状況なら、
マタンゴを食う方が幸せなのかもしれないと思う。
『幸せ』というものの概念が揺らぐような、そんな作品でした。
次回は10月30日月曜日、
2023年制作、日本の都市伝説闇鍋Jホラー、
『リゾートバイト』の話をします。
鳥谷綾斗