ゲオで借りたホラー映画です。
2019年制作、アイルランド・デンマーク・ベルギーのSFホラーです。
【あらすじ】
家を探す若いカップル、小学校教師のジェマと庭師のトム。
不動産屋・マーティンに『ヨンダー』という郊外の住宅街を紹介される。
内見に行くが、いつの間にかマーティンが姿を消し、二人はヨンダーから出られなくなった。
翌々日、男の子の赤子が届く。それには「育てれば解放される」と書かれていた。
【ひとこと感想】
コピペ住宅街での子育てを描いた〝ライフ〟ホラー。
※全力ネタバレです。
【3つのポイント】
①コピペ住宅街・ヨンダー
②イビツな子育て
③逆転する関係性
【①コピペ住宅街・ヨンダー】
ビバリウム #とは
自然の生息状態をまねて作った、動植物の飼養空間。
このタイトルと、冒頭のシーン――『托卵』。
カッコウのヒナが托卵先のタマゴやヒナを巣から落とす場面で、『これは何の物語なのか』を示唆しているのが、非常に美しかったです。
ジェマとトムが招かれた町、ヨンダー。
ミントグリーンの外壁で、モダンでシックな内装の家は、すべて同じ外観でした。建売住宅ってレベルじゃねぇ。
宅配業者泣かせかと思いきや、その町にはジェマたち以外いません。
屋根に登って見ると、同じ形の屋根がずらっと並び地平線を覆っていて、
空は、『雲』としか言えないような同じ形の雲が等間隔で並ぶ。
( ・ω・)<コピペって怖くね?
(※「無限ループって怖くね?」の語調で)
上空から見れば、完全に墓地にしか見えない場所に閉じ込められ、
食料と段ボールに入った赤子を与えられ、ジェマたちの子育てが始まります。
【②イビツな子育て】
「あら、ふくふくして可愛い赤ちゃん☺️」と思ったのも数秒、3ヶ月程度で『赤子』は『子ども』に成長しました。
(柱に身長を刻むので日数がわかるのすごい)
名付けられることのない『子ども』は、
①成長速度は犬並み。
②食事をねだる際は「ピャーーーーー!!」と奇声を発する。
③『親』の物真似、口真似をする。
(食事の作法や、夫婦の口喧嘩を再現する)
④同じ行動を延々くりかえす。
⑤テレビ(謎の音と謎の幾何学模様しか発信しない)をずっと見続ける。
異常な状況と①以外は、「普通に子育てだな……」と思ってしまいました。
ただし、『子育ての嫌なorうっとうしいところ』を凝縮しています。
子育てに必須な『愛情』がないのです。
見かけは人間でも、明らかに自分たちとは異なるモノ。
自分たちをこんな目に遭わせたモノたちの仲間に、そんなものが持てるわけがない。
中指を立て合うイビツな(ある意味正常な)家族でしたが、ある日、ブチギレたトムが『子ども』を餓死させようとします。
それをジェマが止めた。
いつしかジェマは「あの子」と呼び、トムは「あれ」と呼ぶようになる。
トムは「何かせずにはいられない」と庭を掘り続け、やがて『父親』と『母親と息子』で、食事も睡眠も別々になる。
( ・⌓・)<いやこれ子育てでよく見る光景……
状況その他を抜かせば、『妻子に背を向ける夫』『夫に好きなようにさせる妻』もあるあるあるある。
SFの世界観なのに、ひどく『生活感』を感じました。
家庭内不和を起こす家から逃げることもできず、狂いたくても狂えない。
決定的なことは起こらず、ただ漠然とした不安と一緒に眠り、同じような毎日をくりかえし、時間だけが流れる。
息苦しいような、形のない恐怖がありました。
それでもジェマは何かヒントを得ようと、小学校教師のスキルを活かして、『奴ら』と『子ども』の正体を探りますが――
『子ども』の首筋が左右ともにぼこりと膨らみました。
まるでカエルの呼吸のように🐸
この瞬間、芽生えかけたジェマの母性が潰えました。
やはりこの『子ども』は人間ではなく化け物で、自分たちはそれを育てるために存在している。
その事実が、彼女を徹底的にぶちのめす。
屋根に書いたSOSは、『HELP』から『FUKU(クソッタレ)』に変わって、
そして『子ども』は、『青年』へと成長しました。
【③逆転する関係性】
不動産屋・マーティンそっくりに成長した『青年』。
対して、穴掘りの疲労で体がどんどん弱っていくトム。
献身的に尽くすジェマも、もはや限界が近い。
『青年』に、トムもジェマも怯えるようになります。
自分たちより大きくなったからです。
力では敵わないと察してしまったからです。
(『息子』が二人の『親』を家から追い出すのが非常に暗示的)
やがてトムは倒れます。
ジェマと初めて会った時のことを話し、
トム:「家にいる気がした。君がいるだけで」
場所ではなく、ジェマがいるところが『家』だったと残し、トムは目を閉じます――
ここからが地獄でした。
『青年』は死体袋を持ってくる。
トムの遺体を詰め、青年は空気を抜いて圧縮する。
この時のジェマの、引き攣るような泣き方が痛ましく、それを真似ようとする『青年』がとにかく不快。
死体をズルズルと引きずる『青年』。
それを四つん這いで追うジェマ。
モノ同然に穴に放り捨てられるトム。
悪意と絶望が詰め込まれたシーンで、えぐかったです。
(その穴がトム自身が掘ったものというのがまた……)
( ・⌓・)<なんだこの地獄は……
ジェマは『青年』を殺そうとしますが、彼は両生類か爬虫類めいた動きで逃げます。
玄関先の段差をベロンとカーペットみたいに剥がし、亜空間へ。
そこにはジェマたちと似たような目に遭った人々がいました。
そうしてジェマは『青年』に囚われ、死体袋に入れられます。
死の寸前、彼は囁きます。
あなたは母親。
世界のために息子を育てて、
育て終わったら死ぬ。
自分の役目を知ったジェマは、涙をこぼします。
ジェマ:「家が欲しかった。それだけなのに」
『青年』:「バカなママ。ここが家だよ」
短い会話の後、死体袋がファスナーが、閉められました。
【まとめ:トムとジェマの死因】
要は、
謎の生命体(カエル系?)が人間に幼生体を育てさせるために町ひとつ作っていた。
という話でした。大規模托卵です。
生理的嫌悪感をもよおす物語と演出。コピペって怖い。
結末も胸糞ですが、化け物にママと呼ばれたジェマの、最期の言葉が強かったです。
ジェマ:「私はあんたのママなんかじゃない」
『青年』:「あっそ」
『青年』の拗ねたような物言い。
最後に一矢に報いたのかもな、と思います。
けれど、だからと言って何が変わるわけでもない。
彼が不動産屋に向かうと、そこには老衰寸前のマーティン。
彼が名札を取ると、老マーティンは息を引き取りました。
ああ、こうやって引き継がれるのか。
トムとジェマが死んだ理由も同じでした。
『役目』を終えたから死んだのです。
――などとしみじみしていたら、
老マ(略)の死体を袋に入れる『青年』こと新マーティン。
なんと ボキボキボキッ と、死体袋を折り始めました。
( ・⌓・)<いや折るな。
さらに事務所のチェストの中に入れました。
( ・⌓・)<いや収納するな。
最後のの最後にシュールな……
でもこの新マーティンも、いつか同じように圧縮されて折り畳まれるんでしょうなぁ。
生活と人生、そして命。
三つの『ライフ』を描いたホラーでした。
【🥳最後に宣伝🥳】
2024年7月21日(日)、
奈良の小説教室にて、
『ホラー小説の書き方』のお題でゲスト講師を務めます!
「ホラー小説を書くのは初めて」という方も、
「ホラー小説を書いたことがあるんだけど」という方も、
楽しめるような内容にしたいと思います!
具体的にいうと、
①初級:『恐怖』を書いてみる
②中級:ホラーで書籍化ハウツー
③?級:流行りの因習村とサイコパスとモキュメンタリーの概要とポイント
①の初級は問題文というかホラードリルを作ってみてもいいかなぁと。
お申し込みお待ちしております!
次回は7月15日月曜日、
2019年制作、オーストリア・イギリス・ドイツの合作SFスリラー、
『リトル・ジョー』の話をします。
予定が変わりまして、
2024年制作、日本のサメ映画、
『温泉シャーク』の話になります!
鳥谷綾斗