人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

映画/ミッドサマー

ネトフリで観たホラー映画シリーズです。
2020年製作、アメリカのサイコロジカルホラーです。
ちなみにディレクターズカット、18禁版を観ました。
(まじで18禁だった)

(リンクはアマプラ版)

 

ミッドサマー(字幕版)

ミッドサマー(字幕版)

  • フローレンス・ピュー
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【あらすじ】
心理学を学ぶ大学生、ダニー。
精神を病んだ妹が両親を道連れに自殺し、天涯孤独となる。
ダニーは恋人のクリスチャンとの仲を取り戻すために、スウェーデンからの留学生・ペソの誘いを受けて、彼の故郷の村・ホルガに向かう。
壮大な緑に囲まれ、花が咲く美しい白夜の村では、90年に1度の“祝祭”が催されていた。

 

【ひとこと感想】
やっぱりハッピーエンドな気がする精神汚染ホラー。

 

※全力ネタバレです。

 

【3つのポイント】
①単純すぎるプロット
②色彩あざやかな映像美
③白日に晒され続けるグロテスク

 

【①単純すぎるプロット】
この映画、あらすじは実に簡単。

『大学生グループが旅行先でひどい目に遭う』。

人生で2番目くらいによく見たホラー映画のあらすじですね。
(1番目は『あの噂(怪談あるいは都市伝説)は本当にあった!』です。)

そんな馴染みがありすぎるこの作品、斬新な点は、『行き先が山奥のキャビンでも奥地の秘境でもなく、明るく解放的な観光地っぽい村だった』ことです。

穏やかな装いの山々に囲まれ、村人が親しげに微笑み歓迎してくれる、この世の天国のような村でした。

そんなホルガにいきたいかーーーー。

という視点でお話ししたいと思います。

 

【②ホルガに行きたいか/色彩あざやかな映像美】
ホルガは風景のロケーションが最高ですが、それ以外のビジュアルもとにかく良いのです。

ベッドカバーやタペストリーなどのキルティング、そしてファッション。
とにかく村人の服が可愛い。
夏至の祝祭のために、村人は白を基調とした民族衣装を着ています。
軽やかな風合いのリネン生地、手作りっぽいあたたかみのあるゆったりとした白いワンピース。
祝祭が進むにつれて、衣装には色あざやかな刺繍を施して、花冠でおめかしします。

インスタ棲息民なら『#ミッドサマーコーデ』とタグつきで写真をアップしたいくらい可愛いです🌻🌺🌼

特に村の女王・メイクイーンとなった時のダニーの衣装。
白いワンピースに花飾りをあしらったつけ襟をつけて、黄色や青の大きな花冠を頂いていました。

(女王の決め方は、謎の柱の周りで女性たちが踊り狂って最後まで立っていた者であること)

(要は体力勝負か理にかなってるな…と思いきや、アレな薬を投与されていたので実はダニーを女王にするための出来レースかもしれない)

しかしラストシーンの、メイクイーンの衣装は『神秘的』と『ギャグ』の紙一重でした。
大量の花でできた『🌼花だるま🌱』に埋もれるダニー。動くと芋虫みたいでした。
裏話によると、花だるまは15キロもあるそうです。おつさまです。

こんな感じでラスト以外は、服装その他がとても好みなので、「あらこの村に行ったみたいわねウフフ」みたいな気持ちでした。

 

【③ホルガに生きたいか/白日に晒され続けるグロテスク】
さて滞在2日目で、ホルガの闇の部分が明かされます。

まずは『アッテストゥパン』という儀式。
これは72歳を過ぎた老人が、自ら崖から飛び降りる棄老の儀式でした。
ダニーたち余所者は当然嫌悪します。

自分もこの時点では、「これはこれで良い死に方なのでは……」と思っていました。
死ぬまで共同体の一部として見なされ、決して孤独死にならない。
万が一死に損なった(老人の2人目は推定5階建てのビルの高さから落ちたのに、足からだったので一命を取り留めてました。めっちゃタフやん)としても、きちんと面倒を見てくれる。

いいんじゃないでしょうか。
(理屈ではなく感情で物を言う)

『アッテストゥパン』の次に、幼い子どもが我が身を犠牲にしそうな儀式がありましたが、それは回避。
そこの倫理観はしっかりしてるな……と、好感度をキープし続けました。

ダニーの恋人・クリスチャンが、村の美人娘・マヤに目をつけられてワンチャン狙われるまでは。

ダニーの『理解がある彼くん』だった(しかしそこはかとなくクズかった)クリスチャン。
彼は普通にクスリを盛られ(ていうかめっちゃ気軽に薬物摂取するなこの監督の映画)、マヤと、生の営みを強制させられます。

村人の女性(すっぽんぽん)数人に囲まれて。

来ました、18禁の18禁たる所以のシーンです。

他にも頭が潰れた死体とか芸術的に飾られた死体とかお人形遊びみたいにリメイクされた死体とか色々出てきましたが、いちばんキツかったのはこの場面。

ハッスル中、老女(すっぽんぽん)に尻を鷲掴みにされてインサートを促されるクリスチャン。
姉に頭を撫でられながら快楽に悶えるマヤ。
その快楽に共鳴して喘ぎ声を出す女性たち。

よくもまあこんな場面を思いついて且つ撮影したもんだな???
『ヘレディタリー』でも思ったけど)

 

これを『普通』とされる村です。
そんなホルガに行きたいか。
私の答えはノーです。

けれどダニーは、この村の一部になる結末を選びました。

 

【まとめ:ハッピーエンドの定義が『苦しむ主人公の救済』だとしたら】
ダニーはとても哀れな女性です。
心を病んだ妹に両親を殺され、天涯孤独となりました。
唯一の拠り所、クリスチャンは優しいけれどその場凌ぎの対応しかせず、電子図書館の使い方も分からないくせに友人の論文のテーマを真似するというごく普通のプチクズ。
クリスチャンの浮気で一縷の糸すら切られ、絶望する彼女を救ったのは、

ホルガの共鳴精神と、
女王として生贄を決められること――でした。

最初こそ死にゆく生贄を目の当たりにし、ダニーは拒絶し、泣き叫びます。
ですがダニーは、やがて実に晴れやかに笑うのです。

その瞬間、彼女は正気をぶん投げました。
彼女は真の自由を得た。すべての苦しみから解放された。
すなわち『人間』をやめた。

だから、ダニーはもう苦しくない。

と、いう点はまぎれもなく超絶ハッピーエンドなんだなぁと頷きました。

しかしホルガ、最初は良い村だと思いましたが、
やはり御免ですね個人的に。
オブラートを取っ払うと、「大変うぜぇ」のです。
特に感情に共鳴する点。

あなたの悲しみは私の悲しみ。
私の苦しみはあなたの苦しみ。

ホルガの人々は、
クリスチャンと営みをするマヤの快楽、
恋人の浮気を知ったダニーの絶望、
そして業火に炙られる生贄の苦痛を感じ取って、同じように息を合わせて悲鳴や嘆きを大合唱します。

それはどことなく芝居かかっていて、実際にやられたら「バカにしてるん?」と言いたくなるような様でした。

非常にうるさい。非常にうっとうしい。
共鳴・共感で救われる面はあるけれど、「気持ちが分かると言うけれど何の助けにもならない」と言うのは非常にイラッとしました。

何よりここは、マイノリティは生きていけない。
大多数が殉ずる『普通』の外に出てしまった人間は、ここでは絶対に生きていけない。
ホルガの村は、全員が同じ思考を持っているからです。
こういう共同体は、滅ぶのは一瞬なんだろうなぁ、と思いを馳せました。

世にも恐ろしい、真っ白な夏の悪夢でした。

 

次回は11月29日月曜日、
2021年制作、日本のホラースリラー、
『降霊』の話をします。

 

鳥谷綾斗