ツタヤでレンタルしたホラー映画です。
2021年制作、アメリカの超自然的スラッシャーです。
【あらすじ】
シカゴ美術界の黒人救世主と呼ばれる画家、アンソニー。
スランプに陥る彼は、恋人のブリアナの弟から『キャンディマン』の都市伝説を聞く。
それは、彼らが住む高級住宅地がかつてカブリーニ・グリーンというスラムマンションだった頃に実在した、恐ろしい怪物だった。
彼はこの話にインスパイアされ、『私の名前を呼べ』という作品を生み出す。
【ひとこと感想】
約30年経っても消滅しなかった、恐怖と希望を司るモンスター。
※全力ネタバレです。
【3つのポイント】
①予想可能だった話筋
②『狂人』にされたヘレン・ライル
③求め続けられる殺人鬼
【①予想可能だった話筋】
最初に流れるのはまさかのテーマソング。
♪〜彼は愛を振りまく存在〜世の中を楽しくする〜♪
( ・⌓・)<キャンディマンがそんな 🍔ドナルド🍟 みたいな存在に!?
29年の時間は伊達じゃないな、殺人鬼にそんな変化が訪れるなんて……と度肝を抜かれかけたのですが。
ご安心を、残念なことに、
キャンディマンはキャンディマンのままでした。
鏡の前で5回名前を唱えたら鉤爪で殺しにくるものであり、
その存在理由も、29年経っても変わっていませんでした。
もう少しストレートにいいますと、
映画『ゲット・アウト』の監督がキャンディマン作ったらそらこうなるよな、というプロットでした。
(正確にはジョーダン・ピール氏は脚本担当)
そして本作の導入(スランプの黒人芸術家が『キャンディマン』の話にインスパイアされた絵画を描く)の時点で、もはや結末の予想は容易でした。
【②『狂人』にされたヘレン・ライル】
『キャンディマン(1992)』の精神的続編とされる本作。
前作の主人公、ヘレンにも言及されています。
キャンディマンのことを調べるうちに標的となったヘレン。
孤独となっても戦うことをやめず、赤子の命を救った英雄のような彼女なのに、都市伝説の中では犬を殺して赤子を攫い、最後は火柱の中に飛び込んだ狂人にされてしまった。
尾鰭がつきまくった噂話が、まるで真実のように語られる。
この残忍な図式は、キャンディマンが誕生した『原因』にも通じます。
キャンディマンはなぜ生まれたのか。
始まりは、黒人画家が白人貴族と恋に落ち、結婚を反対する父親によって手首を落とされて蜂に食われるという逸話。
時代が進んでも、似たようなことが起こりました。
ある黒人男性が、子どもにカミソリ入りのアメを配ったとして白人警察に射殺される冤罪が起こったのです。
警察を含める白人たちは、不都合な事実を隠すため、黒人たちの居場所であるカブリーニ・グリーンすらも取り壊した。
高圧的な差別意識と偏見による短絡的な決めつけ(妄想や願望に近い)が、身勝手な暴力を生む。
社会に巣食う陰惨なこの図式は、現存し続けている。
同じ場所にシミが浮かび続けるように、無限ループのように、いつまで経っても消えない。
それこそが『キャンディマン』という殺人鬼の存在理由なのです。
【③永遠に求め続けられる殺人鬼】
アンソニーは、確かに芸術家として成功を収めました。
けれど依然、やっかみや軽蔑を受け続けます。
(ちなみにやっかみカップルが最初の犠牲者。画廊でいちゃつきながら殺されるシーンの演出が大変スタイリッシュ)
これは『アンテベラム』のテーマにも通じますね。
人々の意識の底には根強い感情があり、
ふとしたキッカケで簡単に100年以上前の思想に戻る。
黒人のコインランドリー経営者、ウィリアムは語ります。
ウィリアム:「愛されたのは絵で我々じゃない。
ひどい物語や苦痛は永遠に続く」
その言葉は的中し、アンソニーは結果的に白人警察に射殺されます。
彼は片手をなくし、蜂の毒で立っているのもやっとの状態だったのに。
白人の警察官たちは、「発砲するしかなかった」とほざきます。
生き残ったブリアナは口裏を合わせるように脅迫を受ける。
ブリアナ:「全てを話すから鏡を見させて」
そうして蜂と共に現れたキャンディマンは、
アンソニーでした。
( ・ω・)<予想が当たってしまった……。
【まとめ:キャンディマンは象徴だった】
結末に至る伏線が非常に丁寧。
キャンディマンの絵を描いたこと、
鏡に映ったアンソニーの姿がキャンディマンだったこと、
そして彼が実は前作でヘレンが助けた赤子=カブリーニ・グリーン出身だった、という事実が判明したとき、
ああ。
アンソニーはきっとキャンディマンになるんだろうなぁ。
と予測しました。悲しいことに的中。
未だに、静かな、隠れた、根強い差別意識が人々の間に残り続けたからです。
アンソニー:「伝えろ。すべての者に」
最後、アンソニーはブリアナにそう告げます。
このセリフ、自分は『覚悟と願い』だと感じました。
虐げられた者たちの希望である殺人鬼。
それを求める同胞のために、鉤爪を持って生きる覚悟。
『キャンディマン』のことが広く正しく伝わることで、殺人鬼も差別もいつか消えるようにという願い。
またひとり増えてしまった『キャンディマン』。
いつか消滅することができたら、と思います。これもまた願いです。
次回は4月10日月曜日、
2013年制作、アメリカのホラースリラー、
『パージ』の話をします。
鳥谷綾斗