人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

映画/黒い家(1999年版)

アマプラでレンタルしたホラー映画です。
1999年制作、日本のリアルサイコサスペンスです。

 

 

 

 


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【あらすじ】
生命保険会社に勤める若槻は、ある日、女性からの問い合わせの電話を受ける。
「自殺でも保険金は下りますか?」
女性が自殺するつもりだと思った若槻は、思いとどまらせようとする。
後日、若槻は菰田重徳という男の家を訪れ、小学生の息子・和也の首吊り死体を発見する。
母親の菰田幸子は、問い合わせの電話の女だった。

 

【ひとこと感想】
『ホンモノ』を見せてやるよと馬乗りにされる、不条理・理不尽・嫌悪感サイコホラー。

 

※全力ネタバレです。

 

 

【3つのポイント】
①懊悩:サイコパスとは何ぞや
②観察:最凶・菰田夫婦
③潜入:黒い家

 

【①懊悩:サイコパスとは何ぞや】
ここ1ヶ月ほど、創作において悩んでいることがありました。

サイコパスって何?

それなりにホラーを書いてきてサイコパスも扱ったことはありますが、改めて考えると。

具体的に何をどうしたらサイコがパスってることになるの?

まあたとえば路上でポイ捨てだの痰吐きだの電車などで迷惑行為だのする人間は確実にサイコパスだと思うんですけども。(過激発言)

でも創作物においては、たぶんそういうことではない。

🤔

悩んだ末、原点に立ち戻ることにしました。
日本現代ホラー界におけるサイコパスの元祖――『サイコパス』という言葉を広め、概念を植えつけた人物。

『黒い家』の菰田幸子。
映画版は、大竹しのぶさんが演じられています。

昔から自分は「大竹しのぶ演じる菰田幸子を見ずして国産サイコパスを語るべからず」とたびたび主張してきたのですが。
もしかしたら過去美化現象が発動してる? と不安になりまして再鑑賞しました。

再確信しました。

やっぱり最凶だった。(やばい)

 

【②観察:最凶・菰田夫婦】
冒頭からこの世の底辺、ドブ川のような世界観です。

窓口のクレーマー、保険の給付金目当てに詐病をくりかえす契約者、早々にうんざりしたところで、菰田夫婦が登場。

第一印象は、『小学生くらいの時に、こんなおっちゃんおばちゃんおった気がする』です。

なんか『知ってる』のです。
口調が絶妙に幼くて、(言い方が悪いですが)年相応の賢さがなさそうで、
あるいは声がやたらとデカくて発音に少し違和感があって、多動的。
妙に挙動不審なんだけど妙に愛想がいい、そんな『大人』。

そんな相対したら警戒せざるを得ない夫婦の息子、和也が首吊り死体で発見され、重徳は毎日窓口を訪れて給付金を催促する。
若槻の話を聞いて、心理学者の金石は重徳を反社会性人格障害だと断じます。

 

金石:「異常であるが、精神障害者ではないんです。
    彼は常に正気なんです」

 

若槻の恋人・恵はその意見に反発しますが、幸子が昔書いた作文を分析して、

 

「この人間には、心がない」

 

と、作品のキャッチコピーでもある言葉を告げます。

ここから一気に急転直下、
生理的嫌悪感を煮詰めたような惨劇をぶちかまされます。

 

【③潜入:黒い家】
前半の、やたら飛沫を立てて泳ぐ若槻や、黄色系ファッションを着こなしボウリングを楽しむ幸子、さらに海にバカンスに行く菰田夫婦など、呑気な退屈なシーンから一転、

(幸子が『明らかに自殺するタマちゃうやろこのおばちゃん』なので、どんでん返しが効いてなくて残念)

両腕を切断し、虚ろな表情で病院のベッドに座る重徳が出てきます。
幻肢痛に苦しんでいるのに、幸子に笑い物にされる姿は、もう最悪に生き地獄でした。

交渉専門の三善に包帯の上からさすられ、
幸子と三善に挟まれて、口をぽっかり開けて目だけキョロキョロキョロキョロ動かす。

これらはJホラー史に残る恐怖場面です。一生忘れられそうにない。

演技が実に細かく、最高に気持ち悪くて哀れで目を背けたくなります。西村雅彦さんすごい。
(この演技の方向性(?)はおそらく日本独特かと。寡聞ですが海外でこんなの見たことない)

そして恋人の恵をさらわれ、若槻は『黒い家』に潜入します。

実に汚くて猥雑で、生々しい臭いが漂ってくるような『溜まり場』でした。

生ゴミが散乱する部屋、
カーテンだけやけに明るく綺麗な黄色で、ゴミとホコリだらけの廊下、
かと思いきやロココ調の椅子とテーブルとトロフィーが飾られた部屋、
死臭と人肉の腐臭で満ちて、肌色の大人のおもちゃが蠢いて、浴室は血まみれで……

いや美術スタッフの作り込みエグいな???

特に肌色(あえて薄橙色ではなくこう表現します)のやつ。
何を思ってこんなアイテムを放り込むのか。どうかしてるぜ製作陣。(誉めてはいる)

そんな黒い家と会社で死闘を交わし、若槻はなんとか助かりました。

 

【まとめ:菰田幸子は別格だ】

結論、
サイコパスの元祖はやはり違った。

なんかもう最近よく見る『楽しそうに人を殺す系サイコパス』とか赤ちゃん同然ですね。
彼女は別に殺人を楽しんではいない。たぶんすごく頑固な汚れを掃除するくらいの感覚なのでは。

ラストの、ガラスの破片が突き刺さったボウリングボールの放出は、おそらく『ミザリー』と同じオチでしょう。

サイコパスに遭遇したら、
戦おうとするな。逃げろ。

とは言うけれど、実は『逃げられるものではない』。

もうこびりついてしまったから。
人の心がない人間の恐ろしさを。

悪夢は続くよいつまでも。

 

【おまけ:学習で得たもの】
参考までに、菰田幸子の奇行を振り返ってみます。

①「両腕を失った高度障害の保険金をもらった後、重徳が死んだらもう一度もらえるのか?」発言。

これはまだ理解できます。ちなみにもらえません。
しかし、

②切断した腕を新聞紙に包んでスーパーの袋に入れて、スキップの足取りで持っていく。
③トイレ金魚。
④破片ボウリングボール。
「乳しゃぶれぇ!」

これらは全然理解できません。
②はナチュキチのトラウマ案件です。わあ軽やかなステップ&笑顔。
④はどうやって作った&若槻も素手で触るなよ。

③と⑤は意味分からなさすぎて、幸子の「あたしも親に保険金目当てで手首を切られた! 同じことして何がいけないの!?」が頭に入りませんでした。モンスターを紐解く手がかりなのに!

さて。
肝心の、鑑賞の動機――「サイコパスとは何か?」の答え。

分からん。
というかサイコパスとは、理解してはいけない。

一応答えのようなものが見つかりました。ありがとう黒い家。
(韓国版も再鑑賞したい)

 

【おまけのおまけ】
この映画、最狂サイコパスが登場するにふさわしく、全体的に結構トンでます。

水泳とボウリングのシーンの意味はよく分からないし、
若槻と金石が花火持って踊り狂うのも意味不明だし、
若槻の寝方が尻を突き出してうつ伏せになるのも(略)、
あと恵が昭和映画のヒロインでした。

でも最後、若槻が倒れた菰田幸子に消火器をぶっかけるのは「目の前から消したかった」のかなと解釈できました。
いや消火器で頭を潰しなさいよ。
(ホラー映画過剰摂取により歪んだ発言)

最後に。
最大の被害者である菰田和也くんに、哀悼の意を表します。
(モザイクかかってて驚いた)

 

 

次回は3月13日月曜日、
2012年制作、アイルランドのピエロ系ホラーグロコメディ、
『道化死てるぜ!』の話をします。

 

鳥谷綾斗