人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

映画/沈黙のパレード

映画館で観た映画です。
2022年制作、日本のミステリーヒューマンドラマです。

 

 

 

 

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【あらすじ】
物理学者・湯川の元に内海刑事が訪れる。
湯川の職場近くにある料理屋の娘・並木佐織が遺体となって発見されたのだ。
容疑者の名前は蓮沼。
かつて湯川の親友である草薙が、完全黙秘――『沈黙』によって不起訴にしてしまった男だった。
だが蓮沼は、菊野市の秋祭りで行われるパレードの最中に謎の死を遂げる。

 

【ひとこと感想】
苦々しい真実を受けても、今日も仕事を続ける『大人』の姿。

 

※全力ネタバレです。
※今回はちょっとノスタルジックな感想です。あまり内容に触れていません。

 

 

【3つのポイント】
①再会:「湯川先生だー!」
②加齢:「草薙さんせめてミルクコーヒーにして」
③真相:「後味悪っる……」

 

【①再会:「湯川先生だー!」】
ガリレオシリーズ、並々ならぬ思い入れがあります。
容疑者Xの献身』は邦画でいちばん好きな映画です。

 

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ドラマ版は微妙だけど映画とスペシャルドラマは素晴らしい、そんなガリレオシリーズ。(※さりげない不満)
『沈黙のパレード』は原作では6年ぶり、映像作品は9年ぶりの新作でした。
原作が発売された2018年の秋、ウキウキで紀伊國屋書店に行きました。

そんな思い出を引っ提げた鑑賞、変な話ですが同窓会気分でした。
冒頭の、シャボン玉にはしゃぐ湯川先生を見て、内海刑事が口元をゆるませた気持ちが分かります。

ああ、変わってないな。
湯川先生は湯川先生のままだ。

久しぶりに会った人にそう思えるのは、とんでもなく嬉しい。この年になって分かったことです。

けれど、やっぱり皆さん『変わって』いました。

 

【②加齢:「草薙さんせめてミルクコーヒーにして」】
原作のレビューに多く寄せられたのは、『湯川が丸くなった』というもの。

アメリカから帰国し、職場近くの食堂を行きつけにし、地元民と交流する。
そして、草薙刑事の過去の重荷――『蓮沼』の名前を聞くだけで嘔吐するほど――を軽くしようと動く。
何より、『真実を明かすだけ明かしてあとは知らんぷり』をやめた。

( ・ω・)<大人になったな……

(※率直な所感)

偏屈な湯川先生はもうどこにもいない。
片鱗は残っていても、唯我独尊で変人なだけの湯川先生ではなくなった。

成長とも言えますが、なんとなく寂しい。身勝手なファン心理ですね。
それはふたりの刑事も同じく。

湯川先生に噛みついてばかりだった内海刑事は、懐のでっかい警察官に。
そして主任となった草薙刑事。
必死に捜査する彼の姿は、『泥臭い』の一言でした。

連日の徹夜でやつれた顔、無精髭、よれよれのシャツ、いっぺん家に帰って風呂入って寝ろと言いたくなる様相。

容疑者たちに『警察が犯罪者を取り逃したから新しい犠牲者が出たんだ』『あんたたちの苦しみと私たちの苦しみは同じじゃない!』と言われ、何ひとつ言い返せない、自分を守る言葉すら吐けない苦しさ。

胃を痛める境遇の中、それでも捜査のためにブラックコーヒーを流し込む姿は、妙な感想ですが痛々しかったです。

大人になるって
胃が痛くなることなんだな……

と、思わず自分の胃を押さえました。

ドラマ版や映画前作で目にした、スタイリッシュでモテモテな草薙刑事はいません。
しかし彼を泥臭く描いた点、自分は拍手を送ります。
彼が抱えるものを浮き彫りにさせたからこそ、湯川先生の『手助け』が尊くなったのですから。

 

【③真相:「後味悪っる……」】
前2作も後味は苦々しいのですが、今作は『悪い』でした。
被害者である並木佐織の描き方が、です。

ガリレオらしい理系トリックの後、『オリエント急行殺人事件』的な真相、さらに二転三転する犯人。
真相はかなり入り組んでいるので、犯人と動機だけ書きます。

犯人は、佐織を歌手としてプロデュースしようとしていた新倉直紀・留美夫妻でした。

動機がまた複雑で、

①かつて歌手として大成しなかった夫婦は代わりに世界に通じる歌手を育てることに命をかけていた。
②やっと見つけた原石の佐織は天才で、(めっちゃお金かけた)大々的な歌手デビューも目前。
③しかし当の佐織は彼氏に夢中。
④「妊娠したので歌手になるのやめます! 今まで無料レッスンありがとうな!」

というあまりの自由奔放さに留美がキレて、突き飛ばしたというわけです。
(それを目撃した蓮沼が関わってくる)

トドメのセリフがまた強烈。

 

佐織:ストーカーみたいで気持ち悪い!
   留美さんは(才能ある)私に嫉妬してる!

 

( ・⌓・)<なんで余計なこと言うかな〜〜〜〜!?

本当のことだとしても言っていいことと悪いことがあるわけで。
どちらかが悪いわけではなく、絶妙に『どっちもどっち』にしているのが秀逸でした。

蓮沼のような『絶対的な悪』ではなく、双方の『価値観』『幸せ』が大きく異なったゆえの悲劇でした。

 

【まとめ:新倉夫婦は契約書を作ればよかった】
ツラくなったので考えてみました。この悲劇を回避する方法。

契約書を作ればよかったのではないか。

佐織の才能に目が眩んだとはいえ、レッスンその他を無料にしてはいけなかった。
そのせいで佐織は『責任感』を育めなかった。
『佐織の責任で歌手デビューできなかった際には、これまでにかかった莫大な費用・賠償金を請求する』と一筆書いておけばよかった。

どんな天才でも経済的な影響からは逃れられないのだから。
これならさすがに佐織も『夢』を継続するでしょう。

けれど元の関係には絶対に戻らない。
佐織は練習に身が入らず、新倉夫婦も彼女の歌に輝きを感じられなくなる。
人間は結局感情の生き物だから。自分たちをあっさり『裏切る』娘だと分かったら嫌悪感が募る。
歌手も結局『仕事』だから。身勝手に振る舞って、予定を乱す存在は邪魔なだけ。
ついでに佐織と並行して、別にやる気満々な歌手志望者を育てておけばいい。

そうしたら自然と、「佐織はもういいや」と思えて手放せるのではないか。

ロマンも夢もありませんが、そっちの方が絶対にいい。
死んだり殺されたりするより、絶対に。

「契約書は大事だ……」と思う自分も、
「大人になったな」と思うのでした。

(何だこの感想)

(というか途中で気づいたんですけど)

(新倉って『資産家生まれで、医者の兄たちの支援で好きに音楽活動に打ち込められる』という設定なんですね)

(そら契約書なんか作りませんわ)

(金のパワー分かってませんわ。不測の事態に備えませんわ)

(ある意味佐織と似たもの同士だったんですね新倉)

(ここまで計算していたとしたら東野先生すごすぎん?)

 

【余談:影の立役者・増村】
実は重要人物だった蓮沼の同居人、増村。
酒向芳さん演じる彼の、事件後の描き方がとてもよかった。

氏のこれからの人生が少しでも穏やかでありますように、と数秒間のシーンで想えました。

 

【おまけ:ガリレオシリーズよ、これからも】

 

透明な螺旋

 

ガリレオシリーズ最新作、『透明な螺旋』です。
夢中になって読みました。
「飲める……この小説飲めるぞ!」的な勢いで読了しました。
湯川先生がさらに『人間』になっていました。
(地の文で『学』と出たのは初めてでは)

ガリレオシリーズよ、これからも

( >ω<)💕<大好き!!!

 

 

次回は12月12日月曜日、
2015年制作、アメリカのスプラッタコメディ、
『ファイナル・ガールズ 惨劇のシナリオ』の話をします。

 

 

鳥谷綾斗