人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

真夏の方程式(著・東野圭吾)

 JUGEMテーマ:ミステリ

「理科嫌いは結構だ。でも覚えておくことだな。わかんないものはどうしようもない、などといっていては、いつか大きな過ちを犯すことになる」


「(前略)湯川の推理能力は天才的だが、推理する材料がなくてはその能力も発揮できない。あいつにそれを与えられるのは俺たちだけなんだ。(後略)」
(中略)
「(前略)たしかに、あれに付き合えるのは私たちだけかもしれません」
「俺たちが手足になって、やつの頭脳をバックアップする。いつものパターンだよ」


「今回のことで君が何らかの答えを出せる日まで、私は君と一緒に同じ問題を抱え、悩み続けよう。忘れないでほしい。君は一人ぼっちじゃない」


そりゃそうだよ、と恭平は心の中で呟いた。実験をした者でないとわからない。それが科学なんだ。




ガリレオシリーズ、長編です。
じっくり図書館での順番が回ってくるのを待っていたら、いつの間にか新刊が出てました。(泣)
『禁断の魔術』&『虚像の道化師』、既に早く読みたいです。(笑)


あらすじ。
海底に眠る鉱物資源の開発のため、玻璃ヶ浦という美しい海の傍にある町に招かれた湯川は、電車で出会った小学生・恭平と同じ宿に泊まることにした。
その夜に起こった不審死事件。一旦は酩酊による事故として処理されかけたが、草薙の上司が不信に思い、詳しい捜査が始まる。

東京での草薙さん&内海さんの捜査と、ガリレオ先生の仕事あり推理あり小学生相手の講義ありの夏休みが、平行して話が進みます。
ガリレオシリーズは本当に久しぶりだったので、冒頭の蘊蓄から『うぉおお湯川せんせーお久しぶりですっ!』とすんごく興奮しました。

だけどちょっと、ガリレオっぽくない……かも?

なんとなーく加賀さんの事件っぽい……と思ってしまいました。
何故なら物語の根底にあるのが、『人を想う気持ち』に他ならないからです。
情や優しさといったものが複雑に交錯し、絡み合い、……悲劇を生みます。
確かにほんの少しずつ、中にはとんでもない『悪』を働いた人もいますが、それでも根底にあるのは、『自分の幸せを守りたい』『愛する者を守りたい』という切実な願いです。
『憎しみが無い』、というのが本当に悲劇的です。

その中でいちばんの被害者は彼です。
恭平君です。知らなかっただけなのに。ただ言うことを聞いただけなのに。
彼にあんなことをさせた川畑は、気持ちはわかるし苦しんだんだろうけど、決して許されないことをしました。何の関係も無い甥っ子、しかも小学生の彼に犯罪の片棒を担がせるなんて。他に何かやりようは無かったのか。このことだけは、本当に最低だと思いました。

けれどその彼は、独りじゃなく湯川先生がいます。
今回湯川先生は捜査に積極的で、草薙さんや内海さんを驚かせます。
理由は、『ある人物の人生がねじ曲げるのを防ぐ』ためです。
それが出来たのかどうかは、わかりません。それはすべて、『これから』の話なんだと思います。

最後に湯川先生は彼に言います。
どんな問題にも必ず答えはある、すぐに答えを導き出せるとは限らない、悩むことには価値があるーー
「答えを出すためには、自分自身の成長が求められている場合も少なくない。だから人間は学び、努力し、自分を磨かなきゃいけないんだ」

湯川先生が捜査に積極的だったのは、いち早く真相に辿り着いたからだと思います。そうして生まれた懸念が、先生を協力的にさせた。
初期の先生ならーー子供が苦手で、『どうしてそうなったのか』にしか興味の無い先生なら、とてもではありませんが考えられないことです。
先生が変わったキッカケは、やはりあの事件みたいです。
あのとき、起こってしまったことに対してあまりにも無力だと痛感した先生は、自分にできることを最大限にやろうと、科学者としてヒトとして変わったのだと思います。

そういう「献身」が存在することを湯川は誰よりも知っている。

繋がっているんだなあ、と思いました。


ところで。
113頁の二行目に誤植を発見しました。『塚原』が『仙波』になってました。何刷めからは直っているんだろか。
以上、蛇足にて。


来年、この原作の映画が公開されるそうです。
久々の福山さんのガリレオ先生、今からもうめっちゃくちゃ楽しみですっ
(個人的には『聖女の救済』を実写化してほしいけどなー。真柴綾音は松嶋菜々子さんでどうでしょう