「(前略)検証することもなく、ただ自分の考えや感覚と合わないからというだけの理由で人の意見を却下するのは、向上心のない怠け者のやることだ」
「(前略)そして楽なことを求めるのは怠け者だ。違いますか」
「草薙は、素人の僕の意見を尊重する。女性の、しかも後輩刑事の声にも耳を傾ける。あなたには、彼と同じことはできないのかな?」
もう明日からは何も演じなくていい。何も装う必要がない。そう思うと心に羽が生えたような気がした。
ガリレオシリーズの7番目にして、短編集です。
幻惑す/心聴る/偽装う/演技る……となります。
その中で、これぞ科学を使ったトリックを科学で暴く=『これぞガリレオ!』な事件は、二つだけになります。
【幻惑す】
新興宗教団体、『クアイの会』の幹部が窓から落ちて死んだ。自首してきた教祖は、『送念』で殺したと言ってきた。
ドラマのシーズン2では第1話に当たります。2からの警察との橋渡し役(相棒とは言いたくない)、岸谷さんが出てきました。
一応岸谷さんも、モブ後輩として原作にもいるんですが、地の文を読む限り女性なのか男性なのかもわかりません(笑)
信じる者は救われるのが宗教ですが、信じる者は救われない話でした。
【心聴る】
不審な死を遂げた男。その男の部下も、病院で突然暴れ出し、その場に居合わせた草薙刑事を刺した。また別の部下は、異常な耳鳴りに悩まされていた。
草薙刑事の同期・北原刑事が出てきます。出世できずくすぶっているので、ちょっとクサってます。
だけど『やってらんねぇよ』な気持ちも、つい怠けてしまう気持ちもわかります。大人になっても誉められたい、見返りが欲しい。当たり前の欲求だけど難しい要求です。
ですが犯人みたいな卑劣漢にはなるまいぞ、と反面教師に。やっぱり第2の被害者の心意気こそ理想ですね。
このトリックに使われた機械、実用化されたらとんでもないことになりそうです。人を簡単に狂わせられます。
【偽装う】
大学の同期の結婚式に出席するために訪れた地で、猟銃による死亡事件に遭遇する二人。そこで、道すがら傘を貸してくれた女性と再会する。
湯川先生、変わったなーーともっとも思うエピソードがコレです。
前回の『真夏の方程式』で先生は事件の関係者に積極的に関わりました。それと同じように、過ちを犯そうとする人を自分の持っている力を尽くして止めようとします。傘のお礼、ただそれだけのために。
湯川先生がいてくれてよかったなぁ、と素直に思えます。
【演技る】
劇団の主宰が殺された。クロに最も近い容疑者には、アリバイがあり、それを証明する写真があった。
なかなかファンキーな女性が出てきました。あれ、ドラマ版と結末違う?
己の中だけの美学を追い求めるーー虚像しか見えてない人でした。殺された主宰も含めて。
けれど、写真のことを知らず、自分の演技がうまくいった警察を手こずらせてやったとほくそ笑む姿はまるきり道化ですね。
全体を通して、湯川先生と草薙刑事がなかよしです。
【心聴る】で入院した草薙刑事を、先生がマスクメロンをラッピングせずにそのまま持ってお見舞いにきたときのこと。
「むき出しかよ」草薙は目を見開いた。「ふつう、箱とか籠に入れないか」
「箱や籠が欲しいのか」
「そういうわけじゃないが……。まあいい。ありがとう」
ああこれドラマで観たかったなぁ、と思ったり思わなかったり思いまくったり。
普段の態度には一切出しませんが、本当は湯川先生も草薙刑事のこと認めてたんだなと思いました。属性でいうとツンデレというより素直クールでしょうか。