「見事に詰みだ。親父の勝ちだよ。よかったな」
加賀シリーズの中篇(?)です。
随分前(発売直後くらい)に『新参者』を図書館予約したのですが、ちぃとも回ってこないので先にコチラを……けれども、発行順的にも時系列的にも先の方がよかったです。レビューなどを読んでいると、加賀さんの内面が深く表面的に掘り下げられているそうなので。
冒頭とラストに、加賀さんと加賀さんの『お父さん』の最期、
本編に、ある一家の『お父さん』の愚かで非道な犯罪計画。
この対比がよかったです。家族、というか親子関係、というか、父と息子の『姿』。
会社員の前原昭夫は、自己中心的な妻とその妻に溺愛されて腐ってしまった息子と、年老いた母の四人で暮らすごく普通の一般的な中年男性。
ある夜、息子が幼い少女を殺した。悪びれない息子と、そんな彼を過剰なまでに心配する妻に詰め寄られ、その死体を処分する。
しかし警察の追及からは逃れられないと感じた前原は、ある犯罪計画を立てる。
それで、その犯罪計画というのが非常にゲスいです。
ていうか、息子も妻もクズです。
こんな嫁と子で可哀想……と思いきや、前原自身も大概ゴミでした。
『さまよう刃』でも思いましたが、東野先生は本当にゲスをゲスらしく書くのがうまいなーと思いました。
特に息子の幼稚っぷりと妻の過保護さ加減には呆れ返ります。理解もできない。息子をあんなふうになった原因は明らかなので、コレも一種の虐待じゃないかと思わざるを得ません。愛情虐待。
そんな家族の中で暮らしていた『アノヒト』は毎日どんな気持ちだっただろうか。
考えただけで、息が詰まりそうです。
特に夫婦が犯罪計画を話し合っているとき。その間、仮面の下はどんな表情だったんでしょう……。
いつも持っている大事なものに括りつけた、忘れ去られた宝物の音色を聴きながら、『アノヒト』は後悔したのかな自分を責めたのかな、それとも故人を想ったのかな……。
なんとなくおばあちゃんに会いたくなってしまいました……
そんなわけですから、加賀刑事の『この馬鹿餓鬼~』はスッキリしました!
(これからこの息子はどう生きるのだろう。もう守ってくれるものも守ってくれる人もいない環境に突き落とされた馬鹿餓鬼は。骨の髄まで自分には何も無いことを思い知ればいい)
殺された少女の母親の泣き方が実に辛かったです。
そして、ラストの加賀さんの、やっとお父さんと対面できたときも。
律儀すぎる親子でした。最後まで会って話すことはできなかったけれど、せめてもの繋がりが救いでした。
この巻で登場した松宮刑事の、今後の活躍も期待。
『恭さん』みたいな刑事になってほしいもんです。