人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

映画/オーディション

アマプラレンタルで観た映画シリーズです。
1999年制作、日本のサイコホラーです。

 

 

 

【あらすじ】
妻と死別した青山。
息子の後押しで再婚を決めると、友人である吉川が彼の嫁候補を選ぶための架空の“オーディション“を提案する。
それに参加した美しい女、山崎麻美に青山は夢中になる。
しかし麻美には、不審な点がいくつもあった。

 

【ひとこと感想】
「キリキリキリ……」の言い方が意外と可愛いけど最恐。

※全力ネタバレです。
※犬が死んでしまう場面があります。

 

【3つのポイント】
①前半はメロドラマ 〜おじさんのゲスさを添えて〜
②一生忘れられない一場面 〜Jホラーの頂点風〜
③クライマックスの悪夢 〜拷問仕立て〜

 

【①前半はメロドラマ 〜おじさんのゲスさを添えて〜】
この作品、ホラーを求めていると前半は少々退屈です。
基本的にホラー映画は開始15分で何かしら起こるもの(鳥谷調べ)ですが、ガチでおじさんの婚活&脳内お花畑が延々描写されます。

しかしココで、ゲスっぷりというエッセンスを忘れないのが親切仕様。
青山と仕掛け人の吉川が、悪意いっっっさい無く、ナチュラルに他者を物扱いしているのです。

考えてもみてください。
俳優として映画のオーディションを受けに来たら、プロデューサーの結婚相手として見られているのです。
役者としての資質ではなく、やもめおじさんの嫁にふさわしいかどうかを重視されていたのです。
他に例えると、就活で真面目に対策を講じているのに面接官にLINEで「今日はお疲れちゃん♪(´ε` ) よかったら今度ゴハン🍙とかどうカナ❗️❓(^_^;)」と誘われる、あるいは作家志望で作品を送ったのに何故か顔写真を求められてそれで判断されるようなものです。

他者の『本気』をごく自然に踏み躙るおじさんたちに、そうと知らずに女性たちは回転寿司のように次々アピール(中にはアレなアピールもありましたが)しますが、

ロクな女がいない。
仕事を持ってて、きちんとした『訓練』(ピアノ、日舞、声楽)を受けている女がいい。青山の亡き妻のように。
不幸な女の方がいい。表現せざるを得ないから。

などと好き勝手に言われます。
トドメの一言はコレ。

 

「こんなの初めて車を買った時以来だよ」

 

( ・⌓・)<こいつもう死んでいいんじゃない?

自然とそう思えます。すごいねー。(棒)
ちなみにこの、主人公へのヘイトをためにためてバーンと殺すという手法は他にもあります。田原秀樹(『来る』)しかり本間隆雄(『RIKA』)しかり。
しかし青山はあそこまで分かりやすいクズではなく、ゆえにタチの悪さがリアルでした。

 

【②一生忘れられない一場面 〜Jホラーの頂点風〜】
さてそんなメロドラマの雰囲気は徐々に壊れていきます。

決定的なのは、予告編冒頭でも使われるこの場面。

 


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安普請のアパート。
古い砂壁、ささくれだった畳、饐えた臭いさえ漂ってきそうな重い空気の中、
長い黒髪の美しい女がうなだれている。
傍にある異様に大きな、人間すら余裕で入れるズタ袋。
そして黒電話が、……

この部分はきっと一生忘れられません。
断言します。
トータルで言えばこの映画はJホラーの頂点ではない。(個人的意見)
けれどこの場面は、間違いなく一番恐いものだ、と。

 

【③クライマックスの悪夢 〜拷問仕立て〜】
そこからは恐怖は加速度的です。
薬入りウィスキーを飲んで倒れた青山を、麻美は拷問……いや、『痛み』を与えます。
その解体直前に、青山は悪夢に溺れます。
おまえサイコメトリストなの? ってくらいに詳細に『麻美』の断片を拾う拾う。

悪夢の内容は、書くのキツいのでやめておきます。
幼い麻美を演じる役者さんのメンタルが心配になるレベル。
視聴後に「あのズタ袋、大杉漣さんだったの!?」と喫驚したりと、よくもまあこんな気が狂う寸前みたいなものが作れるな!?

悪夢から覚めた青山には更なる悪夢が待っていました。

 

「これはね、骨付きのお肉も簡単に切り落とせるの」

 

舌に筋弛緩剤(痛覚を鋭敏にする作用あり)を注射する、
目の下に細い針を刺す、
裸の腹に針を刺し、その上に乗る、
糸切り鋸で足を一本ずつ、……キリキリキリー、キュルキュルキュル……

――という拷問内容もえげつないのですが、その演出がえげつない。
監視カメラのようなアングルで、上から覗き見ているような感覚にさせ、
掃き出し窓越しのアングル+無音で、庭から覗き見ているような心地にされたかと思えば、麻美が実に無造作に切り落とした足をガラスにぶつけてくる。

視聴者を巻き込もうとする臨場感が容赦ない。

これはもう悪夢だ。悪魔だ。映画祭の人は正しかった。


そんな目に遭っても、いや遭ってるからこそ、当の青山は自分の都合の良い妄想をしていました。
麻美は美しく都合のいい女のままで、
家政婦、関係を持っていた会社の部下、息子の彼女さえ性的欲望の対象にする。
なんとも情けなく、哀れな、唾棄すべき『人間』をこれまた容赦なく描写していました。

 

【まとめ:麻美のことは結局よく分からない】
貞子さん、伽椰子さん、リカさん、富江さん、美々子さん、菰田幸子さん。
日本を代表するJホラーのヒロインたちです。
(黒井ミサさんも思いついたけどまた別のジャンルが気がする。ひきこさんと口裂け女さんは発祥が都市伝説なので割愛)

彼女たちの中に混じる『麻美』は、ひときわ異彩を放っています。

何を考えているのか分からない。
今回きちんと観直して、過去の手がかりもありましたが、ただどうにも読み取りにくい。

この不可解さは、
ひとえに『目的がよく分からない』のが原因ですね。
(上記の人たちはものすごく乱暴に言えば『幸せになりたい』という切実さがあった)

青山やその他の男たちに対して、怒ってるのか悲しんでいるのか。
ただ、テキパキと解体する姿は、『夫にキレながら家事をする妻』を彷彿させました。

そう、『よく分からない』。
だからこそ、麻美はJホラー最恐の女なのです。

ラスト、倒れた麻美が訥々と、ぽつぽつと、青山と出会った際に口にしたのと同じ言葉をつぶやきます。
あれには理解の糸口があるような気がしますが、……また原作を読もうかと思います。

しかし、すごい映画だった。
ホラー映画の基本のひとつ、「こいつなら別に死んでも構わない」を突き詰めているのに、「やめてもう普通に殺してあげて観てるのつらいから拷問内容もだけどその見せ方がえげつなすぎるから」になるのは相当です。

恐るべき手腕です三池監督。
この作品を知っているからこそ、自分はこの監督の作品に惹かれ続けるのです。

( ・ω・)<これ映画館で観たかったなー。

 

次回は9月20日月曜日、
2013年制作、韓国のホラースリラー、
『殺人漫画』の話をします。

 

 

鳥谷綾斗