人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

映画/殺人者の記憶法

アマプラで観た映画シリーズです。
2017年制作、韓国のクライムサスペンスです。

 

 

 

 

【あらすじ】
認知症を患う獣医・ビョンス。
彼は「死んで当然のクズ」を殺し続けた殺人者だった。
町で連続婦女殺人が起こる中、ビョンスは警察官のミンと出会う。
彼こそが連続殺人の犯人だと直感したが、ミンはビョンスの娘・ウンヒに恋人として近づく。

 

【ひとこと感想】
たとえ殺人鬼でも、殺せば死ぬし認知症にもなる。

 

※全力ネタバレです。
これはネタバレなしでぜひ観て頂きたい。

 

 

【3つのポイント】
①斬新な設定。
②忌まわしい病は救いでもあった。
③クライマックスの殺し合い。

 

【①斬新な設定】
認知症の元殺人鬼。ありそうで無かったこの設定。
どうにも忘れがちですが、ホラー映画界以外の殺人鬼は、人間なのです。

 

(殺人犯になんてそうそう遭遇しないと言い切る娘に対して)
「(殺人犯に)会う可能性はある。
 私も殺人者だから」

 

長年、殺人鬼と獣医とシングルファザーの3足の草鞋を履いていたビョンス。(バイタリティがすごい)
17年前の事故が原因で、認知症アルツハイマーになった彼は、娘に言われます。

ボイスレコーダーに日々の出来事を吹き込むこと。
吹き込むのを忘れないように、ひたすら繰り返して習慣化すること。

この『習慣化』は大きなキーワードです。
長年、暴力系クズ(とビョンスが判断した人間)を殺してきた彼にとって、『殺人こそ習慣』でした。
獣医として誤った判断を下しても、殺人は間違えない。

なんとも凄まじい人間像ですが、人物描写であるエピソードも、それを演じた役者さんの演技も凄まじい。

もっとも衝撃的なのは、車での張り込み中に、ペットボトルで処理した自分の尿を自分で飲む場面。
こんなえげつない描写があるなんて、とウホァと感心したし、ウェエとえずきました。

 

【②忌まわしい病は救いでもあった】
鑑賞者に対して、「この病気にはなりたくない」を散々植えつけますが、話が進むにつれて、この忌まわしい病は救いでもあると分かりました。

それは17年前――ビョンスの脳の損傷の原因になった事故の前。
彼は不貞を働いた妻を殺した。
妻は言いました。「娘のウンヒだけは殺さないで」。
(ていうかなんで妻はこれ言ったんだろう。言わずに死ねば分からないのでは…バレた時の保険?)

実の娘ではなかったことに怒り狂い、他人である幼いウンヒを殺そうとしますが、頭痛が彼を襲い、記憶を失くしてその事実を忘れます。

ビョンスが娘を殺さずに済んだ場面、
自分には、まるで彼の体が娘を守るために記憶喪失にさせた――ように見えました。

(ビョンスの幻覚であった亡き姉も、「記憶喪失を望んでいる」と言っていました)

(幻覚の姉はビョンス自身の心だと思うので)

恐ろしい悲劇が救いの面を持つ。
そういう『形』の物語は、自分がもっとも感動するものです。美しいなぁと素直に思う。

 

【③クライマックスの殺し合い】
そんな抒情的な場面の後、クライマックスは、ビョンスと現在進行形殺人鬼・ミン巡査との殺し合いです。

ここから真面目に怖かった。
1時間31分21秒あたりで悲鳴が出た。
最初はゆっくり歩くけど、走ったら足が超絶速い殺人鬼、べらぼうに怖い。
さすが韓国、肉弾戦が容赦ない。
「後ろから殴れ!」とかそういうヤジを飛ばす隙間すらありませんでした。

血まみれで泥沼の駆け引きを経て、
殺人鬼を滅多刺しにした『鬼』の父親に、娘のウンヒは怯えます。
そんな娘に、ビョンスは言います。

 

「お前は大丈夫だ。
 血の繋がらない他人だ。
 お前は人殺しの娘じゃない」

 

これもビョンスの病と同じ、悲劇的な事実が救いの面を持つ『形』です。
じわりと染み込む、痛々しくて真っ赤に濡れた愛情の描写でした。

 

【まとめ:殺人鬼よりも恐ろしいもの】
主人公・ビョンスがいわゆる「信頼できない語り手」なので、途中で真相がどこにあるのか分からなくなります。
ミン巡査が本当に殺人犯なのか。
実はすべてビョンスの犯行だったのではないのか。
周囲からの信頼を失う、それももちろん怖いのですが、

自分を信じられなくなるのが一番怖い。

忘れるとはこんなにも恐ろしい現象なのか。
ビョンスが妻を殺した記憶を取り戻して、大量の死体を埋めた竹林で寝転がる場面。
この狂気の一歩手前、深い絶望と、マグマのような激情も、綺麗さっぱり忘れてしまうのか。

それが病と、
決して罰せられない殺人者・『時間』が持つ恐ろしさだと感じました。

そして、色んな解釈が成り立つ結末。
ウンヒのことを姉と呼ぶほどまで病が進行したビョンスは、しかしミン巡査のことを忘れなかった。
記憶を信じるな、まだ奴は生きていると思い込み、ビョンスはミン巡査を探す『旅』に出ます(※比喩)。

探して探して、確実に殺すために。

何故ならビョンスにとって殺人は習慣だから。
体の深いところまで染みついてしまった行為だから。

一度殺人鬼になってしまえば、
二度と人間には戻れない。

という絶望感がえげつない結末でした。

いや重いわ。(正直な感想)
寝る前に観るもんじゃないわ。(胃もたれした)

というわけで精神が元気な時に観てください。

別バージョンの『殺人者の記憶法 新しい記憶』はまた後ほど。

 

 

次回は9月6日月曜日、
1999年制作、三池崇史監督の日本の隠れた名作サイコホラー、
『オーディション』の話をします。
(クーポンでレンタルした)

 

鳥谷綾斗