CATVで観たホラー映画です。
2016年制作、日本のクライムロマンスです。
【あらすじ】
冴えない青年岡田は、先輩の安藤が片思いするユカに会いに行く。
そこで岡田は高校時代の友人、森田と再会する。しかし彼は、ユカをストーキングしていた。岡田はユカと付き合うことになり、森田は彼を殺そうとする。
【ひとこと感想】
ホラー半分ラブコメ半分、どうしようもなく『人間』だった小心者サイコパスによる殺戮コント。
※全力ネタバレです。
【3つのポイント】
①森田剛がヤバいと聞いて
②ナイス痙攣! ナイス痙攣!👏
③強者の餌となり続ける
【①森田剛がヤバいと聞いて】
相変わらず『サイコパス』の研究中です。
特に国産サイコパスの例題を求めていたところ、
「森田剛が演じる快楽殺人鬼がまじでやばい」
という話を思い出しました。
結果、
好きなタイプではありませんでしたが、
非常に興味深いサイコパスでした。
【②ナイス痙攣! ナイス痙攣!👏】
この映画の面白いところは、構成です。
タイトルが出る=本題が始まるまで、なんと約40分かかります。
それまでは完全にラブコメです。
地位も金も希望もない、DTゆえのリビドーとお花畑妄想だけはある男たちの、可愛子ちゃんをめぐるコント。
岡田くんと、前半だけトロフィーだったユカちゃんが付き合ってからが本題です。
小さくて拙い嘘をつき、自分の非を決して認めない森田くん。
ストーカーするユカちゃんを知らないふりする森田くん。
岡田くんに「俺もおまえも人生終わってんだよ。底辺なんだよ」と告げ、
その岡田くんに先を越されたと思うと、過去の殺人の共犯である和草に殺害を持ちかける森田くん。
この和草と婚約者の久美子の死に様が非常によかった。
ずっと脅迫されるくらいならと森田くんを殺そうとするも、奇襲は失敗し、返り討ちに遭います。
和草くん:「久美子! 早くロープ!」
森田くんを縛り上げようとしますが、当の久美子はビニールテープを出すのに手間取り、その隙に反撃されます。
細かいですがリアルな描写で最高。イライラとハラハラ。最初から出しとけよというかロープを用意しておけよ!
鈍器で殴られた和草くんはビクンビクンと魚みたいに痙攣します。
その様があまりにも活きが良くて、
( ゚∀゚)o彡゚<ナイス痙攣! ナイス痙攣!
いいよいいよ! その痙攣が作品を救うよ!
と、めっちゃ拍手しました👏
(※人でなしの発想①)
同時刻に、岡田くんがユカちゃんで卒業する(『で』は失礼な表現ですが、そうとしか感じられない場面だった)のですが、
ふたつの正反対の出来事がリンクする演出が見どころです。
四つん這いの女に、片や抜き差しして片や殴り殺す。
両方とも股間は濡れている。
やがて女は『果てる』。
まるめたティッシュを、片やゴミ箱に投げ入れて、片や火をつけて灯油を撒いた死体に投げ捨てる。
気色悪くて変な笑いが出た。
(こういう映像ならではの表現好きやで)
その後も森田くんは、食い散らかすように人を襲って殺しまくります。
あざ笑った通りすがりの女性、立派な家に住む夫婦、さらには警察官まで。
けれど森田くんは、
カツアゲしてきたゴロツキには、手も足も出せませんでした。
【③強者の餌となり続ける弱者】
パチンコ屋を出た途端、ゴロツキ2人組に絡まれます。
おっとそいつは危険人物だぜ、やったぜ殺人鬼に殺されるための愚か者キターとワクワクした(※人でなしの発想②)のですが、
フツーにやられていました。
( ゚д゚)<君にはガッカリしたよ森田くん!!!
なんで女や弱そうな男はバンバン襲うのにDQNには負けるんだ!
自分より明らかな強者をぶっ殺してこそサイコパスだろ!
菰田幸子を見ろ! 元ガチものの生命保険会社社員を屠ったぞ! どうやったかは知らんけど!
なんだこの快楽殺人鬼……「誰でもよかった」と言いながら警察署には行かないきっちり人を選ぶ系やん……と空々しい気持ちになりました、が。
気づきました。
あのゴロツキたちは、『同じ』だったのです。
かつて森田くんをいじめた加害者、河島に。
当の河島は、森田くん自身が殺しました。
けれど彼はいまだにいじめの悪夢を見るし、幻聴に苦しめられている。
殺してもなお、『河島』(もはや存在ではなく概念)の前では抵抗できない。
高校の数年間で、彼の心と体はそういう形に壊されてしまったから。
岡田くん:「その時の森田くんの目は、とても人間の目には見えなかった」
そう岡田くんは言いますが、森田くんはきっちり人間だと思います。
いつまでも過去に囚われていて、
自分の怖いものには絶対に立ち向かえない、人間。
タイトルの『ヒメアノ〜ル』は、猛禽類の餌となる小型爬虫類のことだそうです。
どれだけ人を殺しても犯しても、彼はひたすら強者の餌となり続ける弱者だったのです。
その鬱憤を周囲に向ける、小心者の殺人鬼。
最悪です。
その犠牲になった人たちはたまったもんじゃない。
(ところで映画の感想に、『森田くん演じる森田が美しかった!』というのを見かけましたが)
(人様の感想にケチをつけて恐縮ですが、あれを美しいと思っちゃいけないだろうと思います)
(『森田くん』は、存在してはいけない――生まれさせてはいけない怪物です)
(元々の彼は、岡田くんとゲームで遊ぶ普通の子だったのに)
(……しかし河島ってなんでああも執拗に森田くんをいじめたんだ?)
【まとめ:笑っていいのか迷った】
ドブ川めいた殺戮劇でしたが、全体的な印象としては『コント感』がつきます
ほとんどムロツヨシさん演じる安藤のせいです。絶妙に目の焦点が合わなくて面白い。
あとたぶんユカちゃんのせい。
びっくりするほど『男に都合の良い女』でした。
何せ、特に理由なく岡田くんに惚れ、キスの後でそっこーで胸を揉んできた(せめて抱きしめてからにしなさいよリビドーの申し子め)のを受け入れる子です。
「自我とかある???」と尋ねたくなります。
クライマックスでも戦う岡田くんの後ろで震えるだけ。
(裏話によるとそれを狙っていたようですが)
というか登場人物全員、絶妙にまんべんなくイラァッとします。
絶妙な人々による寒々しい舞台コントめいた会話劇に、妙に生々しい暴力描写。
笑えばいいのか恐れればいいのか絶妙に不明。
そんな絶妙な映画でした。
(ちなみに一番面白かったのは、森田くん岡田くんがもつれあって窓をぶち破って落下するシーン)
(そんなジャッキー・チェンの映画みたいなことある???)
【おまけ:森田くんの唯一推せる点】
犬は殺せなかったところ。
(ラストの回想で昔飼っていたことが判明)
(そんなんもっと早く教えてほしいし、回想も「エモさ」前出しすぎて笑ってしまいました)
次回は5月29日月曜日、
2022年制作、アメリカのホラーSF、
『NOPE』の話をします。
鳥谷綾斗