人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

映画/箪笥

アマプラで観たホラー映画シリーズです。
2003年製作、韓国のホラースリラーです。

 

 

 

 

【あらすじ】
療養中だった姉妹・スミとスヨンは、父親が住む古色蒼然とした屋敷を訪れた。
そこには若く美しい継母・ウンジュがいた。
反発し合う姉妹と継母。やがて家の中で奇妙な現象が起こり始める。

 

【ひとこと感想】
緊張感が張りつくような鬱くしさと胸糞展開。

 

※全力ネタバレです。

 

【3つのポイント】
①仲良し姉妹にうっとり
②くるった継母にぞくり
③複雑怪奇なプロットだった

 

【①仲良し姉妹にうっとり】

この映画の最大の見どころはと聞かれれば、100人中100人が

『美少女姉妹の仲の良さ』

と答えると思います。(断言がひどい)

のっけから手を繋いで駆け出し、鬼灯を食べたり、湖に裸足を落としたりします。可愛い。
抒情的な画面作りで、フェチ心がくすぐられました。可愛い。
弱々しい妹を守る健気な姉。悪夢に怯えるスヨンを胸に抱きしめ、母のように髪を撫でる姿は、

( ・ω・)<監督、キミ分かっとるね?

と、謎のウエメセ賞賛が迸るレベルです。

そんな仲良し姉妹が作る柔らかい光の世界に差し込む影。
それが、紅いリップを釣り上げて姉妹に笑いかける『継母』でした。

 

【②くるった継母にぞくり】
この映画は韓国の古典芸能、『薔花紅蓮伝』を下敷きにしています。
恐ろしい義理の母親に姉妹が殺されてしまう継子いじめ譚です。

継母・ウンジュは一見すると明るくて快活そうな女性ですが、なんとなく『うざい』感じです。
この『義理の娘に嫌われそうな軽薄さ』が本当に絶妙。説得力がすごい。

冷蔵庫に解体した魚をそのまま入れたり。
テレビの砂嵐をじっと見つめたり。
一応、女性の幽霊(たぶん姉妹の本当の母親)が夢に現れて、床を這いずったり迫ってきたりする場面もありましたが、この継母の作り出す、じわじわと這い寄るような気色の悪い『空気感』には敵いませんでした。

その『厭な空気感』をもっとも味わったのは、姉妹の叔父夫妻との晩餐の場面。
ペラペラと明るく『昔いた頭のおかしい人』の話をする継母。会話に入らず黙々と手を動かす姉妹の父親。
そして、「この人、どうしたらいいの……?」と言わんばかりに戸惑い続ける叔父夫婦。
張り詰めた、喉に張りつくような厭な緊張感がありました。

その際に、叔母がいきなり痙攣と嘔吐を起こしたのがめっちゃリアルでした。特に吐瀉物が髪に付着したのがリアルで気持ち悪かったです。

そんな厭な継母は、とうとう妹・スヨンに暴行を加えます。
泣き叫ぶ彼女を箪笥の中に閉じ込め、ズタ袋の中に入れて棒で殴打しますが――

すべては、姉であるスミが描いた残酷で恐ろしくけれどどこか都合が良い『夢』でした。

 

【③複雑怪奇なプロットだった】
簡単に言うと、すべてはスミの妄想だったのです。

怖がりな妹はとっくに死に、スミにしか見えていません。
ここだけならよくあるホラー的オチですが、特徴的なのは、

・継母・ウンジュもスミだった。
・本当に家に幽霊はいた。

多重人格+心霊現象という豪華ダブルセットです。

本物のウンジュが駆けつけ、スミはやっと夢から覚め、スヨンの死を理解します。

全部、スミの一人芝居だったのです。
継母への反発心が、この家族に起こった悲劇のきっかけでした。

 

【まとめ:一人相撲かもしれない……と思いきや】
上記の真相を知って、まず思ったのが以下。

他者を守るのも、他者を憎むのも、もしかしたら一人相撲なのかもしれない。
自分の頭の中で勝手に人物像を作って、愛を注いだり拒絶したり。傍から見れば「誰と戦ってるんだ……」状態なのかもしれない。
ウンジュがスヨンをいじめるのも、「そうあればいい」というスミの歪んだ願望だった。
スミにとって、継母は鬼畜でなければならなかった。
それは喩えるなら、ネットで自分と意見が違うだけの相手に、人格否定して執拗に攻撃するような……一人芝居の一人相撲。孤独で無用な戦い。

そういった人間の業を描いたのか……と思いきや。

そっからの真相でずっこけました。

①姉妹の実の母親は精神を患って(推定)自宅療養中だった。
②父親は愛人(推定)だったウンジュを家に連れてきた。
③当然反発するスミ。でもウンジュはおとなしいスヨンに八つ当たり。
④実の母親に慰められるが、スヨンが目覚めると母親は箪笥の中で首を吊っていた。(たぶんウンジュの登場でギリギリだった精神の糸が切れた)
⑤助けようとしたスヨンだが、箪笥が倒れてきて下敷きに。
⑥ウンジュ、見殺し。
⑦スミ、妹のピンチに気づかずに出かける。

( ・⌓・)<いやウンジュ、マジモンのクズやったんかーい。

そんなウンジュはスヨンの幽霊(推定)に祟り殺されました。
当然です。
スヨンが下敷きになったことを知っているのに、スミがアレな態度を取っただけで、

 

ウンジュ:「お前はこの瞬間を一生後悔するかも」

 

と腹いせで言う女です――って、いや言ってる場合か! 助けろ! 相手は自分の半分くらいの年齢の子どもやぞ! 倫理観どうなってる!?

ていうか、そもそも父親がやばくないか?
元凶は父親の不倫(しかも病気の妻を不倫相手に診せるというサイコパス行動つき)だってのに知らんふり、無能オブ外道!

その点を作中で誰も言及してないんですよ。
怖いですね。ていうかとことん甘いですね。

(あとこの父親、自分を妻(ウンジュ)だと思い込んでいる娘(スミ)と同じベッドで寝るのも意味分からないんですが。いやすぐ寝床を移動したけど)

(その他にもスミが眠る父親の頬に触れる場面があったんですけど)

(もしやメインは娘から父親への近親相姦的な執着だった?)

(えっ、これ姉妹の話じゃなくて『父親を求める娘』っていう中高年男性が大好きな夢小説の話だったの?)

(え!?!?)

ってな感じで、最後はパッケージ詐欺(同人誌でやるとボコボコに叩かれるやつ)の予感がしてツッコミの嵐でした。

ですが、最終的には『悲しい』の感情が残りました。

 

スヨン:「お姉ちゃん 助けて」

 

 

スヨンのこの声は、誰にも届かなかったのですから。
『殺人漫画』と同じ気持ちになったぞ。

次回は1月31日月曜日、
1992年の日本のオカルトムービー、
『地獄の警備員』の話をします。

 

 

鳥谷綾斗