人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

映画/東海道四谷怪談

アマプラで観たホラー映画です。
1959年制作、日本の怪談映画です。

 

 

 

 


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【あらすじ】
日本の恐怖の基本を作った(かもしれない)、『愚かな男』と『怨む女』の恐ろしい演劇映画。

 

【ひとこと感想】
江戸時代。浪人の民谷伊右衛門は、お岩と結婚したいがため、父親の左門を切り捨てる。
目撃者の直助にそそのかされ、伊右衛門はお岩と仇討ちの約束をする。
伊右衛門、直助、お岩、そして妹のお袖とその許嫁・与茂七は旅に出るが、直助は与茂七を殺し、姉妹は離れ離れになる。

 

※全力ネタバレです。

 

 

【3つのポイント】
①ライビュのようだった
伊右衛門がドクズ(既知の事実)
③『お岩』から『お岩さん』へ

 

 

【①ライビュのようだった】
日本一有名なこの怪談は、落語や歌舞伎など、舞台で披露されることが多いです。

それを踏襲したのか、完全に演出が演劇のそれでした。

BGMのおどろおどろしいド派手さ、シンバルが高らかに鳴り、臨場感があって、まるで、

( ・ω・)<ライビュだ……

(※ライブビューイング。演劇が映画館で生中継されるのを鑑賞するやつです)
真っ暗な大画面で観たかったです。

 

 

【②伊右衛門がドクズ(既知の事実)】
私の四谷怪談遍歴(?)は、少年少女古典文学館のもの。

この時も思いましたが、伊右衛門、ドクズですね。

既知通り越して周知の事実です。

①結婚を父親に直談判し、「素行が悪いからダメ」と言われて逆ギレして殺す。
②自分が殺したのにお岩さんに「仇を討ってやる!」と恩を売る。(マッチポンプ?)
③仇討ち成功したら結婚しろと強要する。(どういうシステム?)
④ザコ悪人・直助がお袖に横恋慕し、その許嫁の与茂七を殺すのを看過する。
⑤蛇を殺す。
⑥姉妹を離れ離れにさせる。
⑦仇討ちしてないのにお岩さんと結婚どころか子をもうける。
⑧「父の仇はいつ討てるのでしょう?」→「この暮らしが嫌になったのか!」=会話になってねえ。
⑨赤ちゃんの蚊帳を奪って質に入れようとする。
⑨金持ちの娘・お梅さんに乗り換える。
⑩宅悦にお岩さんを襲わせて、「不定を働いた! 出てけ!」と計画する。

枚挙に暇ってものがない。

最終的にはお岩さんに毒を盛って共犯の宅悦も殺し、板に打ちつけて死体遺棄をしていました。

けれど伊右衛門は歌舞伎で言うところの色悪、見かけだけは色男で口だけは立派なのです。
それだけなら冷酷無慈悲な色男としてダークヒーロー扱いもできますが、
いかんせん、奴は根っからの真のドクズでした。

お梅さんと結婚するから仇討ちの約束を反故にすると言った場面。
散々暴言をぶつけたくせに、お岩さんが泣くと、

 

伊右衛門:「悪い冗談だ」

 

ごまかしやがりました。

そう、こいつは実に中途半端な悪党だったのです。
(なんなら直助の方が潔く悪人)

 

【③『お岩』から『お岩さん』へとなる凄惨さ】
そんな伊右衛門を信じてきたのに裏切られ、薬と偽って毒を盛られたお岩さん。

日本一有名な怪談の、もっとも恐ろしい場面がやってきます。

美しい顔に ぼこり と出来た腫瘍。
焼け爛れたような頭皮。
母親の形見である大切な櫛で梳かすと、ごっそりと抜け落ちる女の黒髪――

怒りと憎しみを限界まで煮詰めた怨みで、鬼すら怯む顔になり、お岩さんは宅悦を殺そうとします。
けれど、赤ちゃんが泣けばそちらに向かう。母親です。鬼となろうが母親だったのです。

 

お岩:「この怨み、晴らさずにおくものか」

 

魂の叫びを残して、彼女は亡くなりました。
怨霊となり、幻覚攻撃で伊右衛門に婿入り先の家族を皆殺しにさせる。一石二鳥です。

天井から現れたり水から浮かび上がったり、蚊帳を放り投げたりとあらゆるギミックを使って伊右衛門を追い詰めます。
(この辺りのアトラクション感でも舞台みを感じました)

妹と実は生きていた与茂七を再会させ、
この二人がトドメを刺し、復讐劇は幕を閉じます。

 

【まとめ:伊右衛門の正体】
お岩さんの復讐方法のアトラクション感も意外でしたが、
伊右衛門のド小物さも想定外でした。

彼はずっと迷っていました。
お岩さんを自らの手で殺せず、「じゃあ毒を使え」と渡されても、それを盛るのさえ迷っていました。
その癖、お岩さんにはずっとひどく当たり、不貞を働きまくっていた。

思いました。

この伊右衛門という男、めちゃくちゃ自己評価が高いな。

伊右衛門ティの中では、自分は誇り高き武士で、嫁のために仇を討ち、誰もが尊敬する立派な男なのでしょう。

けれど実際の自分は、ロクデナシの甲斐性なしの根性なし。
そのギャップで苛立ち、身近な存在である妻にぶつけるのです。

悪を貫けば逆に清々しいのに、それでも煮え切らない中途半端さ。

 

伊右衛門:「貴様なんかに拙者の気持ちが分かってたまるか!🥺」

 

挙げ句の果てにはこれです。どうしようもない。
現実の自分から目を逸らしまくった、真のドクズなのです。
(辛辣な物言いですが自戒も込めています)

さらに最悪なことに、この世界は伊右衛門に優しすぎる。
何故お梅さん一家を切り殺した彼は捕まらず、寺に保護されているのか。

ええい甘やかすな! と思いました。
彼には叱るための罰が必要だったのに、誰もそれを与えなかった。
唯一、怨むことで最後の最後まで見捨てなかったのがお岩さんだった。

 

伊右衛門:「岩、許してくれ」

 

伊右衛門の最後の言葉は、命乞いだけでなく『本音』もあったのでしょう。
だからお岩さんは、悪鬼般若の顔ではなく、赤子を抱く美しい女性の姿に戻った。

祟り殺されることは、ある種の救いでもあった。
お岩さんは、妻としての責任を果たしたのかもしれません。めちゃくちゃ愛情深い人なのだと思います。

 

【余談:お気に入り場面】
本でも映画でも、四谷怪談で印象的なのはラスト。

お岩さんが元の姿に戻るシーンです。

恨みを晴らして、ようやくゆっくり眠れる顔なのか。
それとも伊右衛門の幻覚――願望だったのか。

どちらにしても美しい。
あまりに好きすぎて デビュー作 のクライマックスでオマージュしました。

(思い出語りで〆)

(ところで昨日、そのデビュー作を買ってくださった人に会いました。今でも購入してくださるとはありがたや🥲)

 

 

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次回は2月13日月曜日、
2001年制作、アメリカのスラッシャーホラー、
『バレンタイン』の話をします。

( ・ω・)<去年に引き続きバレンタインだからね!

 

鳥谷綾斗