人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

映画/サユリ

DMMTVで観たホラー映画です。
2024年制作、日本の家系復讐ホラーです。

 

 

 

 


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【あらすじ】
中古の一戸建てに引っ越してきた神木家。
長男のノリオは、祖父母、両親、姉と弟と一緒に新生活をスタートした。
だが認知症の祖母は、『誰もいないはずの』空間に話しかけていた。

 

【ひとこと感想】
ばあちゃんのギャップが凄まじい、けれど結末はあまり笑えないギャグホラー。

※全力ネタバレです。
※注意:嘔吐、下ネタ、児童への暴力・性暴力描写があります
(個人的に母親の頭への嘔吐は要るんかとなった。制作は嘔吐萌えかもしれない)

 

【3つのポイント】
①第1章/家系Jホラー編
②第2章/覚醒編と修行編
③最終章/一騎打ち編

 

【①第1章/家系Jホラー編】
通して観ると、『予感』の使い方が印象に残りました。
(珍しく真面目な入り)

神木家は、まさに笑いが絶えない仲良し一家でした。

認知症の祖母を支える祖父、
少し頼りないけど優しい父親、
働き者の母親、しっかり者の長女、
そして弟・シュンの面倒をよく見る長男・ノリオ。

磯野家・野原家・さくら家に匹敵するレベルで、平和な家族像でした。

けれど、ある予感をもたらします。

このあと怨霊に惨殺されるための布石なんだろうな――という予感です。

見事な手腕です。
冒頭に出た、怨霊サユリの環境とうまく対称になっていたことも含めて。

その予感のとおり、神木家はサユリの呪いで崩壊します。
ノリオの同級生の霊感少女(BL好き)・スミダさんが忠告しても、無駄でした。

父親、祖父と亡くなり、たった一晩で、弟のシュンが3階から落とされ、姉のケイコは自ら首を掻っ切り、母親はセルフ手動で絞殺――と命を落とします。

サユリの魔の手がノリオにも伸びかけたとき――

 

祖母:「ノリオーーーー!!」

 

ばあちゃんがベッドを蹴りだけで吹っ飛ばしました。

そして怯える孫を引きずり出し、宣言します。

 

祖母:「わしらだけでさっきのアレを地獄送りにしてやるんじゃ
    復讐じゃーー!!」

 

 

【②第2章/覚醒編と修行編】

そして始まるババァ無双! \ハァイ!/

ってな感じで、ジャンプ漫画ばりの修行がスタート。

タバコを喰み、グラサンをかけ、車の運転をこなし、ノリオに太極拳を教えるばあちゃん。

 

祖母:「何かあったら言え。ばあちゃんが助けてやる」

 

( ・⌓・)<いやイッケメーン……✨

『デンデラ』 にも通じるカッコイイババアと化したばあちゃん。
可愛らしさあふれるおばあちゃん像はどこへやら。いやこれは根岸季衣さんが凄すぎる。

よく食い、よく寝て、よく動き、住まいを清潔し、生命力を濃くする。

ばあちゃんの教えを守り、どんどん顔つきが変わるノリオは、サユリのちょっかいにも ドギツイ下ネタ で対処します。

庭から骸骨を発掘しても、テーブルの上に置いて、真横でラーメンをかっ食らう成長っぷりです。
(君たちメンタルの強さと引き換えに大事なもの失ってないか?)

ある夜、ノリオは一人で留守番しようとしますが、その自信満々というか 調子こばった感 が、

「ああこの後、サユリにベッコベコにされるんだろうなぁ……」

という『予感』をもたらします。

案の定、悪夢攻撃の後、スミダさんを奪われました。

パニクるノリオに、ばあちゃんが帰宅。
しかし、サユリの家族――父親・母親・妹という手土産つきでした。

サユリとの最終決戦の前に、ばあちゃんが拉致ってきたのです。

 

【③最終章/一騎打ち編】

( ・⌓・)<雲行きが怪しくなってきたぜ!

と思うが早いか、ばあちゃんはサユリの家族に拷問を加えます。
もはやどっちが悪役かわかりません。

(しかしサユリの家族が何をしたか発覚した途端、「ばあちゃんもっとやれ」になった)

そして発覚する、サユリのバックボーン。
かなり凄惨な過去だったのですが、

「そんなもん俺たちの復讐には関係ねぇ!」 

とばかりに、ノリオはサユリの骸骨をかじって戦いを挑みます。(なんで?)
太極拳と下ネタと未成年の主張(下ネタ)を駆使し、なんとか イソギンチャクみたいになってるサユリ の口の中にいるスミダさんを助け出し、仇を退けました。

 

【まとめ:サユリは救われたか?】
サユリは、ふたつの姿で現れます。

幼い美しい少女と、ざんばら髪で荒れた肌の肥満体。

その理由は、なんとも苦しいものでした。

美しい少女だったサユリは、父親に虐待を受け、母親には見て見ぬふりをされました。
それでも妹を守ろうとしていました。

しかし耐えきれず、部屋に引きこもり、綺麗だと言われた髪を切り、食べ物を詰め込んで自らを醜くします。

すべて、父親から自分自身を守るためです。

けれど母親は食べ物を運ぶだけで、元凶である父親を罰しもせず、サユリに要求します。

 

サユリの母親:「お願い。元通りの家族に戻りましょう」

 

……そらぁブチギレて『バールのようなもの』で殴りますわ。
誰のせいでこうなった、と。家族全員殺したくもなりますわ。

けれどサユリは、逆に妹に殺されそうになります。
妹に。父親の魔の手から、身を挺して守ろうとした妹に。

(ここでなんで妹が「おまえが死ねばいいんだ!」となったのか疑問でしたが)

(何も知らされてなかったんだろうなぁ)

(両親に可愛がれていたのに、突然ひきこもりになった姉としか思ってなかったんでしょう)

(いや妹も可哀想だな!?)

そんなサユリに対して、決戦の際、ノリオは叫びます。

 

ノリオ:「俺はスミダが好きだ! スミダとやりたい!
     おまえと違って俺たちは生きてるんだ!
     サユリ邪魔だーー!!」

 

かなりロクでもないなコイツ。

お化けに負けない強さと引き換えに、他者との共感能力失ったなコイツ。
それはサイコパスの始まりやで……と慄きました。

本来ならサユリだって、同じ年頃の男の子と出会って、するはずだったんです。
欲望だけじゃない、ふれあいとしての性的行為を。

それを奪われた痛みを顧みることなく、「好きな子とやりたい」って貴様。
いや家族を殺された恨みもあるんでしょうけど、会心の一撃となる感情が『性欲』て。後半、家族のこと忘れとるし。

たしかに『生命力』はガンガンに感じましたけど、
ちょっと笑えませんでした。
(正直な感想)

そして御涙頂戴のターンでも。

 

サユリの母親:「サユリ、ごめんね。愛してる」

 

いや愛してるとかじゃなくてね???

むしろなんで母親は父親の虐待の見て見ぬふりをしたんだ。
娘の「助けて」をスルーしたんだ。そっちの理由の方が知りたい。

専業主婦だから夫の機嫌を損ねたくなかった? それとも美しい娘に嫉妬でもしたか?
その辺の掘り下げもないのが、とても不満でした。

個人的には邦画ホラーにおける「嫌だな〜」と思うところが出ていました。
性暴力、虐待、いじめを扱うわりにはえらく表面的で、舞台装置の域を出ていないように感じる。
非常に残念です。

最後の最後まで幼いサユリは泣いていました。
制作側はどうして彼女の涙を止めてくれなかったのか……。

 

【おまけ:好きな場面】
第1章、弟・姉・母親が亡くなる夜のシーン。

階段の電灯が明滅し、現れては消える姉の姿。
そして階段から落ちる弟。
弟も消えては現れる。


「ああ弟も〝取り込まれて〟しまったんだな……」と無言で示されるのがグッときました。

やはりホラーは描写がキモですね😗

 

 

次回は2月17日月曜日、
1996年制作、日本の怪談映画、
『心霊』の話をします。

 

 

鳥谷綾斗