人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

“文学少女”と慟哭の巡礼者(著:野村美月)

JUGEMテーマ:ライトノベル


「(前略)賢治の物語は、敗北と慟哭の物語なのか?」
「そうじゃない……わね?」

「(前略)いつの日か、自分が心に描いたような、そんな自分になりたいって。
 美羽ちゃん、あなたがなりたかったのは、どんな人?」

「(前略)一人で、寂しいと感じたら、本を読んでみて。
(中略)ねぇ、美羽ちゃん。顔を上げて空を見てみて! この世界に、本も想像も、星の数ほどあるのよ!」




「あの頃の心葉くんと、今の心葉くんは、違うわ。
 心葉くんのお話を食べ続けてきた、文学少女のわたしが言うのだから間違いありません」






文学少女、第五巻です。
とうとう心葉くんの心をずっと占めていた人物――美羽の登場です。

ティーフは『銀河鉄道の夜』、そして宮沢賢治の作品全般です。



いやもう何ていうか……一体、何度心葉くんは、『もう大丈夫。乗り越えることができた。ほんの少しだけど、強くなった』と晴れ晴れしく笑い、そしてそのちいさな自信を打ち砕かれてきたことでしょう。

予想通り、心葉くんはボロボロになりました。ソレと同時に、周囲もボロボロにしました。
琴吹さんと芥川くん。ていうか主に琴吹さん。

それでも心葉くんを想う気持ちは揺るがず、嫌われることすら覚悟の承知で心葉くんを引っ張り上げようとする彼女は本当に強いです。
冒頭とラストの、心葉くんの一挙一動に逐一どきどきするところも本当に可愛いです。
いい女です、琴吹ななせちゃん。

今回、心葉くんは四人の女子と深く関わります。

琴吹さん。
クリスマス以降、どんどん距離が近くなり、いい感じだったのが『過去』であり『現在の裏部分』の出現により、バリンと叩き付けられた硝子玉みたいに崩されます。
それでも琴吹さんの強さのおかげで、彼女の割れたカケラをひとつひとつ拾ってくれるような優しさのおかげで、失わずに済みました。

竹田さん。
一巻で救われたはずの彼女は、心葉くんとよく似てました。『もう大丈夫。今度こそ』と思うのに、思ったはずなのにその気持ちは跡形も無く瓦解してしまう。希望と絶望の繰り返しは、確実に彼女を追い詰めていきました。
けれど、そんな竹田さんも思いがけない形で変化し、最後は産声を上げました。音量のちいさな慟哭のような産声。

美羽。
心葉くんが、子供の頃からずっと一緒にいたいちばん大好きな女の子です。
彼女との想い出は、安らかで光に溢れてて嫌なことなんかひとつも無い――そんな心葉くんの思い込み、いや願望が深く彼女を追い詰めていました。
実際の彼女は、家族にゴミ箱扱いされてて、間違ったことをしているのにそれを指摘する人もいない、孤独な女の子で。
だから、心葉くんを愛して、それと同じ心で憎んで、でもそんな自分が大嫌いで。
彼女の、『コノハにそんなことされたら、あたしは後はもう死ぬしかない』という言葉は心葉くんへの気持ちの集大成だったのだろう、そう思います。

そして、遠子先輩。
この『文学少女』の目には、どんなふうに世界と人は映っているんだろうと思いました。
こんなにも優しく、穏やかに、人を諭す先輩。
途中から、『せんぱい! 早くみんなを助けてあげて!』と祈るような気持ちでした。


麻貴さんが用意した、満天の星空を映したプラネタリウムで。
文学少女』と宮沢賢治の星みたいな導きで、何もかも透明となったみんなに、本当に泣きっぱなしでした。

物語は、どうしても主人公の目線で追いがちです。
けれど、別の登場人物の目線で追っていったら……? また違ったものが見れるかもしれません。


蛇足ですが。
心葉くんの美羽への描写がいちいちいちーちリリカルで、どんだけフィルター通してんだよとツッコミまくりでした。まあアレですね。某ビートなたけしさんも言っていました。『男にとっちゃ恋した女の子はまじで天使』(うろ覚え)。
そしてやたら『石鹸の香り』を連発していて、どんだけ心葉くん以下略と思っていましたが、これもまた伏線でした。ふ、深い(笑)

あとこの巻、心葉くんvs芥川くんの殴り合いin教室がありましたが、

はっきり言って、琴吹さんvs美羽のつかみ合いには遠く及びませんでした。や、凄まじさ的な意味で。
『女には女の嘘なんかバレバレなんだから!』という琴吹さんのセリフには納得です。