人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

"文学少女" と神に臨む作家(著・野村美月)


「読者は、作家を裏切るのよ」


けれど、心葉くん。
わたしは、物語を糧として生きる文学少女で、天野文陽の娘なのです。
作家の成長を妨げるようなことは、できません。


そうして、神に臨む作家になろう。



前巻の、『“文学少女”と月花を孕く水妖』からどれだけ経ったでしょう。
文学少女シリーズの最終巻、感想です。
 
あらすじ。
"文学少女"の天野遠子と出逢ってから二年。受験と卒業の時期が近づいてきた。
文芸部の部室での、三題噺のおやつと"文学少女" の蘊蓄の日々も終わる。
ななせと付き合う心葉の前に、井上ミウの担当だった佐々木が現れる。しかし心葉は、「二度と小説は書かない」と告げる。
その夜に家に訪れた遠子は、心葉に何故と問い質し、小説を書くように言うーーこれまで幾度となく心葉を救ってきてくれた"文学少女" の、裏切りの言葉。
その波紋は広がり、流人を暴走させ、天野遠子の秘密が明らかになっていく。


これまでのーー『死にたがりの道化』から始まったすべてのお話が、この最終巻に繋がっています。
この構成が本当に見事でした。どれかひとつでも欠けていたら、この結末には辿り着きませんでした。
下巻の336頁のくだりは、圧巻です。

ティーフはジットの『狭き門』です。複雑で不可解な愛の物語です。
遠子先輩は『狭き門』をコンソメスープに喩えていましたが、私は、この "文学少女" こそコンソメスープのようだと思いました。
様々な材料を煮込み、大量に出るアクを除き、丁寧に漉し、すべてが混ざり合って最後は透明な琥珀色になるスープ。
調理の過程で、鍋の中はドロドロになります。けれど手間と時間、愛情をもって手を加えることで、『完成された』という意味を持つ名に相応しいものが出来上がります。

この物語も同じです。
過程がこれでもか! ってくらいにドロドロしてます(笑)
愛情、憎しみ、嫉妬、執着……大人も子供も本当にダメダメで、非常に歪んでいます。
(歪んでないのは本当にななせちゃんくらいでした)
強いけど、弱い人たちでした。人と人が接することでどうしても避けられない悲劇でもつれ合い、複雑に絡み合っています。

読者は作家を裏切る。
悲しくてもこれは真実です。
作家も読者を裏切る。
痛ましいけど、どうすることもできません。

けれど、それでも物語は、希望の光を灯します。

きっと作者の野村先生が伝えたいであろう言葉がきちんと伝わり、みんながみんなハッピーエンドではないけれど、苦くて苦しい物語に違いは無いけれど、読後は透明で味わい深かったです。本当にコンソメスープみたいでした。

遠子先輩は、これまでずっと強くて優しい人でした。
そんな人が初めて見せた弱さや身勝手さ。そして当事者だからこそ、彼女でも読み解くことができない真実に直面します。
それを助けるのが心葉くんでした。今までの遠子先輩の手腕をなぞるように、真実を探り当て、別の側面から読み解き、悲劇に凍り固まった一人の『作家』に、十七歳の自分が見つけた真実を示し、光を示します。
強い人が強いままでないように、
弱い人が弱いままではないーーそれは心葉くんも、『道化』に出てきたとある二人も同じでした。

唯一にして最大の残念な点は、琴吹ななせちゃん。
誰よりもがんばっていた彼女は、何ひとつ報われませんでした。
けれど彼女のこれからを信じます。信じられます。ななせちゃんの物語の続きで、彼女は幸せになるのだと。必ず、絶対、誰よりも、世界でいちばん幸せに。
そうじゃなきゃ……おかしいです!! 本当におかしいです!!(・_・)マガオ

めっちゃくちゃに暴走していた流人くん。うざいくらいにぶっ壊れてて暗躍していました。
でも麻貴先輩と竹田さんにしてやられたので、だいぶ溜飲が下がりました。( ・ω・)<ザマァ。
彼の望みも叶えられました。だけどやり過ぎです本当に非道いです。琴吹さんに土下座しろよコノヤロウ。


本編はこれで終了とのことですが、番外編がまだまだあるので、ゆっくり読んでいきたいと思います。

遠子先輩にはいろんなものをもらったなぁと思い返します。
彼女のおせっかいな言葉は、遠子先輩自身に言い聞かせてきたからこそ、こんなにも響いたのか、と……今では思います。


読んでよかった。
心からそう思える、そんな物語でした。