人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

仮面山荘殺人事件(著・東野圭吾)

JUGEMテーマ:ミステリ

彼女が懸命に訓練している姿を、高之は美しいと思った。(中略)大抵の人間は、苦痛に耐えてまで何かを成し遂げようとはしない。辛い局面に立たされると、まず責任転嫁し、それからヤケになるか無気力になるだけだ。そして悲劇の主人公を気取るのだ。



「(前略)君が*そうとした朋美は、そういう娘だったのだ」

「残念ながら、君の**はないよ」

「(前略)そして永久に現れないでくれ。わかったな」






悪意』と同じく、ものすごいスピードで読み抜けた作品です。四時間くらい? かな。

挙式を目前に婚約者を喪った主人公の樫間高之が、その婚約者・朋美の家族に避暑地の別荘に招待された。
そこに集まったのは、朋美の両親と兄、従妹、親友、そして父親の秘書と従妹の主治医という合計八人の男女。
初日の夜に逃亡中の銀行強盗犯が押し入り、彼らは監禁される。
脱出を試みても、『誰か』によって邪魔をされ、そうして殺人が起こる。
果たして、犯人は誰なのか? そして朋美の死の真相は?

……というあらすじ。

舞台が一貫して別荘内なのも、猛スピードで読了できた理由やも。
同じくどんでん返しの激しい真相でした――が、途中でなんだか狙いが読めてしまって『こうかな? こうかな?』と構えながら読み進め――おおもとの真相は予想通りでした。
けれど、朋美が死んだ『真の理由』は驚きました。そして、切なくなりました。

思いっきりねたばれなので反転。

冒頭で出てきた、二人の馴れ初めがとても素敵だったので……事故で左足を失った朋美が、高之に『私はこんな足だけれど、いいの?』と尋ね、それに対して高之が『僕はこんな鼻の形だけれど――』と返すのがすごく素敵だったのに……

しかし直接……は言い過ぎかな、高之があんなことをする原因になった朋美の従妹・雪絵ですが、見方によっては彼女も犯人で、今回の計画に参加する資格は無い――かもしれません。
けれど、私はそう思いません。彼女は必死に諦めようとしていました。チョコレートを渡したのは行き過ぎだったかもですが、それでも従姉の幸せを祈ってた。
彼女は、朋美の死が自分が原因だと一生思い、悔いながら生きていく罰を自らに背負うんでしょうね……。

にしても、この話でいちばんゾクっとしたのは――全員があまりにも完璧に仮面を被っていたこと。ガラスの仮面じゃないよ鉄の仮面だよってそれだと拷問か……いやある意味、演じる側にとっては拷問か。
死ぬほど憎んでいる相手と懇意にしたり、一緒に酒を飲んだり、チェスを興じたりしていた……楽しげに見えて実は、って考えるとうすら寒くなります。
復讐ってこういうところが凄絶ですよね。





そしてこの物語。真相を一度知って、改めて再読すると別のモノが見えてきます。
朋美のお葬式で、『もっと早く結婚式を挙げさせたらよかった』と泣く母親に同意する主人公とか。
『何があっても朋美との仲は変わらなかった』と断言した直後の、凍りついた空気の意味とか。『ここで黙っているわけにはいかなかった』とか。

スルメ小説です。

未必の故意』と『無自覚』。この物語を読み解くには、このふたつの言葉が鍵かな、と思いました。