人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

映画/トゥルーマン・ショー

ツタヤで借りた映画です。
1998年制作、アメリカのSFコメディです。

 

 

 


www.youtube.com

 

 

【あらすじ】
離島シーヘブンに住む青年・トゥルーマン
彼は父親を亡くしたトラウマで水に近づけず、島から出たことがない。
だがある日、空から『シリウス』と書かれたライトが落ち、死んだはずの父親を町で見かけ、トゥルーマンは徐々に不信感を抱く。

 

【ひとこと感想】
作品は我が子。メタ哲学とコメディと恐怖のリアルな『ショー』。

 

※全力ネタバレです。

 

 

【3つのポイント】
①見せ物人生
②ほころびとアドリブ
③そして世界の端へ

 

 

【①見せ物人生】

 

クリストフP:「シェイクスピアには劣っても、本物」

 

友人マーロン役:「作り物は一切ない。操作されているだけ」

 

そんなインタビューの後、トゥルーマンという名を持つアラサー既婚男性の『生活』が始まります。

隣人に挨拶をして、ラジオを聞きながら出社。

服装や背景はレトロでポップな色調で、それこそ『映画のように映える』暮らし。

親友マーロンと大事な話をするときも、夕陽と月と鱗雲の、うさんくさいほどに美しい空の下でした。

そんな計算され尽くした画面は、時折、楕円形の影のフレームが発生します。
これは『人間の視界』です。

カメラレンズの形にもなり、トゥルーマンは撮影録画鑑賞されているのだと分かります。

彼の人生は、本人不承のまま生後数日でカメラデビューを果たし、
彼の生活は24時間365日、リアルタイムで放送され、
彼の命の道程を、世界中の人々が観続けて――否、エンタメとして消費しているのです。

( ・⌓・)<狂ってるなぁ……

と恐怖を感じるところですが、先に『笑い』が来ました。

 

巨大なセットの中は、トゥルーマンが健やかに生きて、つつがなく放送できるように(※1)、細かく作り込まれています。

ただし、彼が立ち入る場所以外は、完全に『舞台裏』。

町のホテルのエレベーター(おそらく従業員専用)を開けたら役者・スタッフの待機室だったり。

ヒキで見たら雨雲(人工)が彼を狙い撃ちにしていたり。

そして亡くなったはずの父親の姿を見て、調査しようとする彼を、番組スタッフが妨害します。

 

【②ほころびとアドリブ】
この妨害が完全にコメディ。

トゥルーマンが腕を広げて渡るだけで、すべての車が止まる。
病院に進入しようとすると、結構な数の車椅子の人々が突進してくる。
バスの運転手は「やべ、トゥルーマンが乗ってきた! 妨害せな!」とわざとエンスト(?)を起こす。
(それに文句を言わない他の乗客)

車で町を出ようとすると、渋滞を作ったり山火事を起こしたり(※ニセモノ)、原発事故を起こしたり。

そこでモブのミスで、トゥルーマンは核心に迫ります。

妻のメリルを問い詰めますが、彼女は突然、虚空に向かってココアを勧める。

そう。これは『広告』です。だってテレビだから。

いよいよヤバくなり、制作室である『月面ルーム』にて、プロデューサーであるクリストフは、ある布石を打ちます。

それは『なんかスゲーエモいセリフを親友役マーロンに言わせ、実は生きていた父親と再会させる』というもの。


( ・⌓・)<プロの技〜〜〜〜!!!

思わず感心しました。

生演奏の贅沢なBGM。抱き合うトゥルーマンと父親。
ほころびに対応した完璧なアドリブに悦に入るクリストフP。
大喜びのスポンサーとスタッフと視聴者。

その中には70年代と思しき日本家庭もありました。
(『トルーマン毎日』という謎の標語)

スポーツバーみたいに、トゥルーマンバーもあります。

なんならグッズもあります。視聴者である、二人暮らしおばあちゃんもずっと風呂に入っているおっちゃんも警備員コンビも感動の涙です。

トゥルーマンも愛飲しているココア!」の広告の後で、番組の種明かし。


ここから一気に、コメディから恐怖に変わります。


この番組は、小国のGNP並みの売上と、人口並みのスタッフを抱える一大プロジェクト。

だから(※1)トゥルーマンを『外』の世界と触れさせるわけにはいきません。

少しでも外に近づいたら、周囲の人々(俳優)は一様に凝視する。(怖い)

監視だけでは不足と考え、クリストフはひとつの『枷』をつけることにしました。

それがあの『水恐怖症』です。

父親の水難事故を装って。海に絶対に近づかないように。
まだまっさらだった幼い彼の心を、わざと傷つけた。

これは、物語作りによく使う手法です。もちろん自分も使います。
展開に添うように、つまり都合が良いように『人物』の設定を付加する。

架空の存在にだけ許される横暴を、クリストフは現実の人間である彼に振るった。

これは明らかな人権侵害だと、おそらく世界で唯一批判した人物がいました。

シルヴィアという、トゥルーマンの忘れられない女性です。

 

【③そして世界の端へ】
シルヴィアの批判を受け流すクリストフ。

けれどある日、トゥルーマンは失踪しました。

海に船を出し、シルヴィアに会いに行くために。

(ちなみに妻のメリルは番組の都合上、男と駆け落ちしました)
(某渡る世間ドラマみたいな自由な脚本やな)

妨害のために、スタッフは天候を変えます。もはや神気取りです。
海に落ちるトゥルーマン。賭けつつも、緊張しながら見守る視聴者。

 

トゥルーマン:「殺せるなら殺してみろ――!!」

 

しかし彼は諦めない。天に叫び、生き残る。
観念したスタッフは天候操作をやめて、作り物の空が晴れ渡りますが――

ゴツンッ

船の帆先が、当たりました。
壁にです。壮大な海を描いた、セットの壁に。

海の果て、世界の端に阻まれた彼は、何度も体当たりします。

けれどどうにもならない。

思いました。これこそ絶望だ。

けれど。
その絶望すら、人間は、『他人のものなら』楽しめる=消費できる。


トゥルーマンは壁の縁を歩きます。海の上を歩む姿は、トリックアートみたいで不思議な光景でした。

見つけたのは、階段と『EXIT(出口)』。

扉を開けた瞬間、クリストフはやっと彼と直接話をします。
ここの会話はとても印象深いので、ぜひご自身で。

「頭の中にカメラはない」と言ったきり、無言になったトゥルーマンに、
クリストフは苛立たしげに「テレビに映ってるんだぞ!」と怒鳴ります。

 

トゥルーマン:「会えなきゃ――こんにちはと、こんばんはを」

 

それだけを残し、美しいお辞儀をして、出口へ。
疑問や恨み言、嘆き……そんなものは一切感じさせない、『幕引き』でした。

 

【まとめ:クリストフは幸せ者なのでは?】
クリストフP、現代が生んだ化物って感じでした。

実は最初は、自分はトゥルーマン・ショーのことを、

これはある意味、孤独対策なのかもしれない。

と無理やり『良いとこ探し』をしたのです。

youtubeの食事動画や、作業・勉強動画と同種と言いますか。
画面の中のトゥルーマンが食事しているから、寝ようとしているから、自分も(視聴者)も食べて寝る。

そういう生活を整える手助け、寂しさを埋める効果があるのか、と思いましたが。

しかしクリストフPの、「何故他にも候補がいる中で、この男性がトゥルーマンに抜擢されたのか」の答えが、

 

クリストフ:「2週間も早く生まれた熱意を買われたんだ」

 

( ・⌓・)<んなわけないだろ。

何でしょうね、この『相手に責任を押しつけている感』。
恋愛漫画のアホがよく使う「おまえが誘ったから悪い」にも通じるような)

そんなPの傲慢さは、クライマックスの『大荒れの海』で浮き彫りに。

 

スポンサー:「世界中が見ている前で彼を死なせるのか?」
クリストフ:「生まれたときも同じだ」
      「もっと風を起こせ」

 

そう命じるPにとって、
トゥルーマンは完全に『自分の作品』なのだろうと感じました。

だから、トゥルーマンが思い通りにならないと困るし、怒りや苛立ちを覚える。

作品は我が子、という言葉がありますが。
それをもっとも邪悪な形で描いている――と感じました。

そんな産みの親に対して、トゥルーマンは応えた。

 

〝会えないときのために、こんにちは、こんばんは、おやすみ〟

 

いつも彼が使っていた、『さようなら』を使わない別れの言葉で。

爽快感すらある余韻を残して、
トゥルーマン(作品)は、クリストフ(作者)の手を離れた。

だから、どっちかと言うと、クリストフと同じ立場(作り手)の自分としては思うのです。


なんやかんやで、クリストフは幸せなのでは?

作品が我が子だとしたら、
我が子が自分の手を離れるのは、とてもとても幸福なことだと思うので。

 

 

【余談:面白かった点】

トゥルーマンの幼き日々。

いやベビーメリーにカメラを混ぜるな。
トゥルーマン・ショーに出たがった闖入者も面白かったです。いやプレゼントボックスから射出すな&パラシュートで登場すな。


トゥルーマン捜索場面。

月がスポットライトになり、町中の人々が横並びになってザッザッザッと歩くのシュール。


③「俳優に船の操縦は無理です!」

それはそう。


④ラストシーン。

トゥルーマン・ショーが終わり、ひとしきり『感動』した後、次の番組を探す視聴者。
こんなもんよね、と思う。
だから、この馬鹿げた企画からイチ抜けした彼は正解だったと、心から思います。

シルヴィアと幸せに!

 

 

次回は6月13日金曜日、

( ・ω・)<来たぜ俺たちの13日の金曜日

1980年制作、アメリカのスラッシャーホラー、

13日の金曜日』の話をします。

 

 

鳥谷綾斗