人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

禁断の魔術(著・東野圭吾)

JUGEMテーマ:ミステリ


「わからないのに持ってきたのか」
「わからないから持ってきたんだ」


ガリレオ

しかしーーと思う。湯川は特別だ。彼の人を見る目を信用してもいいのではないか。

「科学の素晴らしさを語り合っただろ。私は君にそんなことをさせたくて科学を教えたんじゃない」



科学


ガリレオシリーズ、現時点で最後の短編集です。
これで終わり、なのはとても寂しいので、東野先生続編おねがいします。
(加賀シリーズも終わっちゃったしなー)

ラインナップは、透視す/曲球る/念波る/猛射つ……です。
そのうち、【猛射つ】は中篇くらいの長さになってます。

【透視す】
透視マジックを得意とするホステス、アイが殺された。彼女は何を見てしまったのか。また、透視のトリックは?

珍しく現象に対して目を丸くする湯川先生。その様子を見てはしゃぐ草薙さんがほんとに楽しそうです。
この短編集、全体的に動機がすっごく軽々しい……といったら語弊がありますが、こんなことで? と開いた口が塞がらないものばかりです。
それに加えて、被害者の仕事熱心さが災厄を招いた、というのが何ともやりきれない……犯人の持つ、思い込みが激しい癖に殺人と横領のどっちが罪として重いのかそれすら正しく理解してない、そのちぐはぐさが気持ち悪かったです。
彼女がホステスという仕事を選んだ理由となる人物の言葉が、より一層悲劇的でした。


【曲球る】
不調の野球選手、柳沢の妻が殺された。彼女は夫に何かを隠していた。

事件自体はすぐ解決します。この犯人の動機も気持ち悪くて、且つ現代的……っていうか『ナウい』って感じでした。いつか現実になりそうで嫌だ。
殺された妻は事件の日、何故現場のホテルにいたのか。誰と、そして何のために、というのが主題になります。
科学の力で謎を解くのではなく、科学の力で人を手助けして、その観察眼で謎を解く湯川先生が見られます。ほんとに変わったなあこの人。


【念波る】
ある女性が襲われ、意識不明の重体となった。発見が早まったのは、彼女の妹のおかげだった。妹は、テレパシーで姉の危機を察知したという。

科学しないガリレオ。いやウンチクはありますが。ほんとにこの人変わったなあ(2回目)。
しかしこの世には、今の科学では説明がつかない現象もあるようで。そこに謎がある限り、先生は追求していくんでしょう。たまに人の手助けをしながら。
湯川先生が犯人に仕掛けた罠が、単純だけど理に適ってて素敵です。
そしてこの回では、草薙刑事の成長も垣間見えます。まさか論理で湯川先生から一本取るとは。先生もびっくりです。
ドコでそのディベート能力を磨いた? と聞かれた草薙刑事は『取調室だ』と答えますが、いやいや某科学者の影響もあると思いますぞ。ヾノ・ω・) 


【猛射つ】
フリーライターが殺害された。ほぼ同時期に、湯川の後輩であり教え子である古芝という青年が失踪した。そして相次ぐ、弾の無い射撃による器物損壊事件。これらを繋ぐものは?

実質の最終回です。
これは是非とも映像化してほしいです。
前2作の物足りなさを補って余るほどの科学っぷり。これぞガリレオ

ドラマシーズン1の最終回のように、真夏の方程式ガリレオの苦悩のように、湯川先生なりの、科学と人類の関わりに対する答えのようなものが散りばめられています。
『科学を制する者は世界を制す』という言葉を遺した、ある人物の考えに共感を覚えたのでは、と思います。
だから、教え子にその精神を受け継いでもらいたい、けれど自分の教えた科学がこの事態を招いたならーー責任を取ると、湯川先生はあんな無茶苦茶な選択をしたのでしょう。

責任を取れない人間は、科学者であってはならない。

自らが放った(ドラマ版で)言葉を体現する先生は、ほんとにすごい。
ラストは、元凶の人物が特に罰せられることなく終わりましたがーーそれでも、彼が罪を犯して科学を悪用するよりはマシです。と、思うようにしてます。(笑)
何故なら彼には、『過去の過ち』を正せる技術者になってほしいからです。きっと彼の家族もそう望むと思います。

この事件を最後に、湯川先生はニューヨークに旅立ちました。
別れの挨拶も無く、メールでさらりと『行ってくる』とだけ。

草薙さんは刑事として、
湯川先生は科学者として、
そのスタンスを絶対に崩さなかった2人は、また会うのが10年後でも、変わらず相棒兼友達兼、お互いの仕事の質を高め合い(?)つつ、共に謎の解を目指す仲間として接するんでしょう。
その姿がまた見られたらなあ、と一読者としては希望せずにいられません。
というわけで、湯川先生の草薙刑事への短いメールの最後で締めくくらせていただきます。


『ではまた』。