人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

ハサミ男(著・殊能将之)

JUGEMテーマ:ミステリ


 何もない。
 わたしの内側は、からっぽだ。
 そして、わたしの内側も、からっぽだった。
 ふたつの異なるからっぽがある。その境目がわたしだった。


「おまえに求められてるのは、俺と同じ直感を身につけることじゃない。おまえ自身の物の見方を貫くことだよ」
 
 


ずっと読みたかった!!
ので読みました。(分かりやすい)

あらすじ。
美少女を殺害し、研ぎ上げたハサミを首に突き立てる猟奇殺人。
マスコミがつけた通称は、『ハサミ男』。
ハサミ男』は、アルバイトで生計を立て、週末は自殺に勤しみ、それが失敗するたびに『医師』に嫌味を言われ、おいしいものの誘惑に負けながら、第三の犠牲者を調べ上げていた。
だがターゲットの少女は、『ハサミ男』の手口そのままの他殺死体で『ハサミ男』によって発見される。
捜査に乗り出した目黒西署の磯部刑事は、心理分析官・堀之内に指名され、独自で捜査を始める。


メインの仕掛けは割りとすぐに分かりました。(文章の端々にある柔らかさで)
ですがそれでも面白い。犯人は最後まで結局わかりませんでしたし。
新たな発見や納得、「あーそうかそうか!」と腑にぽたぽた落ちます。
非常に多角的な物語というか、ハサミ男、警察と視点が変わることで、『事実の見方』がころころ変わるといいますか。
一番納得いったのは、作中に出てくるミートパイのおいしい喫茶店のマスターが、やたらハサミ男に懐く(語弊もち)のですが、それもハサミ男美人な女性だから、という点。ミートパイのトマトソースを誉められたからと見せかけて。
ハサミ男(視点の文章)によって、この描写はこれこれこういうことだ、と説明されて無意識で納得しましたが、事実がわかって読み直すと別のものが見えてくる。というのが沢山ありました。
これが伏線の張り方なのか……とものすごく勉強になりました。

この認識の錯誤(うまい言葉が見つからない……)は、作中でも起こっていて、真犯人が『ハサミ男』という名称に引きずられて、見誤っていたと言っていましたが、私(読者)も同様です。
心理分析官』という名前の職のイメージに引きずられて、磯部刑事に割り振られた仕事の内容に、まったく違和感を持ちませんでした。そーだよなーこんなんあるわけないよな小説ドラマ漫画じゃあるまいし! この二次元脳!(to自分)

こうやって自分の先入観を自覚した後ですと、先輩刑事たちの『自分の考えを確立させる』、という言葉が活きてくるような気がします。
そして磯部刑事らが、真犯人に辿り着いた過程もすごかった。
日高が怪しいという情報操作があったからこその結末だったと思います。
真犯人にも知らないことがありましたし、全部を知れるのは全部を読める読者だけという構成が最高に痺れます。


そしてキャラクターが面白かったです。
ハサミ男は割と鈍感です。
日課は美少女のストーカーと食べることと自殺企図の美人って斬新すぎる。
そして割と大ピンチなのに、そこはかとなく余裕があるというか、
これが彼女に惚れている磯部刑事の視点だと、また違って見えていて、アンジャッシュのコントばりのすれ違いが起こってて笑いました。

しかしちょこちょこ謎も残りました。
被害者の樽宮由紀子の真実、実は『ハサミ男』の方が作られた人格だったのか、医師の原型は父親だったのか。
……など。

あと、シリーズものになったら相当面白いだろうなぁと思いました。
磯部刑事が捜査中の事件を、『医師』の口車に乗せられてべらべらしゃべり、『ハサミ男』が渋々調査を始めて、何やかんやで犯人に辿り着き、『医師』がおいしいところ取り……とか。
(その場合『ハサミ男』としての犯行はおやすみで)