人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

月光ゲーム・Yの悲劇’88(著・有栖川有栖)

 『(中略)――その滅茶苦茶を、全部あの月のせいにしてしまおう。山も人も、月に狂ったと考えよう』

『(中略)――月のせいだ、なんて、言わないで、欲しい。――(後略)』





『江神シリーズ』の第一作目にして、有栖川先生のデビュー作です。
本格ミステリというより、青春推理小説という感じかな? 赤川次郎先生を髣髴させます。
しかし如何せん、キャラクターが多く尚且つ主人公の一人称形式なので描写にやや偏りがあって、全員つかみきれませんでした。(泣)

舞台は夏休み。ある休火山のキャンプ場です。
登場人物は、
主人公・アリスが所属する、江神二郎率いる英都大学推理小説研究会が男四人。
雄林大学ウォーク同好会が男女七人。
神南学院短期大学が女三人。
そして、キャンプ場で知り合った雄林大学が男三人。

うぁ~お。(笑)

このうちの一人に、アリスが淡い恋心を抱くのがもうひとつのこの小説の旨味です。
最初のうちはうまくいっていました(いろんなところにフラグが立ったり)が、ある女学生が忽然と姿を消した途端、山がいきなり活火山へと変貌を遂げ、更に殺人が起こります。災害によってキャンプ場から下山できなくなり……ちょっとしたサバイバルのシチュエーションものぞけます。

この中に、月の魅力/魔力に魅せられた女学生がいて、彼女は事あるごとに月のチカラを強調します。彼女のご高説はなかなか興味深かったです。江神さんと同じく。

謎解きは理詰め。論理的です。
ばばーんとしたトリックがあったわけでもなく、これはこうだからこうだった、といった感じです。

さて犯人の動機。
というかそもそものきっかけ/原因。
『ああ~……』という感じです。居た堪れない。向こうに悪気は無く、また酒の勢いもあったとしても。
加えてちいさな思い違いもあり、悲劇に転じます。
しかしてこの犯人、私的に気に食わないです。
ありとあらゆるものを他人から借用した点も、出会ってすぐの人とそうなったことも、この状況に甘んじて殺人を続けたことも、それをゲームと形容したことも、ついでにラストも。
月のせいじゃない、と言いながらも彼はナニカに踊らされているような印象を受けました。

そんな犯人なので星みっつ。

そして、ダイイングメッセージの『Y』。
もうひとつ有栖川先生の著書にはこれを扱ったものがありまして、どちらかと言えばそっちの方が好きです。