人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

九つの殺人メルヘン(著:鯨統一郎)

JUGEMテーマ:ミステリ

『――を思い出したんです』 

『メルフェンには、表向きのストーリーの裏に、その物語の真の意味が隠されている場合が多いんです』






初・鯨統一郎作品。
タイトルから可愛い感じがしたので読んでみました。
中身は、オッサンたち(失礼)と美人女子大生が日本酒の肴に謎を解く、安楽タイプのミステリでした。
(バー・ミステリと言うそうです)

渋谷区にある日本酒バー・『森へ抜ける道』。
そこに集まった、刑事の工藤と(自称)犯罪心理学者の山内とマスターは揃いも揃って四十二歳の『厄年トリオ』。
彼らと、毎週金曜日に姿を見せる、大学でメルフェンを学ぶ美人のお嬢さま・桜川東子が、事件をメルヘン――西洋の昔話にたとえてア完璧なアリバイを崩していく。

……という連作短編集。
ヘンゼルとグレーテルの秘密/赤ずきんの秘密/ブレーメンの音楽隊の秘密/シンデレラの秘密/白雪姫の秘密/長靴をはいた猫の秘密/いばら姫の秘密/狼と七匹の子ヤギの秘密/小人の靴屋の秘密――の九つで構成されています。
実はこの九つは、有栖川有栖先生の『マジックミラー』という著書ですべてのアリバイトリックを大きく九つに分けているところから来ていて……って、私まだソレ読んでナイヨー!
うう、図書館で予約してきます……。

ヘンゼルとグレーテルの秘密
→よくよく考えれば確かにこの兄妹ワルです。ていうか昔話のキャラって意外とひとでなしが多い気が。

赤ずきんの秘密
赤ずきんちゃんのニブさの理由に新説が。それも気になってはいましたが、何より、森の奥深くにおばあさんを独りきりで住まわせる両親の方にツッコんでしまいます。

ブレーメンの音楽隊の秘密。
ブレーメン関係ないやん! と地味に思ってましたが、そういう理由なら……。しかしこのトリックはよくいろんなところで見かけますね。被害者の老人たちの夢が、音楽隊の動物たちにカブってしんみりします。

シンデレラの秘密
→ヒィー王子が靴を履かせるのが『そういったこと』の比喩だったとは……(しかしそこまでしなきゃ惚れた女を見つけられないってアンタ)! あと犯人の都合がよすぎ。

白雪姫の秘密
→姫が懲りなかったり王子様が死体の姫にキッスしたりと色々ヒいてた話なんですが、加えてお妃の鏡の正体の説で更にヒきました。ドン引き。
見えざる人物の真相が面白いです。

長靴をはいた猫の秘密
→トリックはいちばん好きです。ピカレスク・ロマン(悪漢小説)と評されたこの物語。別の作家さんによると、粉引き屋の遺産相続でいちばんイイモノをもらったのは猫自身だったとか。彼がもらったのは、無知で便利な三男坊という道具……三男坊が言いなりになってくれたおかげで、一生食うに困らない生活を手に入れた、という説もあります。
猫の目の瞳孔の話は興味深いですなあ。

いばら姫の秘密
→いやいやうまくいきすぎ! 遠隔殺人にも程があります……でも面白い。
赤い糸といい、この被害者はまさしく『夢見る夢子さん』だったんだなー。

狼と七匹の子ヤギの秘密
→いやいやうまく(以下略)。子供たちも純真すぎです……見方によっては悲劇的。
で、この犯人は子供たちが成長したときのことは考えてたの? 五年もすればアレはああいうことだったんだと分別はつくと思うのですが。
しかしこのメルフェンの新説も怖いなー。

小人の靴屋の話
→棚ぼた靴屋を切る桜川さんが素敵です。とうとう正体不明だったなあ。
美貌の歴史学者さんはナニカある、とみた。別作品のキャラとか。
殺人事件のアリバイ崩しを扱った連作の最後。アリバイ崩しは伏線はよかったです。そしてこの物語の中で、唯一抹殺されてよかった『被害者』でした。

この物語のポイントは、日本酒の雑学(呑む人には面白いでしょね)とやたら美味しそうなおつまみ(酒のつまみはごはんにも合う)と無駄に懐かしい昔話(流行った歌とかテレビ番組とか)。
そして、テンションの微妙なボケ・ツッコミに微妙に笑える。という点。
(ほんとに微妙……)

その中で気に入ったの。


(いばら姫で、被害者が飲んだ薬の話をしているところ)
「この成分は、適量の十倍で致死量になる」
「けっこう危ないね」
「うん。夢子は、この薬を二十回分も溜めていた」
「二回死ねるね」



に か い し ね る て  (=∀=)


何その発想。すごいなマスター。
さすが表にねずみの鳴き声がしたら店じまいにするマスター。シメも彼で、なかなかどうしてウマかったです。