人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

映画/アス/US

久々のホラー映画感想記事でーす。

映画館で視聴。
ホラー映画界に新たな可能性を示した(※ソースは俺)2017年の大傑作・『ゲット・アウト』ジョーダン・ピール監督の新作です。
「こらぁ観なあきまへんわ絶対観ますわ」と決めてたのですが、公開終了ギリギリで観ました。計・画・性!(自省)


ネタバレ全開です。
こちらはぜひともネタバレ無しで視聴し、解説やインタビューを読んでいただきたいです。

theriver.jp

miyearnzzlabo.com


【あらすじ】
夫・ゲイブ、娘・ゾーラ、息子・ジェイソンとサンタクルーズのビーチハウスに訪れたアデレード
だが、そこは彼女にとって忌まわしい土地だった。幼い頃、彼女はこの地域の遊園地のミラーハウスで自分とそっくりの少女と出会い、トラウマを負ったのだ。
その夜、停電が起こる。真っ暗闇の中、ビーチハウスの外で4人の人物が手をつないで立っているのを見る。
その4人はアデレードたちに瓜二つ――『ドッペルゲンガー』だった。


【この作品で思い出した『恐怖とは何か』】
前半はとにかく、腹の中を冷たい手で撫でられるような『不気味さ』が際立ってました。
主人公一家を襲うドッペルゲンガーたち――
便宜上『わたしたち』と呼びます――その登場シーンは ぞわっ とします。

真っ暗な夜。家の中は停電。電灯はつかない。鳥と虫と風の音しか聞こえない。道路にぽつんと立つ街路灯が薄暗く照らす中、4人の人間が立っている。
手をつないでただ立っている。
赤い服を着てただ立っている。

自分たちとまったく同じ顔をした人間がただ立っている。

わたしたちは家の中にいるのに。
わたしたちが家の外で見ている。

……という感じで、世界で五本の指に入る(ソースは俺)傑作ショートホラー・『ライトオフ』にも通じるこの画面。
どうしてこんなに怖いんだろう……と嫌な汗を流しながら考えたところ、『何もしてこないから』の一言に尽きました。

ふいに思い出しました。カール・イグレシアス著の『「感情」から書く脚本術』という本にあった一文です。
以下引用。

サスペンスの神様アルフレッド・ヒッチコックが、かつてこう言った。「銃声そのものには、感じるべき恐怖はないのです。恐怖はそれを待つ不安の中にあるのです」。


「なんか嫌なことをされる」という不安(本書の言葉を借りるなら『期待』)こそが、異様に『怖い』と感じる理由なのか、と思いました。


【けれどやられっぱなしじゃいられない】
『わたしたち』は、某ジェイソンほど圧倒的な戦闘力があるわけではないので、普通に反撃できます。
だんだん一家が戦闘慣れしてきて、『わたしたち』をボコボコに返り討ちにします。
特に娘・ゾーラが、友人のタッカーさんの家で、その娘姉妹のドッペルゲンガーゴルフクラブで滅多打ちにする場面。
「普段から嫌いだったの?」と聞きたくなるほど容赦なかったです。
最後は狩った数を競ってました。何なの君たち狩猟民族なの?


【印象的な場面】
ドッペルゲンガー――クローン(作中では『テザード』)たちが棲む地下室の謎が解けて。
クローンたちは、オリジナルとまったく同じ行動をとる仕様です。
(思えば息子・ジェイソンが自分のクローン(犬みたいな動きでこれがまた不気味)を始末した時に描写がありました)

幼いアデレードが遊園地で遊んでいた時も、クローンたちはその身ひとつで再現します。
射的をする人々がいれば、クローンたちは銃を構えるポーズをして、的も弾も無いのに当たったと『大喜び』の動きをします。
ビールを楽しむ人々がいれば、クローンたちは『酔う』動きをします。
大勢の人が、狭い地下室で、ひしめきあってパントマイムをしている。

奇妙で、どこか美しい。実際に目にしたら気が変になりそうなシーンでした。


【総括】
映画が終わった後、エレベーターで1階に下りて、外に出ました。アスファルトの地面が目に入りました。

私がいま地面だと思っているこれは、そういえば地面じゃない。
(そもそも地下鉄や地下街や、地層的なものもある)

もしかしたらこの下にいるかもしれない。
映画と同じように、今の私と同じ行動をさせられている『わたし』が。

もし『わたし』がいるとして、では私と彼女の違いは何だろう。
……彼女は、空調の利いた映画館でフカフカのシートに座って、最高の環境で大好きなホラー映画を観ることができるこの私を憎んで、襲ってくるかもしれない。

と、考えたところで、この作品の所々で頭を傾げた点がよぎりました。
それは「ドッペルゲンガーに対して容赦しなさすぎでは……?」でした。
何せ車で轢いて茂み(?)に落ちた後、車を降りて確認するレベルの念の入りようです。死んでなかったら確実にトドメを刺す気満々。
いやまあ、常々ホラー映画のクライマックスにおいて、「一撃くらいで殺人鬼が死ぬと思うな! 頭をつぶせ!」とヤジを飛ばす身としては正解だとサムズアップすべきなんですけど、しょーーじき「そこまでやる?」という感想です。

ですがこうやって、自分の身に置き換えてみると、割とあっさり「あ、殺すわ。うん、全っ然殺すわ」って思いました。

地面を見ながら夢想した『わたし』は、確かに可哀想な存在です。
だけど、もしも襲ってきたらたぶん普通に殺します。だっておびやかすから。うん。ごめんね。


【個人的にお気に入り場面】
タイラー一家の奥さんが、スマートスピーカーに「Call the police」と警察に電話するように言ったのに、「Fuck the police」という陽気な楽曲が流れた場面。
こういうの大好きです。機械ゆえのKYっぷり最高。


というわけでテーマが少々小難しい気もしましたが、ホラー映画としては大変楽しめました。
最後の最後でちょっとしたどんでん返しもありです。
そしてこのどんでん返しも、ただ観客を驚かせるための装置ではなく、テーマを深めてよりよく表すためのもので……いやはや本気で見習いたい。


【余談】
・うさぎが可愛い。
・BGMが『サイコ』を思い出すくらい効果的。
・冒頭のモグラ叩きにまで伏線が……?
・当日いきなり観に行くことにしたので、ツイッターで「あす映画『アス』を観に行きます!」とつぶやけなかったのが残念無念。