人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

かげろう日記(著・吉村達也)

JUGEMテーマ:ホラー小説・怪談など

時の流れには「過去・現在・未来」の三種類があると信じられているが、じつは人生には「現在のみ」しかない、という真実を。

それを食い止めるために、人は日記を書こうとする。過去を変色させまいと。


ノート


角川ホラー文庫で、圧倒的な分量と存在感を放ち続ける吉村達也先生の中篇です。
読んだキッカケは、『うぉおあああああ小説読みたいぃいいい』となってうろうろ物色し、たまたま目に入ったからです。
しかしびっくりするほど読みやすかった。それでいてめっちゃくちゃ怖かった。
閉め切った部屋で読んだんですが、とある場面では、

わたしのうしろにも、だれかいて、ふとしたときに、みみもとで、はなしかけてきて……

という妄想にかられました。怖かったです。

あらすじ。
会社員・町田輝樹の元に送られてきた、『かげろう日記』。
それは輝樹が捨てた恋人、内藤茜の日記だった。
強盗に殺されて、とうに死んだ彼女は輝樹への未練を綿々と書き綴っていた。

日記形式は本当に怖い!!
綾辻行人先生著の、『四〇九号室の患者』も思いましたが、日記形式の文章は何といいますか、生々しさが段違いです。
他人の日記を盗み見ている下世話だけど愉しい心地、いとも容易く感覚移入(※感情ではない)してしまいます。
このかげろう日記も、最初はきちんとした手記のような文章だったんですが、段々と手の動くままに綴っている雑な文面になっていくので、うわぁ……とドン引きしながら見入り、じゃなくて読み入りました。
特に70頁~71頁の見開き、76頁は本気で冷や汗が流れました。


メインの謎は、『誰がかげろう日記を輝樹に送ったか?』です。
正直に言うと、真相が明かされていく過程で、『またこのパターンかよーホラーじゃなくてサスペンスのパターンかよー( ´ᆺ`)』とか思っちゃったんですが。
しかしさすが吉村達也先生、ひとひねり入れてました。早合点してすみません。

この物語の最大の被害者は犯人だと思いかけましたが、やっぱり、姉に頼まれたとはいえ強盗をする人間なので、自業自得だと思い直しました。
というかこの主人公も自業自得でした。悲惨すぎではありますが。
そして内藤茜さん、ラストは単なる悪霊じゃないですかヤダー。

『陽炎』でしかない過去に囚われたまま、現在を亡くし、未来を完全に失った人たちの物語でした。
探偵ポジション(?)の宮本卓郎氏の、『恋はホラー』という言葉がピリリと効きます。
だけどそんな感想を持っても、この、復讐を果たした内藤茜という女性は、


でも、それでいいのだ。


と返すのでしょう。
失った恋と、『日記を書く』ことに執着した彼女だから。