人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

“文学少女”と月花を孕く水妖(著:野村美月)

JUGEMテーマ:ライトノベル


僕、そのものが一条の物語になったわけだ。


「(前略)
 ねぇ、さっきも言ったわね。
 夢は覚めても、物語は残るの。
 本を読んだあと、心の中に物語が消えずに残っていて、好きな場面を何度も取り出して、読み返すことができるように。
 そうやって、自分を励まして、次の物語へ進むことができるわ(後略)」



だから、彼女は本当はいつも、寂しかった。


 


文学少女、番外編です。
時系列は『”文学少女”と飢え渇く幽霊』から一ヵ月後の夏休みになります。……が、読む順番はそのまんまで。

夏休み。心葉くんのもとに、遠子先輩からわるいひとにさらわれたのですぐに来て欲しいという謎の電報が届く。その直後、遠子先輩の同級生でありチョッカイ要員の学園の権力者・姫倉麻貴先輩からの使いがやってきて、避暑地に連れ去られる心葉くん。
姫倉家の別荘で謎に満ちた、忘れ難い夏の思い出を『文学少女』と『作家』は過ごす――。

『飢え渇く~』で少しだけスポットライトが当たった麻貴先輩を、更に掘り下げる番外編。
彼女の苛立ちはとても激しく、またその行動力に圧倒されっぱなしでした。

ティーフは泉鏡花の『夜叉ヶ池』です。
ちなみに水妖=ウンデイーネは、ドイツの作家・フーケーの物語のキャラクターです。
どちらも激しい愛と、悲しい哀が織り成す美しい物語です。


八十年前の大正時代、この姫倉家で起こった凄惨な大量殺人。
隔離されていた当時の令嬢・ゆりと彼女が愛した学生・秋良。そして姫倉が代々守ってきた、池の妖かし・白雪。
八十年前に、何が起こったのか。

真相はあまりに凄絶で、惨たらしいものでした……。

けれど『文学少女』は、いつものようにゆりと秋良の悲劇を別の角度から見て、想像し、新しい形の優しくて愛しい物語に語り直します。
そしてそれは想像ではなく、『真実』でした。
その『真実』がわかったときのカタルシスったら無いです。伏線が細かい! じいさんの女の趣味まで伏線とは!
思わず麻貴先輩と同様に、笑い出してしまいました。


そして舞台は夏休み……そして旅行先。
遠子先輩と心葉くんの距離がいつもよりグッと近くて、ちょっとどきどきしました。
口絵の大正ロマン風味の二人が可愛いです。裏の、絵画道具を手にし、もしかしたら彼の人を想い出しているかもしれない麻貴先輩も綺麗。
個人的に、お化けが怖いと泣きながらも口では先輩ぶる遠子先輩が、心葉くんの部屋に泊まる(わお!)ところが好きです。一緒に寝てるのに何この清潔感。(笑)
夏休みなので羽目も外します。なので、遠子先輩は酔っ払います。ぽんぽこ。

ゆりの日記を、心葉くんの枕元や隣で読む『文学少女』。
ゆりの心の変化が、途中で痛ましくなったのはちょっと辛かったです。だからか、その後の彼女の喜びに共感? 共鳴? してしまいました。

月と花の形をした秘密を抱えたまま、夏休みは終わります。
そして今回の太字の部分。途中まで完全に騙されてました……おかげで最後の文章の感激もひとしおでしたけども。


ついでに蛇足ですが。

心葉くんモテすぎっ!
(別荘で働く中学生のメイドのお嬢さんともフラグ立ってた)