人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

“文学少女”と死にたがりの道化(著・野村美月)

JUGEMテーマ:ライトノベル


「わたしは、この世のありとあらゆる物語や文学を食べてしまうほど深く激しく愛しているごくごく普通の可憐な高校生で、ただの文学少女です」

「――(前略)『人間失格』以外に、太宰治の作品を読んだことがある!?」
 






来年には劇場版アニメの公開が決まっている、ファミ通文庫/『文学少女』シリーズの一巻です。
ずーっと気になってたのです。主に挿絵で(笑) こーいう、可愛らしくて水彩っぽい色遣い大好きです

物語を、物理的に、つまり本をページを破ってむしゃむしゃ食べちゃう天野遠子先輩。その遠子先輩のおやつ――活字も好きだけど肉筆で書かれた物語も好きらしい――を毎日用意する、覆面ベストセラー小説家から引きこもりに転身し、ごくごく普通の平凡な男子高校生の井上心葉君。
この心葉君の視点で物語が進みます。

このシリーズは毎回モチーフとなる名作がありまして、第一話は『太宰治人間失格』でした。
私は太宰といえばメロス派ですが、うちには何故か『人間失格』のハードカバーがあります。(笑)

二人は文芸部に所属していて、ある日、『文芸部がアナタの恋を応援します。ラブレター代筆します』というチラシを見て、竹田千愛という女生徒がやってきます。
彼女は弓道部の片岡愁二という先輩に恋をしていて、お近づきになりたいのだそう。竹田さんの恋の軌跡を描いたレポート目当てに、勝手に先輩は心葉君が書くと引き受けます。
けれど調べていくうちに、その片岡先輩は現在の学校にはいない存在だとわかり――ここからミステリーが始まります。

ほろ苦い謎と答えでした……。

要所要所に、『人間失格』を引用したりもじった文章が表れます。それは作中の主人公と同じく、周りの人間の気持ちが分からない・共感できない人物が一生懸命そのことが周囲にバレないように道化を演じ、そんな自分に嫌気がさすと苦悩する内容です。

ラスト近く、過去の事件の犯人(?)の言葉が重苦しいです。そして、これもまた人と人の繋がりの形かと思いました。でもそう遠くないうちに瓦解しそうだとも思いました。一生て永いんですモノ。

ラスト、『人間失格』だと思い込むある人物に投げかけた、先輩の言葉が印象的です。
なんて無茶苦茶な論理か。こんな説得で思いとどまる人間は――いると思います。うん。きっと。

かの北方謙三先生も、『試みの地平線』の中で似たようなことをおっしゃっていました。
本は死のうとする人間を引き止める力は無いが、引き伸ばすくらいの力はある。
まあこの話はまた今度。


文学が読みたくなります。そんなシリーズの予感です。