人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

毒笑小説(著・東野圭吾)

 「――(前略)親は気づいとらんのだよ。あの子供たちは我々がさらうよりも先に、すでに誘拐されとる。学歴社会という化け物にな」
『誘拐天国』より

そして私の殺意は――。
現在クロゼットの中で、ノートパソコンと共に埃をかぶっている。

『殺意取扱説明書』より。





東野圭吾先生の笑いの本、ラストです(2009年現在では)。
ラインナップは、
『誘拐天国/ エンジェル/ 手作りマダム/ マニュアル警察/ ホームアローンじいさん/ 花婿人形/ 女流作家/ 殺意取扱説明書/ つぐない/ 栄光の証言/ 本格推理関連グッズ鑑定ショー/ 誘拐電話網』となっています。

『誘拐天国』
いちばん好きっ! 大富豪のジーサン連中による、お孫さん誘拐計画。
身代金云々のくだりで、庶民としては軽くsa*tsu*iを覚えました(笑)
ジーサン連中の会話=「身代金の相場は一億だってさ」→「一億となると返さなくていいとは言えないなあ」→「あんたらそれ単位何だい?」→「えっ? ドルだろ」
誘拐された子の母親=「あのう、それはフランですか元ですか」→「あの、一億円くらいならすぐにでも揃いますけど。あなたーちょっと一億円取ってきてちょうだい」→「一億円くらいなら、息子を誘拐する前にここに来て、くれと言えばあげたのにっ!」
くれ!! \(=△=)
……と、その場にいた警察官であり庶民の皆さんは思ったと思います。
この話のポイントは、身代金の回収方法と、オチにつながる子供たち(その子の友達もついでとばかりに誘拐しちゃったのです)の一連の行動。可哀想に、物心ついてからずっと教育漬けの日々を送ってきたのですっかり子供らしさというのが無くなっています。
しかし最高に笑ったのは、誘拐された子の母親の、
「本日は、うちの健太の誘拐事件のために、かくも大勢の方々にお集まりいただき、本当にありがとうございます」
という台詞そして行動。まさにパーティーである(笑)

『エンジェル』
想像上の天使に似た新生物をめぐる、おかしくてお馬鹿な人間たちの喜劇。一人相撲であり、掌の上で踊っていらっしゃいました。
どちらかといえば天使を食べそうなのはむしろ中国じゃない? と思いました。
面白かったのは、天使を食べることに反対な団体からのツッコミとそれに対する返答。
「あんたらだって釈迦に似た生物は食べないだろーが!」→「いや旨かったら食べますよ」

『手作りマダム』
マダムのしゃべり方がマダム。
「~でござあますよ」。こんな風にしゃべる人ってほんとに存在するのかなー会ってみたいなー。
白菜キムチろくじゅっきろて。身近にキムチがあるので容易に想像できました。
あとマダムが最後に作ったもの、今までとジャンルが違いすぎてワロタ。

『マニュアル警察』
ついうっかり奥さんを殺した男が自首しようとしたら警察はとことんマニュアル化していた、という噺。
余計めんどくさそーですね。
ご一緒に、免罪符はいかがですか?

ホームアローンじいさん』
えろビデオ(AVなどというオブラートには包まない)見たい見たい見たーいジーサンが知らぬ間に泥棒を退治する噺。
通販の写真つき広告を大事に保存していて、たまにコッソリ老眼鏡で見る姿に、人間は年をとると思春期の頃に回帰するのだと思いました。なんて中学生(笑)
彼は七十歳を過ぎていたが、、若い娘の裸が好きだった。とても好きだった。異常に好きだった。
大事なことなので三回言いました。

『花婿人形』
母親に何もかもを決められてきたマザコン男性の、結婚式当日のまじパねぇ悲劇。
タイトルはなんだか儚そうですが、内容は某少年飛翔に載っている『銀魂』のようです。
ラストの、花婿の一連の変化は『ああ……やっちゃったんだ……』と思うほど細かいです。涙を禁じえません。

『女流作家』
人気女流作家が妊娠・出産した途端、姿を見せなくなったのは何故か?
いやはや、出版社は原稿さえもらえればいいんだろ、という先生の皮肉がうっすら見えます(笑) 黒笑小説を思い出すなあ。

『殺意取扱説明書』
恋人を親友に取られた女性が、その親友に対する憎しみを、『取扱説明書』に沿って殺意に昇華する話。
消化はしませんでしたが。
殺人がエネルギーがいるのね、という真理。事を終えるまでは絶対ぶれちゃいけないんですモノ。意志薄弱な人には無理だよなーよっぽどのことが無いと。

『つぐない』
五十歳の無趣味な男性が、ピアノを習い始めた理由とは……。
すっごく不思議な話でした。詳しくはネタバレなので書きませんが……あるものを選ぶということは、それ以外の可能性を捨てることなのだなと思いました。
あとは、何事もいつから始めても遅いなんてことは無いのかもしれない、という希望を持っちゃいました。
ラストの、発表会での観客たちの反応の移り変わりがよかったなあ。

『栄光の証言』
うだつの上がらない冴えない男が殺人事件を目撃し、その証言で事件が大きく変わる。
事件そのものより、証言者にスポットを当てた話。
自分を客観的に見れない人ほどイタイものはありませんな。

『本格推理関連グッズ鑑定ショー』
殺人事件に関わったお宝(凶器とか)を鑑定する番組に、父親の形見を持っていったら……。
エート、これは実在にあった(この話の中で)事件でイインデスカー? 最初に出てきた事件のトリックが結構ありえないんですが。
ちょっとした謎解きの面もあり。うまいこと誘導したものです。

『誘拐電話網』
突然かかってきた謎の電話。誘拐した子供の命が惜しければ、金を払えと言う。しかしその子供は、語り手とはまったくの縁もゆかりも無い赤の他人だった。何でやねんとツッコむと、「あ、そーお? じゃあお前のせいで子供死ぬケドいーい?」と脅迫してきた。語り手はその責任を転嫁するため、別の人間に同じ内容の電話をかける。
これは面白いです。短編ならでは。
これ辿っていけばどこまで行くんだろう。海外かな。
逆に辿れば、ちゃんと本当の誘拐犯人のところまで戻るんだろうか……。


総合的に、黒・怪・毒の中でいちばん面白かったです。
お気に入りBEST3は、三位・『誘拐電話網』、二位・『花婿人形』、一位・『誘拐天国』でした