人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

映画/性の劇薬

ソシャディを守って、映画館で観てきました。

初めましての十三のシアターセブンさん。
いわゆるミニシアター系でした。普段でっかい映画館ばかり行くので、やや緊張……してたのですが、すごく居心地よかったです。トイレもキレイでした(超重要)

2019年制作、日本の18禁BL映画です。

  

seino-gekiyaku.com

 

18禁です。大事なので数回言います。
姉に誘われたのですが、私はこれまで18禁映画というものはホラーしか観たことなく、PVだけ観て一瞬気後れしました。

ですが、なんか新たな何かが開けそうだなという、言っちゃえば刺激を求めて行っちゃいました。

  


映画「性の劇薬」 2020年2月14日より順次公開(予告編)

 

 

【あらすじ】
四苦八苦を苦に飛び降り自殺を図った桂木。
彼を引き留めたのは、救急外科医の余田だった。
余田は桂木を昏い地下に監禁し、器具を使ってあらゆる快楽を与え続け、彼の『性』を管理する。

 

【ひとこと感想】
一歩間違えれば死ぬ劇薬を投与することでしか、彼は彼を救えなかった。

 

【見どころ】
①前半は、容赦ない快楽調教。
②後半は、ラーメンと青い空と海。
③あの『調教』は『手術』に見えた。

 

【①前半は、容赦ない快楽調教】
主人公・桂木が目覚めたら、そこは薄暗い地下室。
猥雑で、地下水がしたたり、便器だけがやけに白い、こちらにまで湿気が漂ってきそうな部屋のベッドに鎖で繋がれていた。

と書くと、完全にソリシチュ系ホラーです。ある意味同種でした。

そして現れる謎の男・攻めの余田さん。

ローションでぬるぬると光る手を使い、桂木さんの秘められた性感帯を開発していくのですが……

この一連の調教シーンが凄まじかったです。
役者さんたちの演技力がヤバくてむしろ怖い。
セックスと言うよりガチの殺し合いに近い。 

痛い。

とにかく痛い。

無いものが痛い!!

与えられているのは苦痛ではなく快楽なのに、とにかく痛そうでした。ホラーの拷問場面なんて比べ物にならない。
けれど最後まで観ると、私が感じ取った『痛み』は『作り替えられる』痛みだと分かりました。たとえるなら孵化や脱皮、えげつない成長痛。

あ、あと、ゲイシネマではなくBL映画なので、『モノ』は巧い感じに隠されてました。(これも超重要)


代わりに水音。これがひたすらエロい。
ぞわぞわと寒気が走るような、恐怖と紙一重の官能、みたいな。

( ・ω・)<私は何を観ているんだ……?

この時点で、はしゃいで観に来た自分を殴りたくなりました。

 

【②後半は、ラーメンと青い空と海】
後半になると、そんな薄暗く痛々しい画面から、一転します。

度重なる調教で、すっかり作り替えられた桂木さんの肉体。
殺すことを妄想する相手が近づくだけで勃起する、屈辱極まりない身体へ。

そして、ある意味余田さんを受け入れた夜が明けて、桂木さんは解放されます。
地下室から階段をのぼって辿り着いたのは、余田さんが勤める病院。
屋上に出て、青空の下、真っ当に話すふたり。

洗濯されたシーツが風にたなびく情景が、ひたすら爽やかでした。

 

「何食べたい? おごってやるよ」

 

昨夜まで、殺し殺されるような関係だった男からの、甘やかしタイムが始まります。
ここのラーメン(チャーハンと餃子つき)の描写がよかった。
久しぶりのマトモな食事にがっつく桂木さんを見つめる余田さんの瞳。親のような兄のような甘やかさ。

ここで「あ、これBLだ!」って安堵しました。(笑)

海沿いの墓地に来て、余田さんの過去が明かされるのですが、これ個人的にどんでん返しでした。
(私はそれまで余田さんを『医者として』桂木さんを快楽調教したのだと思ってたので)

海の中で救いを求める余田さんを、今度は桂木さんが引き留め、
(冒頭との対比がとても良い……これぞ映画、物語……)

そこに一般的な『恋情』『愛情』はあるのかは謎ですが、
お互いを受け容れようとしがみつき合うようにして、結ばれます。

この映画の最大のポイントは、桂木さんが最後まで笑顔を見せなかったことだな、と。
(無かった……はず!)

これぞ『男同士』の触れ合いだな、と。
これ『男女』なら、微笑を交わし合う場面がどこかにあると思うので。

 

 

【③あの『調教』は『手術』に見えた。】
余田さんが医者と知って、一連の『調教』が『手術』に見えました。
自ら死を選ぼうとする桂木さんを、救うための措置だな、と。

しかし、その動機を勘違いしてました。

てっきり医者として、救えなかった命が目の前で消えていくことに悲嘆して……かと思いきや。

余田さんも過去に大切な命を喪った人だった。
それ以外の命は救えたのに、いちばん大切な命は救えなかった。
最期、「めちゃくちゃに抱いてくれ」と乞われたのに叶えられなかった。

 

ここから見えていたものが一転しました。
快楽に悶える桂木さんを見つめる余田さんの瞳。
あれは、「あの時もこうしていれば」と悔やんで自責する色だったのか……。

 

あの容赦ない快楽調教は、
祈りと後悔を孕んだ痛々しい『手術』だったのか。

 

と、納得しました。

  

【まとめ】
PVを観た時点ではなんか怖そうでしたが、蓋を開けてみれば、JUNEとBLのいいとこどり的な映画でした。
JUNEのような匂い立つようなエロスと、生きるか死ぬかのボーダー、そして魂の触れ合いと救済があるけれど、BLなのでちゃんとハッピーエンド。
JUNEならこの映画は、自殺あるいは心中オチです。(断言)

自分の小説指南書のひとつに、中島梓栗本薫)先生の『小説道場』があります。
そこに何度も概念の定義として出てきた、「ヤオイとは、こういうものだ」に、この作品は当てはまる気がします。

だからこそ女性、あるいは棘のある薔薇の夢を求める人たち――少し具体的に書くと、永遠の愛や美しい魂の触れ合いを感じたい、この世界にそれらが存在すると信じたい人たち――の心を、強く震わせたのではないか。

と、思いました。まる。

ちなみにこれは私にも当てはまります。
( ・ω・)<アイアムロマンチスト。

 

しっとりと、ひとりきりで、隠れるように対話するように観てほしい1本です。

さて。

奇しくも本日、9月11日は、『窮鼠はチーズの夢を見る』の公開日です。


9月11日(金)公開/映画『窮鼠はチーズの夢を見る』90秒予告


BLというには夢を見られない、でも夢を見ていたいと思わず願ってしまう原作が、どんなロマンスを魅せてくれるかとてもとてもとても楽しみです!