年度末が差し迫り、基本は走っているけれどふと立ち止まった瞬間、鈍い恐怖に足元が竦むこの頃、いかがお過ごしでしょうか。
久しぶりの映画感想記事です。
今回は『キャビン』。
2012年のアメリカ生まれ、
カオスだった2018年度の締めくくりにふさわしい(かもしれない)、あの『スクリーム』と同種の、ホラー映画まとめホラー映画です。
【※注意】毎度のことながらネタバレ全開です。
なるべくネタバレなしの初見をおすすめします。
感想の前に。
【鑑賞時の推奨アイテム】
・コーラ(もちろんLサイズ)
・ポップコーン(当然Lサイズ)
・古今東西のホラー映画の軽い知識。(できれば有名どころをの10本分ほど)
・鏡
(傍にスタンドミラーを立てて置いといてください)
【あらすじ】
都会から遠く離れた田舎の、奥深い森の中。湖の近くにあるキャビンに、5人の若者がバカンスに来た。
男慣れしてなさそうなデイナ。性に積極的そうなジュールズ。勤勉な好青年ふうのホールデン。精力的マッチョっぽいカート。そしてハッパをたしなむマーティ。
ーーそんな5人を、モニターに囲まれた管制室で『監視』し『管理』する、スーツと白衣姿の大人ーー職員たち。
やがて夜を迎え、5人は職員たちに巧妙に誘導され、地下室へ向かう。
そこには、曰くありげなアイテムが大量に置いてあった。
【ざっくりネタバレ】
舞台であるキャビンは、プロジェクションマッピングその他を駆使して造り上げたハリボテ。まさに映画のセットです。
そして職員たちは、デイナたちをやたら高度な技術を使って操り、「閉ざされた空間で次々と若者たちが惨殺される『ホラー映画』」を作ろうとしています。
その血を、大昔に地上を支配していた古き神に捧げるために。
ただしその神は、単なる生贄では許さず、『愚かな若者たちが自ら目覚めさせた怪物に殺される』というドラマティックな死と『罰』を求める、大変めんどくさい存在。神のリクエストに応えるために、職員たちは粉骨砕身してるわけです。
【上手なホラー映画の作り方】
シナリオの教科書かよってくらいにベタな導入部を経て、職員たちは薬物と気温と照明を調整し、あの手この手で若者を操ります。
このメタ的手法がだいぶ面白い。
もっとも努力が見られたのはジュールズとカートの濡れ場。
寒いと言ったら気温を上げて、暗いといったら月明かりを用意し、催淫ガスを散布し、今か今かとモニターを凝視する。
ジュールズ:「こんなところじゃ恥ずかしい」
カート:「誰も見てないさ」
管制室のほぼ全職員:「<●><●>」
見てるんだなコレが。
(ジュールズが脱いでポロリした瞬間に歓声がわくの本気で笑った)
どうやら『神』は、エロいおねーちゃんがエロいことするのが好きで、さらにエロいおねーちゃんが惨殺されるのが大好きなようです。
【この映画の恐怖ポイント】
ホラー映画のキャラクターというものは、基本的に観客に「こいつら別に死んでもいーや」と思わせるのが前提でして。
最適な参考文献は『13日の金曜日』。感情移入をなるべく減らし、キャラが殺されるショックを和らげ、死を娯楽として見てもらうーーそんな気配りを要します。
(この点がホラー映画とホラー小説の違いだよなー)
なので殺される若者たちはだいたい愚かなのです。最後まで生き残るファイナルガール以外は。
この物語でも、職員たちは5人の若者を「愚か者だから選ばれた」と言いました。
でも本当は違う。
5人は「愚か者にさせられた」のです。
本来のジュールズは淫乱ではない普通のお嬢さんで、口が悪い傲慢なマッチョっぽいカートは勇気のある青年です。友達(マーティ)をバカにする言葉なんて吐かない。
彼らの愚行は職員たちが環境を操作し、興奮剤やらを投与してその人格を歪めさせたせいだった。
職員たちが勝手に5人を、
・クライマックスで怪物と戦うファイナルガールとなる『処女』。
・濡れ場を提供した後は用済みになって死ぬ『淫乱』。
・状況を整理して真相への道筋を作るけど結局死ぬ『学者』。
・怪物と戦うけど力及ばず死ぬ『戦士』。
・怯えて周囲に迷惑をかけて、たいした見せ場もなく死ぬ『愚者』。
に作り上げたのです。
『知らないうちに操られて』
『自分自身の意思で選んだはずが』
『見知らぬ他人の都合のいいように』
『勝手にレッテルを貼られて、その通りに振る舞わされる』
これこそがこの映画のいちばんの恐怖ポイントだと思います。
【クライマックスが本当にクライマックスだぜ!】
どんどん殺されていく仲間たち。
ところがどっこい番狂わせ。
なんと本来なら2番目か3番目くらいに特に何の意味もなく、場つなぎ的な意図で退場させられる『愚者』のマーティが生きてたのです。
デイナとマーティは管制室に入り込みます。
そこには古今東西の、ホラー映画のモンスターたちが収容されていました。
ゾンビの一家から始まり、幽霊、悪魔、巨大なコブラ、大口のバレリーナ、双子の少女、コウモリ、ユニコーン、ヘルレイザーっぽいやつ、マッドドクター、吸血鬼、狼男、ノコギリ車、能面の一家、巨木、コウモリ、ピエロ、そして半魚人と何でもござれ。
(ビジュアルが完全に『CUBE』のオマージュ。怪物たちの元ネタ一覧はぐぐったら出てきます)
一時停止してガン見しました。よくぞここまで揃えたもんだ。
そこへ2人を捕らえようと武装した職員たちがやってきます。
逃げた2人はあるスイッチを押します。それは、
━━━━━━━━━━━
┛ システム解除スイッチ ┗
(効果:怪物たちをぜんぶ一気に解放する)
( ・ω・)<何でそんなものがあるんだよ。
(って最初は思いましたけど、これ『デウス・エクス・マキナ(機械じかけの神)』の役割だったですね。物語を都合のいいように変える装置。ならしょうがない。しかしカッコイイなデウス(略)。厨二心がくすぐられるぜ)
そっから反撃という名のパーティーの開始。
ここから数秒はほんと観てください。この映画の最大の見所です。
\チーン/
(エレベーターが到着する音)
からの数秒間、何度巻き戻して見たことか。
コブラっょぃ。元ネタ観たい。
【そうして迎えたエンディングは】
黒幕と見られる女性が現れて、人類のためにデイナにマーティを殺せと命じます。
『愚者』が『処女』より長く生きるのは、ホラー映画のセオリーから逸してる。
『神々』はそれを決して許さず、怒り狂って人類を滅ぼすと脅します。
ですが2人は黒幕女性を殺し、滅びの道を選びました。
自分はホラー映画を観ている時、登場人物たちに「あきらめないで」「戦って」と言うタイプなのですが。
これは「あきらめちゃったかー……」って感じでした。
そろそろ人類は他の種に道を譲るべきだと言われたら、……まあ確かに。
崩れゆく儀式の間から現れた巨大な手。
黒幕女性は言いました。『神』が若者の死を求めるのは、その『若さ』を罰を与えたいから。
思いどおりにならなかったことに怒り、『神』の手は無惨にすべてを叩き潰します。
このラストで、『古き神』の正体が発覚します。
この、『若さ』に罰を与えたくて仕方がなくて、エロいねーちゃんがエロいことをしたあと惨殺されるのも、情けないチキンが怯えながら死ぬのも、青年たちが知恵を働かせて勇敢に怪物と戦ったのに結局は殺されるのも、清純な可愛い女の子が散々ひどい目に遭うのも大大大好きで、意に沿わないものを見せられたら「つまらねーんだよ」とブチギレる、どこまでも身勝手な、神のごとく振る舞う存在ーーすなわち。
あなたです。
私です。
ホラー映画の観客たちです。
そう考えると、この最後のセリフが効いてきますね。
「巨大で邪悪な神か」
「姿を見たかった」
視聴後、傍に置いた鏡を見てみてください。
作中で『古き神』と呼ばれた存在の顔が映っています。
いやはや納得。
皮肉が効いた、なんともクールなオチでした。
【余談・小ネタがピリリと効いて超うまい】
職員たちはゲスなので、デイナたちが何の怪物に殺されるか賭けをしていました。
メイン職員のひとりは、半魚人に賭けて大負けして しょぼーん(´・ω・`) としていました。
そんな彼は半魚人にがぶっとやられました。
(このシーンの演出がちょっと感動っぽいのずっこい)
どんな感想やねんとは思いますが、「よかったねー」と拍手しました。(外道)
まさかのカメオ出演にも笑ったし、細かいところに手が届いてて大好きです。
あと、日本のホラー映画に対して好意的だったの嬉しかったです。
東京じゃなくて京都という辺りがニクい。
もっとホラー映画をいろいろ観て、再視聴したい一本でした。
次回は小説教室(と鹿)の話です。