人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

深泥丘奇談(著・綾辻行人)



ーーような気がした。

「知らないの? まさか」「わたしよりずっと長くこの町に住んでいるくせに」

ち、ちちっ……ちちちちちち……ち。




怪談専門誌・『幽』(メディアファクトリー刊)に掲載された短編を集めた一冊です。
装丁・口絵など全体的なデザインが超好みの一冊です。

あらすじ。
本格推理小説を生業とした作家である『私』が、突然の眩暈に襲われ、たまたま見付けた『深泥丘病院』を訪れる。
慢性化する体調不良を危惧して、眼帯を付けた三つ子の医師や咲谷という名の看護士のいるこの病院に度々訪れるようになったが、そこから奇妙なことが起こり始める……。

でももしかしたら、『奇妙なこと』は病院を訪れる以前から既に始まっていたのかもしれません。
それに気づかなかったーーもしくは起こっても、記憶できなかっただけかもしれません。
ありとあらゆる奇妙なことが起こりますが、『私』はそれに怯えることも無く、ただ漠然とした不安だけが残り、ついには記憶も朧げになっていきます。
といった、ホラーというより幻想小説に近い感じです。

ラインナップは、顔/丘の向こう/長びく雨/悪霊憑き/サムザムシ/開けるな/六山の夜/深泥丘病院/声……です。

それぞれが短いので詳しい感想は書けませんが、私のお気に入りは『開けるな』です。
開かずの扉を主題としたこの物語。
開けるなと固く禁じられ、『何か』が中にいるかもしれない部屋。その扉の、たまたま手にしてしまった鍵。
終わり近くでは、来るぞ来るぞ……と緊張が走りました。
ですがそこは綾辻先生。見事に逆転流転されてしまいました。
そうか。鍵は開けるだけでなく閉めることも出来るのですね。

中では異彩を放っていた『悪霊憑き』。
ミステリっぽさが少しだけあり、でも基本は幻想系ホラー。
普通に嫌だなーと思ったのが『サムザムシ』。
でもコレのおかげであの痛みから解放されるならいいかなーと思ったり思わなかったり。

あとがきでも書かれてますが、この主人公の『私』はほぼ等身大の綾辻先生だそうです。
深泥丘の町も、モデルは先生が住んでいらっしゃるところだそう。
ということは『私』とその奥さんの会話は、綾辻先生と小野不由美先生の会話なのかなーと思ったら、ほんわかほっこり……できねぇえええ! この奥さん地味に微妙に奇妙に怖い!

そんな妙を味わえる短編集。
夢か現かおそらく幻。
恐怖が鈍くなって、ちちっ、ちちち、いく感覚ーーちっ、ちち、そんなものを、ちちっ、体験できます。……………ちち、ちちちち。