「(中略)恨まれることもあり得ます。しかし、殺されても仕方のない人間なんて、この世には一人もいません」
加賀が彼女のほうを向いた。「もし世の中を甘く見ているのなら安心だ。どこにも光がないと絶望しているほうが、余程心配です」
「それは違います。あなたはまだ何もわかっておられないと思います」
「ふざけるな。何が傷つけたくないだ。あんたは何が悪いかわかってない。(中略)それはあんたが間違ったことを教えたからだ。(後略)」
加賀シリーズ、最新作です。
劇場版・新参者の原作でもあります。
隠れたテーマも同じ。『父親』、です。
加賀さんのお父さんと、ある家庭のお父さんと。
粗筋。
彼はその場から離れた場所で殺され、最後の力を振り絞って麒麟の像に辿り着いた。
それは何故か。
同じ頃、ある女性の元に恋人から謎の電話がかかってくる。
彼は言った。『おれ、えらいことやっちまった……』。
私的意見ですが、これは『ダイイングメッセージもの』だと思います。
被害者が死ぬ間際、伝えたかったことがメインの謎になっています。
殺人事件は癌細胞のようなものだ、という言葉が作中に出てきましたが、本当にそうだと思います。
そして『嘘』。誰かを守るためではなく、個人や社会(会社?)の保身のみや欲にまみれた『嘘』こそが、この癌細胞を誘発した原因だと思います。
結構序盤から八島冬樹は違うな、と直感的に思ってました。
けれど帯の『誰も信じなくても~』はちょい騙された。アノヒトのものだったのですね(笑)
同情されるべき側から中途で糾弾される側になった青柳家。
会社のあの部下には何のお咎めも無いのか、と思うと悔しいです。
あの先生には学校を辞めただけなのか、と思うともにょります。けれどそれを聞いた悠人が何の感想もわかない、というのはいいことかも知れません。
彼のこれからの人生に、あの教師はいない方がいい。
愛する人を喪い、愛する子を授かった中原香織。
彼女の再生は、この物語の希望の光になりました。
頑なに自分と父親の関係はこれでいいんだと言い張る加賀さん。
金森さんの厳しい優しさが、臆せず関わろうとする気持ちが、そんな加賀さんを少しだけ変えます。
加賀さんが珍しくやりこめられます。加賀さんも完璧じゃないんだ、と思えました。
日本の道路の始まりである翼ある麒麟の像。
それぞれに込められた想いが詰まった、良作です。