人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

聖女の救済(著:東野圭吾)

評価:
東野 圭吾
文藝春秋
¥ 1,700
(2008-10-23)

JUGEMテーマ:ミステリ

私はあなたを心の底から愛しています。それだけに今のあなたの言葉は私の心を殺しました。だからあなたも死んでください――。



そう、と**は頷いた。*への**が終わった瞬間だった。



「ただし、虚数解だ」
「もし虚数解でなければ」「おそらく君たちは負ける。僕も勝てないだろう。これは完全犯罪だ」






ガリレオの苦悩』と同時発売された長編です。
引用台詞のふたつめ、アスタリスクを乱発しているのはねたばれ防止のためです。本当に驚いたので。そしてタイトルが深すぎる……!


夫が自宅でコーヒーを飲んで死んだとき、離婚を言い渡されていた妻は北海道にいた。
その方法とは何か?
――かいつまんで言えば、このようにシンプルな『どうやって殺したか?』の謎です。古くはコロンボ、近年では古畑式とでも言いましょうか。

トリックそのものもですが、作中に仕掛けられた叙述トリックに驚きました。それと同時にぞっとしました。
殺すことを決めたのはその時だったのか、と。

この話の直接の動機は、被害者の夫=真柴義孝の異常な『こだわり』です。それを彼はライフプランと表現します。
曰く、『子供の産めない女に意味は無い』。
生い立ちなどが関係して、そんな歪んだ(彼自身はそうは絶対思わないでしょうが)価値観になってしまったんでしょうが、これはいくら何でもひどすぎる。
女は子供を産む機械――どころか、置物と同じだとすら吐き捨てました。

こんな男のどこがいいんだ、と三人の女性に言ってやりたいです。

今回は、その妻に草薙刑事が恋をします。
けれどもそこは、湯川先生の相棒である草薙刑事。そう簡単には刑事である自分を忘れません。その自覚の炎が、少しばかり揺らめくけれど消えてしまうことはなかった。
内海刑事は本当に優秀。ていうか、女としての着眼点が鋭すぎです。
途中、ipodで『福山雅治』さんのアルバムを聴くシーンがあり、他の方の感想を見る限りでは賛否両論が百花繚乱でした。私は普通に笑いましたが(笑) こーゆーの好き

妻――真柴綾音ですが、これは本当に好感の持てる人物像でした。
夫の浮気相手が自分のパッチワークの教え子だとしても、その教え子が妊娠していても、彼女を庇っていた。――表面上は、かもしれませんが。
事情聴取されるときも、逮捕されるときも冷静で、毅然とした女性でした。
それだけに残念です。この意志の強さがあれば、きっと他にも道が……ってそれを言っちゃあおしまいですかね。

まあ何にせよ、最大の悪は夫(義孝)ですな。
ぶっちゃけ私がこの男の妻の立場なら、足の親指と親指の間をどうにかして生殖機能を失わせます。その方が辛いでしょ? あんなに欲しかったのに子供は望めないなんて、今までお前が踏みにじってきた女性たちの気持ちを思い知れぃ! (=へ=#)ムス。

最後に、浮気相手の教え子に子供を産むよう言った彼女は、何を考えていたのだろうか。
生まれる子に罪は無い、と考えたのか。
それとも、職を失った身で父親のいない子を育てる苦しみを罰としたのか……だって、子供には言えませんよね。父親がどんな人物で、どんな死に方で、どんな経緯で自分が生まれたか。
悩むところです。

ちょっとときめいた台詞。
被害者が無宗教だったゆえ、シンプルなお葬式だったという内容の会話です


「なるほど、それは合理的だ。僕が死んだ時にもそうしてもらおうかな」
「いいんじゃないか。俺が葬儀委員長をしてやる」



なかよし。
何コレこんな台詞でときめくとは!