やっと語れる。
語る語る詐欺をしてしまって大変失礼しました。
言い訳をしますと、ずっと公募用の長篇原稿に情熱を傾けていました。
うまく結果に結びついてくれたらいいなぁと思うこの頃です。
2013年制作、韓国のサスペンスホラーです。
【あらすじ】
『恐怖の教祖』と呼ばれる売れっ子Web漫画家、カン・ジユン。
ある夜、彼女が連載するコミックサイトの編集長が奇妙な死体で発見される。
それは、ジユンが描いた漫画に出てくる惨殺死体の構図とまったく同じだった。
二人の刑事・ギチョルとヨンスから疑いの目で見られる。
【ひとこと感想】
外道だらけの登場人物の中で、せめてあの子だけは救われてほしい。
※全力ネタバレです。
【3つのポイント】
①邦題のせいでB級イロモノかと思いきや。
②映像で怖がらせるナイスな心意気。
③えげつない天秤が揺れる様。
【①邦題のせいでB級イロモノかと思いきや】
原題はハイセンスなのに邦題は「どうしてこうなった」になる海外映画は、多々あります。
自分はいまだに、『釜山行(プサンヘン)』が『新感染 ファイナル・エクスプレス』になったことに複雑さを覚えます。(分かり易いんだけども!)
そしてこの映画の原題は『Killer Toon』。
確かに訳すと『殺人漫画』だわ。分かりやすい。キャッチーさがすごい。
だがしかし、「もうちょっとどうにかならんかったん???」感がぬぐえない。たぶん一生ぬぐえない。
何故ならこの映画、邦題のB級ヅラとは裏腹に、ふっつーにド重いのです。
韓国映画の血脈を感じました。
【②映像で怖がらせるナイスな心意気】
ホラー映画として非常に堅実なつくりです。
劇画調のリアル系な漫画の絵をうまく取り入れた演出だけでなく、
映像ならではの手法できちっと怖がらせます。
肉と野菜とキムチを山盛り出してくるサムギョプサルばりに、恐怖描写てんこ盛りでした。
特に第2の犠牲者、葬儀会社のチョ社長が最高。
(ちなみに彼が元凶でした)
チョ社長には、介護に疲れ果てて妻を殺害したという過去がありました。
「死者に幸あれ」
「俺を助けてくれ」
そう言って、妻を拘束して口に米を詰めて窒息死させました。
(この回想場面も怖い)
怨霊となった妻にチョ氏は惨殺されます。
一連の流れを見た正直な感想がこちらです。
↓
( ・⌓・)<……いいわ〜、これ。
( ・⌓・)<自分の首を折った後に真顔になってゆっくり倒れて、
( ・⌓・)<後ろに奥さんの怨霊がいたって演出エモすぎる〜〜
なんかシンプルに褒め言葉しか出なかった。
あからさまビックリ系ではなく、じわじわ怖いじっとり系のホラーがお好きな方は絶対にツボります。
【③えげつない天秤が揺れる様】
さらに第3の犠牲者、ヨンス刑事の生き様と死に様がえげつなすぎでした。
冒頭の捜査場面で「この刑事どもクズだわ」と思いきや、中途で「あれ? 部下想いと家族想いでいい人なのか?」と思いきや、最終的に「ドクズやないかい!」となる仕様です。最高ですね。(強調)
そうです。この映画の特徴は、登場人物が清々しいほどのクズばっかな点です。
さてこの(妊娠した妻をずっと気遣う一見ハイパー善人の)ヨンス刑事、
少女をひき逃げしていました。
この真実だけでも大概ですが、事実(回想場面)はさらにえげつない。
最初は少女を助けようとしたヨンス刑事。
ですが、ハンズフリーで電話していた恋人のはしゃいだ声で、その手が止まります。
「パパが許してくれたわ!
(ヨンスと)結婚していいって!」
ここで交通事故が発覚したら、警察への就職や結婚はご破産になる。
自分と愛する人の人生と、
名前も知らない死にかけた少女の命。
どちらを選ぶのか。
えげつない天秤だ、と思いました。
彼は前者を選び、少女を殺しました。
罪の発覚を恐れ、ヨンス刑事はジユンを殺そうとします。
「俺の人生を台無しにする気か!」
(命乞いをするジユンに対して)
「助けてだと!?
(おまえを助けたら)俺の人生は、俺の娘はどうなる、ふざけんな!」
( ・⌓・)<……クズーー……!!
しみじみ思いました。
いや知らんがな。なんでおまえ被害者ヅラしてんだ。
そんな輝かんばかりのクズであるヨンス刑事は、大変バカバカしい死に方で退場しました。
こちらはぜひ、ご自身でお確かめください。
(「そうはならんやろ」って思いました)
【まとめ:せめて彼女だけは救われてほしい】
そんなクズだらけの作品ですが、 唯一の良心 と言える人物がいました。
亡霊の声を聞き、それを絵に起こす力を持つ少女・ソヒョンです。
彼女の存在こそが、一連の事件の発端でした。
ソヒョンは、母親を殺した父親に死体と閉じ込められ、亡霊たちに絵を描かされて復讐の道具にされ、周囲から石を投げられきました。
やっとジユンという理解者と出会えた――なのに。
見捨てられた者どうし寄り添ってきたのに、結局はジユンも自分の欲望のためにソヒョンを殺しました。
可哀想すぎる。
この子が一体何をしたというのか。
せめてソヒョンさんだけは光の元に行けますように。
と、エンドロールを見ながら祈りました。
亡霊を利用しての自己表現も復讐も、やりたい奴がやればいいと思います。
最後は主人公のジユンだけ生き残りました。
振り切った外道である彼女は、このまま亡霊と一緒に鮮血の道を歩いて行くんでしょう。
それはそれで結構好きです。
……にしても、「私の作品、分身である証です」と言って血でサインを描くのすら伏線だったとは。
(ごめんよ厨二病とか思っちゃって)
満足のいくホラー映画体験でした!
次回は10月18日月曜日、
2021年制作、アメリカのソリシチュホラー、
『スパイラル:ソウ オールリセット』の話をします。
鳥谷綾斗