人生はB級ホラーだ。

良い作家さんになりたい鳥谷綾斗のホラー映画中心で元気な感想ブログ。(引っ越しました)

映画/透明人間(1933年版)

アマプラで観たホラー映画シリーズです。
1933年制作、アメリカのSFホラーです。

 

 

 

 

 【あらすじ】
雪が積もる村に、一人の余所者が宿を求めてやってきた。
包帯でぐるぐる巻きにし、サングラスをかけ、客室で謎の実験をする彼は、ジャック・グリフィン博士。
博士は、血と肉と骨が消える薬=モノケインを投与し続け、凶暴性を持つ透明人間になったのだ。

 

【ひとこと感想】
初代透明人間は目立ちたがり屋でお茶目だった。

 

※全力ネタバレです。

 

【3つのポイント】
①87年前の特撮技術の結晶。
②はじまりの透明人間には、深い愛情があった。
③凶暴性× お茶目○

 

【①87年前の特撮技術の結晶】
現代版『透明人間』が公開されたのが、2020年。
その始まりはなんと1933年。昭和8年であり、我らが地下鉄御堂筋線が開通した年(大阪人の着眼点)になります。

87年間もホラー映画のモンスターとして生き残ってるのすごくない???

そんな偉大なる『透明人間』の始祖は、当時の特撮技術の粋を凝らして表現されていました。
 


www.youtube.com

 

『勝手に物が動く』や『服だけが動く』はワイヤーなどで引っ張っる・吊るで可能でしょうが、『包帯をしゅるしゅる解いて透明な姿を見せる』シーンは本当に素晴らしい。
wikiによると、黒いベルベットのスーツを役者さんに着てもらって、つや消しの用法を使ったそうです。
なるほど分からん。でも手品のようでワクワクします。

ちなみにこの時代の透明人間になった方法。

インド産の花からとれる薬、モノケインを1ヶ月投与した。
この花は触れると色が消え、漂白剤として利用されていたが、精神を錯乱させる効果があった。
(そのことはドイツの本にしか書いておらず、グリフィン博士は知らなかった)

当時のアメリカにとってはまだまだ未知の国だったんだろうな、と推察します。

【②はじまりの透明人間には、深い愛情があった】
グリフィン博士にはひとつの願いがありました。
それは科学者として認められ、師匠の娘であるフローラと結婚すること。

透明人間になったことで大はしゃぎして大暴れすグリフィン博士ですが、愛するフローラにはとても純粋で優しい。
2020年の透明人間(セコいストーカー行為で愛する人に迷惑しかかけていない)とは違うな、こちらは愛が見え隠れしているな……と思ったのですが、彼女の説得にすら彼は耳を貸しませんでした。
確かに愛はあるのに、です。これが薬の効果かと思うと、なんとも言えぬ悲しさが込み上げます。

 

【③凶暴性× お茶目○】
博士の凶暴さはどんどん増していきます。
駅舎に入り込み、駅員を殴り飛ばして線路の向きを操作し、機関車を脱線させます。

 

「月さえも私を恐れるだろう」

 

世界征服を夢見る透明人間ですが、その一方で、警察の包囲網を掻い潜り、

 

「♪Here We Go Gathering Nuts In May, Nuts In May, Nuts In May,♪ 」

「ヤッホー!」

 

と、ゴキゲンにスキップします。
べらぼうにお茶目ですね透明人間。

よくよく考えればこの場面、博士はズボンしか履いておらず上半身は裸。
ていうかケンプ博士を殺害した時も、雪が降る中すっぽんぽんでオープンカーでじっと待機してたんだなと思うと、

( ・⌓・)<コントかな???

って気持ちになります。
透明人間が何十年も愛される理由は、ここにあるのかもしれません。

 

【まとめ:ラストは美しい】
透明になったとしても人間は人間、と言わんばかりのラストでした。
また、『飲み込んだ食物を消化するまで服は脱げない』『排気ガスや霧の中ではうっすら見える』『吐いた息が白くなる』などの設定、細かくてリアリティがあって好きです。

カフカの藁に寝転んで、「気持ちいい」と眠り込む博士の姿は人間のまま。

そして急襲され、病院で死ぬ寸前、博士はフローラと再会します。
事切れると薬の効果も切れる。

死んだ後、観客はやっと『透明人間』の素顔を見れるのです。

この演出がなんとも心憎い。
印象深い最期でした。

※以下は雑談です。

 

【雑談①】
『透明人間』もののスタンダードなオチといえば、

「事故に遭って、でも透明だから誰にも発見されずにそのまま死亡する」

ですが。
アウターゾーン(90年代のジャンプ漫画)』とか『アナザードア(90年代のるんるん=なかよしの姉妹誌の漫画)』とか、記憶違いかもしれないけど絶叫学級(りぼん漫画)でもあった気がします。

てっきり、この映画もそういうオチだと思ったのですが、
最初にこの画期的なオチを生み出したのは、どこの作品なんでしょうね。

 

【雑談②】
果てしなくどうでもいいんですが、グリフィン博士がスキップしながら唄う歌が「なんか聞いたことあるけどタイトルは知らない」もので、必死で検索しました。
何度も聞いて、「たぶんヒアウィゴーって言ってる……集める……コレクト? いやギャザー? んん?」と英語で歌詞を打ち込んだところ、『Here We Go Gathering Nuts In May』がヒットしました。まんまやんけ。

( ・ω・)<突き止めた自分をちょっと褒めてやりたい。

そんな感じです。

次回は8月9日月曜日、
2015年制作、日本と台湾のホラースリラー、
『屍憶 SHIOKU』の話をします。

 

 

鳥谷綾斗

映画/透明人間(2020年版)

アマプラで観たホラー映画シリーズです。
2020年制作、アメリカ・オーストラリアのサイコサスペンスです。

 

 

透明人間 (字幕版)

透明人間 (字幕版)

  • エリザベス・モス
Amazon

 

【あらすじ】
光学研究の先駆者・エイドリアンを夫に持つセシリア。
ある夜、彼女は束縛がひどすぎる夫から逃げ出す。そして夫は自殺したと知らされる。
莫大な遺産を相続することになったが、セシリアは『見えない視線』に苛まれるようになる。
周囲からの信頼を失い続けるセシリアを、『透明人間』は容赦なく追い詰める。

 

【ひとこと感想】
安心の反撃展開、しかし使用アイテムの割にはやることがショボい透明人間。


※ほんのりネタバレです。

 

【3つのポイント】
①秀逸な見せ方。
②ただしやることがしょぼい。
③お待ちかねの反撃ターン。

 

【①秀逸な見せ方】
ブラムハウスさんちのヒロインなので、 当然(強調) 反撃展開があります。
泣き寝入りのバッドエンドなんて許しません。
ただ、この作品は反撃のターンまで少し時間がかかります。

ですが、それまでの緊張感のある描写が見事。鑑賞者を飽きさせません。

平和な朝のキッチンで。勝手に台から落ちる包丁と、強火になるコンロ。
静かな夜の寝室で。ゆっくりと剥がされるブランケットと、座面がへこむシングルソファ。

いる。
確かにいる。
見えない 誰か が そこにいる。

真っ暗な中で観たのですがゾワゾワしました。
加えて、『透明人間』の存在を訴えても誰も信じてくれないセシリアの状況に、絶望感もジワジワと。
さすがリー・ワネル。『ソウ』の産みの親。信頼できる!

 

【②ただしやることがしょぼい】
Q.どうやって透明人間になるのですか。

A.光学迷彩を駆使したハイテクスーツを着たから。

分かりやすくて最高です。
そしてこのスーツのすごいところは、筋力・戦闘力の強化もできる点です。
普通体型の科学者が警備員をワンパンでノックアウトできるようになります。アイアンマンもびっくりです。

そんな軍事利用でもしたら歴史を変えるだろう世紀の発明、

よりにもよって開発者のエイドリアンは、

妻のストーカー行為に利用しました。


( ・⌓・)<しょっぼ……

この発想が一番ホラーでした。
この透明人間、やることなすこと大体しょぼいのです。

スマホで奥さんの寝姿を撮るなよ。
奥さんが就活の面接で使うポートフォリオをこっそりカバンから抜き取るなよ。
会話中に女の子の顔を殴るなよ。

セシリアの妹(エミリー)を殺してその罪を着せるのは驚きましたが、
一連の事件を起こした目的が、『奥さんが自分から逃げ出した罰』て。

こんなセコセコした犯罪を犯す科学者は、ドヤ顔で囁きます。

 

「サプライズ」

 

( ・⌓・)<せっこ……

史上最大にせこい怪物だなと思いました。
そんなんで殺された妹さんが可哀想すぎる。

 

【③お待ちかねの反撃ターン】
せこい&卑劣っぷりにヘイトをためまくったところで待望の反撃です。
怒り心頭に発したセシリアは、自らを囮にしてクソ夫を呼び寄せます。
そこからはプチどんでん返しもあり、最後の直接対決は盛り上がりました。
ここではネタバレしませんので、是非とも。

復讐を成功させたセシリアは、どこまでも広がる夜空の下で微笑み、ささやきます。

 

「サプライズ」

 

……実はプチどんでん返しのせいで、自分も一瞬、エイドリアンの無実を信じかけました。
最後の最後までエイドリアンは否定し続けました。
ですが、セシリアは頑なに自分の意見を貫き通しました。

さて、果たして真相はどうなのか。
自分は本当に『真実』が見えているのか、と少々不安になりました。

(でも本当は、真相はどうでもいいのかもしれない)

(最後の最後に生き残り、主張した方が『真実』となるもので)

 

【まとめ:タイトルは『THE INVISIBLE HUMAN』の方がよいのでは?】

……というのが鑑賞後の感想です。

誰でも透明人間になれる。
それはつまり、誰でも人に傷つけられる側と人を傷つける側の両方になる可能性がある、ということ。
自分はそういう考え方を支持しておりまして、
いつでも被害者側、いつでも加害者側というのはありえないよな、と思います。

【おまけのプチ不満点】
・この夫婦の馴れ初めが見たい。
(ここまで執着するのは何故?)
・エイドリアンの兄はどうして服従していたのか?
(セシリア視点が真実だと前提を置いて)

これらを想像するのもまた面白し、ですね。

余談ですが、日本での公開日が去年の自分の誕生日で嬉しくなりました🥳

 

次回は7月26日月曜日、
1933年制作、アメリカのSF映画
『透明人間』の話をします。
(なんか観たくなったので!)

 

鳥谷綾斗

映画/ディープ・ブルー

アマプラで観たホラー映画シリーズです。
1999年制作、アメリカのサメ映画です

 

ディープ・ブルー (字幕版)

ディープ・ブルー (字幕版)

  • サフロン・バローズ
Amazon

 

 

【あらすじ】
太平洋上〜海中に建てられた、海洋医学研究施設・アクアティカ。
サメの脳細胞からアルツハイマーの新薬を作ろうとするスーザン博士は、使命感とスポンサー獲得のために事を急ぎ、サメの遺伝子を改良してしまう。
巨体と高度な知能を手に入れた3頭のサメは、次々と研究員たちを襲う。

 

【ひとこと感想】
鑑賞中、特大の「マジか!?」が3回出た力強きサメ映画!

 

※全力ネタバレです。

 

【3つのポイント】
①冒頭の「マジで?」=なかなか殺さないサメ。
②作中の「マジか!」=演説中に死ぬスポンサー。
③ラストの「マジ……か!?」=えっ、この人が死ぬの?

 

【①冒頭の「マジで?」=なかなか殺さないサメ】
始まりは夜の海でした。
おあつらえ向きに、ボートの上でイチャつくカップルたち。

ホラー映画でイチャつくカップル=惨劇フラグ。
もはや様式美通り越して常識です。

そこに忍び寄る怪しい影……
水面からチラ見えするヒレ……

( ・ω・)<来るぞ、来るぞ……

しかし最高潮となった期待(ぶっ壊れ倫理観)は裏切られ、人を襲おうとしたサメは捕獲されます。

( ・⌓・)<マジで!?

そして舞台はアクアティカに移り、ダイバーが潜る中、サメが不穏な雰囲気を漂わせます。

( ・ω・)<さっきは肩透かしだったけど、やっと来るぞ……

しかし同じく裏切られ、ダイバーことカーターは、巨大なサメのヒレに捕まり、サメの口から食べかけのナンバープレートを取りました。

( ・⌓・)<マジで!?

こんな感じで、「天才サメがなかなか人を食わない」。
(ちなみに最初の天才サメの犠牲者はサメ)

意外でしたが、先日観た『マツコの知らない世界』によると、「サメの横で泳ぐ」というは現実でもありえるようで。
サメの狩りの時間は決まっているとか。紳士淑女だな。人間とは違うぜ。

 

【②作中の「マジか!」=演説中に死ぬスポンサー】
サメ無双が始まり、登場人物たちのアクアティカからの脱出劇が繰り広げられます。
そして発生する人間同士の軋轢。起こる言い争い。

そんな中、高い人徳を示すのが、スポンサーであるラッセル。
彼は雪山で遭難したという過去があり、その経験を語ります。

 

自然は過酷だが人間の残酷さには及ばない。

 

「人間が事態を悪化させる」――というのは、こないだ観た『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』でも悲しく思ったことです。
あまりに真に迫った、真摯なラッセルの主張に、全員耳を傾けます。
そうして彼は呼びかけます、「皆で協力しよう」――

その瞬間サメが現れて、ラッセルをBAITにしました🦈

( ・⌓・)<……?

( ・⌓・)<さては感動させる気がないな……?

ホラー映画に出てくるお金持ちにしてはめっちゃ人格者だったのに……
(※偏見に凝り固まった意見)

『パニマ』の今カレといい、この世は理不尽ですな。

 

【③ラストの「マジか!?」=えっ、この人が死ぬの?】
ラストにして最大の驚愕は、主人公のスーザン博士の死亡。

まさかサメに食われたと見せかけて助かりましたという王道展開が、主人公ではなくやたらアクの強いコック(プリーチャーさん)だなんて普通思わんくない?

ですが。
このまま彼女だけ生き残るには、彼女は罪を重ねすぎた。――のかもしれません。

新薬を開発して多くの人を救いたいという大義のためとはいえ、サメに知性という名の狡賢さを持たせ、多くの人間をその餌食にした。

最初の人間の犠牲者・ジムが腕を食い千切られた時にサメを逃すなんてことをしなければ、被害は最小限に食い止められたのに。

一人で研究データを取りに行ったり、もう本当に余計なことしかしないスーザン博士。

ここだけ見ればサメの餌食になるのはさもありなんなのですが、結局は彼女の研究は潰えました。
サメに襲われて電流で殺した際に、記録媒体が壊れてしまって。

それだけじゃ神様は赦してくれなかったのか。

サメから生還したプリーチャーが目覚めて、自分を手当てするスーザン博士に対して言った、

 

「悪魔だ」

 

というセリフが効いてきます。

死ぬことによって彼女は「悪魔」から「人間」、或いは「勇者」に浄化された――のかもしれません。

 

【まとめ:最強サメと最強コック】
シンプルにサメがすごかった。
年をとっても癌にもならず、脳も衰えないサメは、
銃が自分を殺す武器だと判別できる、後ろ向きに泳ぐ、カメラを壊すことができる、怪物に変貌しました。

しかも、生きたままの人間を人間がいる場所の強化ガラスに叩きつけて割る、というまるで人間のような性格の悪さまで発揮しました。

すべてはたったひとつの目的のために。

深く青い海で自由を得るために、
サメは自身すら囮にしたのです。

(ここでタイトルの『ディープ・ブルー』の意味を説明するのはプロの技✨)


最強サメに負けじと出てきた最強コック・プリーチャー。
まったく負けてません。
すぐ退場しそうな外見なのに生き残りました。
ただ、オウムのバードが死んだのは残念。鳥殺しは人殺しより軽かったか……。

サメに追い立てられ、キッチンのオーブンに閉じ込められ、まさかのサメ映画で焼死かと思いきや、知恵と筋肉と思い切りで乗り切りました。

(水中にあるオーブンが何で稼働するん? とか)

(水浸しのライターって着火するん? とか細かいことはどうでもいい)

そしてラスト、サメに海中に引き摺り込まれて食われそうになったのに、十字架で目を潰して脱出するのはつよつよが過ぎる。

十字架は持っておくべきものだなと思いました。(思考停止)

そうしてサメは爆破され、
ディープブルーに紅いラフレシアのような花が咲き、
交代の人員を乗せた船が水平線の向こうから来ました。

このアクアティカで、スーザン博士の研究が順調に進めば、脳の退化を一掃できた薬ができたのかもしれない。

でも、神様は『それ』を禁じたのかもしれません。

――と、このプリーチャーがよく神様を唱えていたので、自然とそんな感想が生まれました。

ってな感じの、
二大巨塔の評判に違わない、超A級サメ映画でした!

 

次回は7月19日月曜日、
2019年制作、アメリカの(敬愛せし)ブラムハウスのサスペンスホラー、
『透明人間』の話をします。

 

鳥谷綾斗

映画/ナイト・オブ・ザ・リビングデッド

アマプラで観たホラー映画シリーズです。
1968年制作、アメリカのゾンビ映画の始祖的ポジションの白黒映画です。

  

 

 

【あらすじ】
田舎にお墓参りに来た兄妹・ジョニーとバーバラ。
彼女たちの前に、『生ける屍=ゾンビ』が現れ、ジョニーが食われる。
バーバラが逃げた先には一軒家。
そこには黒人青年のベンと、地下室に篭っていた若いカップル、そして親子三人がいた。
夜が深まり、ゾンビたちは次々と集まってくる……。

 

【ひとこと感想】
得体の知れなさは現代ゾンビを遥かに凌駕していた。

 

※全力ネタバレです。

 

【3つのポイント】
①最初のゾンビの形は『動きがなんかおかしい人間』。
②ヒロインが本当に何もしない。
③人間が2人以上いれば争いが起こる。

 

【①最初のゾンビの形は『動きがなんかおかしい人間』】
wiki調べで恐縮ですが、初めてゾンビが出たのは、
1932年アメリカ制作、ヴィクター・ハルペリン監督の『恐怖城』という映画だそうで。
ですが、今現在の『噛まれたらゾンビになる』などの要素はこの映画で確立した模様です。

田舎の墓地で現れたゾンビ、第一印象は、『動きがギクシャクとして奇妙な人間』でした。

いわゆるゾンビメイクもなく、腐っている様子もない。
夢遊状態の生者、そんな感じでした。
石を使って窓を割る知能、服に引火した火を消そうとする理性もあり。
すっぽんぽんの女性や、虫を食う老婆もいました。

そんな一見生者と変わらず、ただ動きだけおかしい『人間』がゾロゾロ集まってくる様は非常に不気味。
車で轢こうとしても避けようともせず、ただじっと見るだけ。

見た目が自分たち(生者)と変わらないのに、徹底的に違う。

何ひとつ通じなさそうな得体の知れなさは、現代のゾンビ――腐っている体、血まみれの顔、高速で走るバリ高の身体能力(※新感染ネタ)、銃器の扱いもお手のもの(※サイコブレイクネタ)、理性も知能もある(※という漫画であるそうです)――そんな高品質ゾンビたちを遥かに凌駕します。

そして内臓を引き摺り出して食べる場面。
めっちゃ美味しそうに食べてました。フランクフルトを食べる子どもみたいにニッコニコ😊
(可愛げもこちらの方に軍配が上がる)

 

【②ヒロインが本当に何もしない】
ヒロインの、冒頭で兄を殺されたバーバラさん。

びっくりするほど何もしませんでした。

ひたすら『兄を失ったショックで放心』していた。
ベンに窓を塞ぐから板を探せと言われているのに、なぜかオルゴールを鳴らす。
釘を打ちつける時に少しは手伝いましたが。他の人も「ああ……」と呻く間にまんまとゾンビに髪をつかまれたり。

( ・⌓・)<何なん???

ぶっちゃけイラッとしましたよね。
血を吸うシリーズでも思ったけど、昔の女(主語をでかくするのやめろ)、何なん???

こんな感じでバーバラさんへの反発があって、これ以降のゾンビ映画はヒロインが大活躍なのでしょうか。

( ・ω・)<たぶんそう。

 

【③人間が2人以上いれば争いが起こる】
外にいるゾンビたちを『殺し屋のバーゲンセール』というパワーワードで喩えつつも、生存者たちは決裂していきます。

車で逃げるべきVS地下に閉じこもるべき。

登場人物はたった7人。
たったそれだけなのに、一致団結できない。
ゾンビという共通の敵がいても、手を取り合わない。

シンプルに悲しいです。

 

【まとめ:バッドエンドでした】
最後は全滅しました。当然です。

地下に閉じこもるべきだと暴れたクーパー氏は、ゾンビに噛まれた娘に食われました。

(でも、『ゾンビに噛まれたらゾンビになる』という前提を知っている我々からしたら当然的帰結ですけども、当時の人たちからしたら驚愕&絶望ものだったんでしょうなぁ)

唯一朝を迎えられたのは、主人公のベン。
彼は駆けつけた保安官にゾンビと誤認され、否、確認すらされずに遠距離で射殺されました。
これだけでも胃に来るオチなのに、さらにここから残忍な光景が広がります。

殺されたゾンビたち――生きるために必死に戦ったベンも、遺体に手鉤を刺され、まるで食肉のようにズルズルと地面を引きずられます。
その先には焚き火。ベンもゾンビも一緒くたに火にくべられました。

火葬ではなかった。
弔いのためのものではなく、どう見ても『物』の処理。
まるっきり家畜です。

ゾンビの元は『死体を蘇らせて造る奴隷』なので、その比喩もあるのかもしれない。
ただ、ここで、『新感染』のラストを思い出しました。
実に対照的です。長い時間を経て、ゾンビ映画に救いをもたらせるようになった――ような気がします。

では最後に予告編を。

 


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「ナイト、オブザ、……リビングデッド!」

言い方の圧が強すぎる。しばらく耳から離れなかった。

ちなみに始祖ゾンビたちの原因は、
『金星に向けて放たれた探査衛星が爆破された』
『そこから高水準の放射性物質が放出した影響』
でした!

 

次回は7月5日月曜日、
1999年制作、サメ映画の二大巨塔の片割れ、
ディープ・ブルー』の話をします。

 

( ・ω・)<えっ、もう7月???

 

鳥谷綾斗

映画/パニック・マーケット

アマプラで観たホラー映画シリーズです。
2012年製作、オーストラリア・シンガポールのサメ映画です。

 

 
【あらすじ】
親友をホオジロザメに喰われた、元ライフセーバーのジョシュ。
悲しみを引きずりながらスーパーマーケットでアルバイトをしていた。
ある日、彼が勤務するスーパーに元恋人のティナが現れる。
強盗騒ぎが乱入した時、津波によって店は浸水する。
そこへホオジロザメがやってきて……。

 

【ひとこと感想】
サメ無双のB級映画? いえいえ、堅実なサメ映画です。

 

【※注意書き】
作中に『地震による津波』の場面があります。
苦手な方は無理しないでください。
(ちょっとウッとなった勢)

基本的に心身の調子が良くない時に鑑賞することはオススメしません。

 

※全力ネタバレです。

 

【3つのポイント】
①意外にしっかりと映画。
②ヒロインの今カレが珍しいタイプ。
③犬殺しは人殺しより罪深い。

 

【①意外にしっかりと映画】
モロに色物サメ映画な邦題ですが、脚本は非常に堅実。いい意味で裏切られました。
(原題は『BAIT』というスタイリッシュなタイトル)

次から次にやってくるピンチとその対応策(ミッション)。
一例を挙げますと、

千切れた高圧電流線がぶら下がり、このままでは水に浸かって全員感電する(ピンチ)

ブレーカーを切る(ミッション)

さらに場面の切り替えもあり。
脱出映画はどうしても舞台が固定されるのでたまにダレてしまうのですが、この作品は主人公たちのパート(浸水した店内)とバカップルたちのパート(地下駐車場)で進みます。

つまり途中でダレることなく楽しめます。あらやだ親切。

キャラクターも手堅く揃ってます。
後悔を抱えた主人公、その元カノ、元カノの今カレ、万引き少女、その万引き少女の父親兼警察官(もちろん娘とは不仲)、万引き少女の彼氏兼店員、店長、訳ありマッチョの強盗犯、バカップル。
そんな堅実なラインナップの中で燦然と輝くのが、

🐶犬🐶

そうなのです。この作品の最大の特徴は、『サメ映画だけど犬がいる』なのです。
犬種はポメラニアンです。可愛い。

もういっちょの特徴は、画面の綺麗さ。
すっかり海と化した店内で、ジュースや冷凍食品が入ったショーケースを背景に、優雅に泳ぐ魚とクラゲと、しっかりめに作り込んだグロい死体が流れます。
コントラストが光っています。さすが3D映画。

 

【②ヒロインの今カレが珍しいタイプ】
登場人物はそれぞれにきちんと役割がありました。
嫌味そうな、いかにも即サメの餌食になりそうな店長ですら体を張ってました。
ただしその分、ヒロインの影はやや薄め。
(女性キャラで一番目立っていたのは万引き少女)

そんな薄口ヒロイン・ティナの今カレ・スティーブンが、
ぐうの音も出ないほどの聖人でした。

( ・ω・)<ぐう聖。

普通この手の映画で、ヒロインの今カレなんて妙に威圧的だったりするもんなんですけどね、

ティーブン、元カレであるジョシュに、自分はティナと関係を持っていないことをわざわざ教えるんですよ。

さらに「いつでもティナは君のことを想ってる」とか言っちゃうんですよ。

さらのさらに「(冒頭にサメ死した)親友は君のせいじゃない」と言ってくれるんですよ。
(それヒロインの役割では???)

恋敵なのに! 目の上のたんこぶだろうに!
もうおまえがヒロインでいいよ! と思ったのに、ホラー界では善行は時として死亡フラグになるものです。なりました。

上述したブレーカーのミッションにおいて、
ティーブンは自ら犠牲になりました。

この時の彼のいでたちは、サメ対策のためにありあわせの材料で武装していて、ネタにされそうですが笑う気になりません。
その死に様は、静かな静かなものでした。
人に優しくし、人のために行動し、自ら命綱であるホースを外した彼は、サメの餌食にされませんでした。
サメ映画なのに。制作陣の人情を感じます。

 

【③犬殺しは人殺しより罪深い】
ホラー映画に犬が出ると聞いて、たぶん全人類が不安になることでしょう。

犬はどうなるのか。

ご安心ください。無事です。
カップルの男が囮にしようとしましたが、大丈夫でした。

この映画、シビアな場面がありまして。
サメをおびき寄せるために、とある人物を生き餌にしたのです。
生きるための選択とはいえキツいな……と思っていたのに、犬だけ大変ご都合主義に助かった――のですが。

犬殺しよ。人殺しより悪い。


このセリフで解決しました。
そう。ホラーでは幼い子どもと動物は殺してはいけないのです。
だからまあ、サメのいる水の中に投げ込まれた小型犬がどうやったらプカーと浮かぶ板に乗って再登場できるんだよとかそんな小せえことはどーーーーでもいいのです。犬が助かれば!

(※ただしハイティーン以上はOK)

(※犬と猫は助かるけど、鳥はなんか死ぬ)

(※この線引きって深く考えたらダメなやつ)

(※ホラー映画特有の倫理観です。現実では犬も人間も同じくらい大事な命です)

 

【まとめ:最後まで堅実な『サメ映画』だった】
サメと犬の他に、もう一種の動物が出てきました。

鳥です。

鳥も重要な役者でした。
冒頭で鳴いて騒ぎ、「これから何かが起こる」という不穏さを演出する。
そしてすべてが終わり、やっとスーパーの外に出られた主人公たちの頭上、青い空を大きく羽ばたく。
救助用ヘリが飛ぶ中、静かな会話が交わされます。

「この後は?」
「やり直そう」 

 

そうして、あまりにも甚大な、津波の被害による惨状が大映しにされます。


どれほど大打撃を受けても、
それでもやり直す。
逃げられないなら、皆で立ち向かう。

 

主人公たちは画角の外なのに、彼らの大きな決意を感じられました。

 

ラストは鳥が飛ぶカット。

災害の前と変わらず飛ぶ姿に、じんわりと、「これは人間の再生の物語だったのかもしれない……」と思いました。

ホラーに限らず映画というのは、
「後悔がある過去をやり直すチャンスを与えられる」
ことがあります。

この映画も、サメによって、主人公や万引き少女がやり直すことができました。
(もちろんサメその他が来ないに越したことはないのですが)
またやり直すことはきっと可能だ、と思います。

飛んでいく鳥はきっと希望の象徴だ。
そうじわじわ感動して鳥が大海原を滑空するのを観ていたら――


サメが出てきて鳥をBAITにしました。


( ・⌓・)<希望の象徴食われたがな。


あ、うん。これサメ映画だったわ。
再確認できました。うん。

「サメ映画のくせにやるじゃねえか……」と感動していたんだけどな。うん。
(どこから目線の何様気取りなんだ)

最後の最後まで堅実にサメ映画でした。

 

【おまけの印象深すぎる場面】
①通気口からカニがうじゃうじゃ。
(集合体恐怖……)
②捕食される場面のエグさ。
(迫力があってグロい)
③藻みたいに浮かぶ死体。
(シンプルにキツい)
④最後はサメの一本釣りとSASUKE。
(ていうか水中でも撃てる銃がよく特殊車両でもない車にあったな……?)

面白かったんけど、なかなかメンタルに来る作品なので、
元気な時にでも観てください。


次回6月28日は、みんな大好きゾンビ映画の始祖、
1968年制作、ジョージ・A・ロメロ監督の
ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の話をします。
白黒でした。

 

鳥谷綾斗

映画/血を吸うシリーズ

アマプラで観たホラー映画シリーズです。

1970年公開/『幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形』(洋館もの)
1971年公開/『呪いの館 血を吸う眼』(洋館もの)
1974年公開/『血を吸う薔薇』(学園もの)

山本迪夫監督の三部作をまるっとまとめて話します。

 

 

  

 

 

 

 

【あらすじ】
美女が吸血鬼に目をつけられる。(大体これ)

 

【ひとこと感想】
これはホラー映画ではない、怪奇映画だ。

 

【3つのポイント】
①昭和レトロの浪漫あふれる画面。
②昭和のコンプライアンスどうなってる???
③美女たちよ、蹴り飛ばせ。

 

【①昭和レトロの浪漫あふれる画面】
まずは予告編をご覧ください。

 


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鑑賞の際、私は飢えていました。

最近のホラーには、ロマンが足りない。

画面がスッキリしている。画面がミニマリスト
現代日本・海外の平均的な家屋やゴミ屋敷に現れるお化けもオツですが、よく分からん事象が起こって人が死ぬという非日常を、より非日常な背景で味わいたい。
非日常を極めたい一心で、パッケージ・予告編からして非日常感あふれていた『血を吸う人形』を観ました。

したら早速、

( ・ω・)<初っ端から雷雨に濡れる洋風お屋敷きたー!

 

タクシーのメーターにすら可愛いと萌えました。
レンガでできたお屋敷、シャンデリア、テカテカ光る階段、陶器の調度品、天蓋つきベッド、「何これ掃除大変そう〜!」とニッコリはしゃげるインテリア。
『血を吸う眼』のヒロインの家も可愛かったです。台所が芥子色×クリーム色の市松模様の壁紙でした。
美女たちの就寝時はレースのネグリジェ。血に染まるのはお約束。

これだよこれ、求めていたの!

どっぷり世界観にハマりました。
ここに出てくる吸血鬼は『ヴァンパイア』ではありません。
『ドラキュラ』です。

ホラー映画ではありません。これは『怪奇映画』なのです。
(同義語は「ミステリ小説ではなく『探偵小説』」)

 

【②昭和のコンプライアンスどうなってる???】
そんなレトロあふれる昭和の風景ですが、ちょいちょいヤバい場面がありました。

『血を吸う人形』では、
若かりし中尾彬氏が、市役所の窓口でタバコを吸って、「ちょっと見せて」と職員から戸籍謄本を勝手に閲覧する。
個人情報保護法のない時代……)

『血を吸う薔薇』では、
「生徒がひとり消えましてねー流行りの蒸発ですなー」というセリフがある。
(軽ぅ。昔の学校教育法には学生の安全は含まれていなかったのか……???)

さらにもういっちょ、
若かりし黒沢年男氏が、「(痴漢に)覗かれるのは君たちがキレイだからさ。怒ることないだろ?」と軽く流す。
(教師というか人間としてどうなん???)

こういうのがあるから「昔はよかった」的な言葉には反発してしまうんですよねぇ。

ちなみに「キ」で始まり「イ」で終わる放送禁止用語も普通にありました。

 

【③美女たちよ、蹴り飛ばせ】
基本的には大満足な作品ですが、でっかい不満がありました。

とにかく美女たちが弱いのです。
雪虫以下の戦闘力でした。

ヨボヨボのおじいさんに肩を掴まれただけで体が動かなくなり、大した抵抗もせずに謎の注射を打たれる美女。
バシッと頬を叩かれただけで気絶する美女。
「誰か、誰か来て!」と助けを求めるしかしない美女。
愛する男(?)が戦っているのに見ているしかしない美女。
やっと抵抗したかと思いきや枕しか投げない(せめて花瓶を投げろ)美女。

(# ゚Д゚)<蹴 り 飛 ば せ !!!

反撃しろ! じっと見てないで後ろから追撃しろー! と飛ばす野次。
反撃ヒロインを何より愛する身にはもどかしい限りでした。

あの時代はこういう女性が求められていたんでしょうか。分からんとです。

そして何故人間が吸血鬼化したかというと、
『黒幕が死にかけた美女や美男に催眠術をかけたから』でした。
死人すら蘇ってました。あとは普通に血を吸って増えた系。 

( ゚д゚)<昭和の催眠術すごいな!?

今こんな真相にしたら絶対企画が通らない。たぶん。
当時では、『催眠術』も『吸血鬼』も同じカテゴリだったんですね。

 

【まとめ:ひとつずつ感想】

『人形』
雷雨の中、婚約者に会いに山奥の洋館に向かったまま戻らない兄。妹は兄を探し、恐怖の夜を過ごす。
肉体は死んでも執念は消えない。黒幕がそもそもの元凶すぎて、だからあのラストは溜飲が下がりましたし、何より哀しくて美しかったです。ロマンです。
見所はカラスの死に様。ド派手で素晴らしい。 

『眼』
少女時代に見た悪夢。洞窟を通った先にある山の中のお屋敷。ピアノを弾くミイラと真っ赤な目の吸血鬼。
棺桶に入った吸血鬼が運送屋に運んでもらっていた。斬新。
追い詰められたヒロインがクローゼットに隠れ、隙間から鏡台の鏡を見て誰もいないことを確認し、ホッとして出てきたら吸血鬼がずっとそこにいた、という場面が最高でした。鏡には映らない吸血鬼。ロマンです。
ヒロインの幼い身勝手さもよかったです。 

『薔薇』
若く美しい女たちが通う学園に、夜な夜な現れる吸血鬼。
婚活とアンチエイジングに勤しむ吸血鬼がいました。斬新。
血を吸うと白い薔薇が紅く染まる演出に、ロマンの粋が込められていて最高でした。
学園長とその夫人(夫人が元凶)が斃れた時、夫が妻に懸命に手を伸ばす場面は、和風な笛のBGMもあって能っぽいラストでした。ロマンです。

そしてもうひとつ。
吸血鬼たちが消える際は灰ではなく、嘔吐物のような幼虫のような溶けた内臓のような造形でした。
(『死霊のはらわた』のラストシーンにも出てくるやつ)

( ・ω・)<カルト映画のグロ造形でしか得られないロマンがある。

ロマンです。怖い映画にロマンチックをお求めの方はぜひどうぞ。

 

次回6月21日は、夏の風物詩・サメ映画の『パニック・マーケット』の話をします!



鳥谷綾斗

映画/ザ・スイッチ

映画館で観てきました。

緊急事態宣言のために4月からずっと休館だった映画館。
「なぜ公開初日に観に行かなかったんだ」と袖を噛み枕を濡らす日々でした。
そして待望の休館明け――そしてまさかの6月3日まで上映されると知り――

( ;ω;)<ありがとうTOHOシネマズ梅田さん!!!

 

 

 

日付が変わった瞬間に最高の席を予約し、感謝のフローズンマンゴーソーダをお供に堪能してきました。
やっぱり映画館最高ですね!

⸜( ´ ꒳ ` )⸝✩︎⡱

閑話休題

2020年製作、アメリカのホラーコメディヒューマンドラマです。
(原題は『Freaky』=入れ替わり映画の名作が元ネタのようです)

 

theswitch-movie.jp

 


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※はしゃいで全力ネタバレです。

 

【あらすじ】
内気な女子高生・ミリー。
父を亡くし、家では酒浸りで過干渉な母と仕事に逃げる姉に挟まれ、学校では教師にも同級生にもいじめられ、我慢を強いられてきた。
学園祭の夜、彼女は「ブリスフィールド・ブッチャー」と呼ばれる大男の殺人鬼に遭遇する。
謎の短剣で刺された瞬間、ミリーとブッチャーの魂が入れ替わった。


【ひとこと感想】
「女には向かない職業第一位は殺人鬼?」なグロコメディ。

 

 

【3つのポイント】
①約束された面白さ。
②滞る惨殺とクズしか死なない気遣い。
③見た目で判断したらダメだった。

 

 

【①約束された面白さ】
最初に予告編を見た時、

「その手があったか……!」

と思いました。

「なんでそれを思いつかなかったんだ……!」

と本気で悔しがりました。

 

入れ替わりもの自体は古典的な設定(この設定の最古の記憶は、観月ありささんといしだ壱成さんのドラマ・『放課後』です)ですが、それをホラー映画の殺人鬼とJKでやるとは。
この勝利しかないコンセプトに期待値は100。
しかも制作がブラムハウスです。
近年の「アメリカ製の面白いホラーと言ったら大抵ブラムハウス」とまで言われる安心と信頼のスタジオです。

そりゃあ期待値が10000000000にもなるさ!!!

 

【②滞る惨殺とクズしか死なない気遣い】
いざ観てみると、なんて気遣いにあふれた展開だと思いました。

何せ殺されるのがクズしかいない。

ブッチャーinミリーになってからは、承認欲求モンスターのいじめっ子女子と、高圧的なパワハラ教師などしか殺されてません。
(ちなみにこの教師にセクハラ要素が皆無だった点に固い倫理観を感じました。邦画なら絶対あったぞセクハラ教師要素。
 ちなみのちなみに変わったセクハラ要素といえば、ゲイの友達が別のゲイに無理やりキスされる場面がありました。
 これはセクハラを容認していると性別関係なく尊厳を踏みにじられるぞ、という警告かもしれない)。

ブッチャーの自己紹介シーンである冒頭でも、パーティー中の高校生が四人ほど殺されましたが、まあ「唐突に乳繰り合うカップル」と「ワンチャン狙ってる男」だからいいんじゃないですかね。
(※ホラー映画特有のぶっ壊れ倫理です。現実に持ち込まないでください)


それに巻き込まれたワンチャン狙われる女子は可哀想ですが、感情移入する前に死んだから大丈夫です。(※ホラー映画特有のぶっ壊れ倫理以下略

途中、ジョシュとブッチャー(体はミリー)が二人きりになって、「もしかしてジョシュ死んじゃうの……?」と不安になりましたが大丈夫でした! ジョシュのオカンも無事でした!

なんて気遣い。
あくまでコメディだから、という強い意志を感じました。

さて、「よし、女子高生の体になったしどんどん殺すぞー!」と超はしゃぐブッチャー。
ですが、思うようにはいきません。

元々の怪力の巨体なら余裕で殺せたのに、今は華奢な女の子の体。
最初のいじめっ子女子以外は返り討ちに遭ってしまいます。

ここで観る側もフラストレーションを感じ、ブッチャーに感情移入してしまうクールな造り。

なのでクライマックスの学園祭のダンパ、ミリーをいじめていたのにちょっとオシャレしただけでモーションをかけてくる下半身系男子が現れた時、

殺されるべきクズきたー!
やったー! しかも3人だー!

( ゚∀゚)o彡゚

と、心の中でガッツポーズ取りました。

(※ホラー映画特有のぶっ壊れ倫理観です。現実ではコンプライアンスを守ってます)

 

しかし、案外あっさりしていたのが少々残念。
個人的にはクズの股間をチェーンソーで狙うのはとても良かったのですが、もう少しガッツリ描写でお願いしたかったです。

ついでに「なぜ入れ替わったのか?」の理由が「謎の短剣(たぶんスペイン産)のせいです」というのも親切でした。
(この作品の場合、謎は余計なノイズになる)

 

【③見た目で判断したらダメだった】
野暮ったい服装でよわよわ女子だったミリーが、ブッチャーに入られ、クールなアイメイクと真っ赤なリップ、赤い革ジャンと無表情で武装したり。

ジェイソンのようなお面を被っていなくても、獲物を狙う肉食の虫のような様相だったブッチャーが、ミリーに入られ、乙女ポーズと「ぴえん🥺」な表情で右往左往したり。

変身の面白さもあって、役者さんすごかったです!

特にミリーinブッチャーの走り方が最高でした。
漫画なら「ぱたぱた」と丸文字で擬音が書かれそうな、可愛いトロくささでした。

そして何やかんやあって、ミリーは片想いのブッカーと心を通じ合わせます。(ポエムで。少女漫画の世界か)
ミリー(体はブッチャー)の隣に座り、彼は甘やかな声で彼女にささやきます。

 

「今、キスしたら変かな?」


ここで場内に失笑が起こりました。
私はと言いますと、

(   ˙-˙ ).。oO(だいぶ変です、と思いかけたけど別に変じゃないな……可愛いもんなこのミリー。いやでも体は殺人鬼なわけで……でも中身はミリーで……あれ「変」って何だっけ……?)

さらにクライマックス。
元に戻るために、ミリーはブッチャーを追いかけます。
この『大男に追いかけられる少女』という構図、「アメリカホラーのクライマックスで絶対見るやつ」なのですが、大変オツです。この作品に限っては、正義側=観客が応援する側があべこべなのです。

人はかくも外見に惑わされるもの、と再認識しました。

 

【まとめ:ジャイアントキリングで喰らいつけ】
弱気なミリーの友達が黒人の女の子・ナイラとゲイの男の子・ジョシュというチョイスがまた印象深いですね。

これまでのブラムハウス作品を観る限り、この子たちは「立場的に弱い」とされる人たちです。
(ナイラとジョシュがブッチャーに遭遇した時、「ゲイと黒人じゃ生き残れない!」とメタ発言もありました)

そんな「弱い立場」の人たちが戦う物語でもあります。

最後の最後、ブッチャーは言います。

 

「おまえになって、おまえの弱さを感じた」

 

母親の言いなりで姉の劣化版の娘だと侮蔑し、ミリーにこのまま殺されちまえと唆します。
ですがミリーは、そんな言葉に負けず、ブッチャーの股間を蹴って(リーサルウェポンとルビを打ちたい)、容赦なく串刺します。

死んだブッチャーに吐き捨てたセリフ、

 

「私はいいタマよ」

 

最高でした。
ミリーは別に弱くなかったし、いじめてくる連中は別に強くなかった。
(ミリーinブッチャーがいじめっ子男子を力で脅し、失禁つきで許しを乞われる場面もありました。自分より強いものには弱いってやつです)
恐ろしい殺人鬼すら、結託と知恵と勇気で倒せる。
夫恋しさに酒浸りになる母親も、家族が煩わしくて仕事に逃げる姉も、我慢を選択し続けたミリーも。
弱いところがあるだけで、踏み潰されるだけの存在では決して無かった。

という、私の大好きなテーマが盛り込まれていました!

 

友情と恋愛と家族愛で殺人鬼――この世で一番恐ろしいもの・『死』をもぶっ倒す。

清々しくも、ちょっとブラックなラストでした。

 

次回予告
1970年代の日本製作、
吸血鬼ものの怪奇映画、『血を吸うシリーズ』です。
ロマンがあふれて止まりませんでした!

 

 

鳥谷綾斗